めーめーさんとご子息様のないしょばなし
息が荒くなる。
壁の向こう側の濃密な空気に比べ、薄すぎて冷たくて吸っても吸っても呼吸が足りない、気がする。
シャドウが、いつも澄ました顔ばかりの真面目な執事が、オレの方をちらりと見た。口元に浮かぶ笑みはとても自慢げで。
コッチのことは見えてないはずだ。でも、きっとわかってる。
ソニックの悲鳴がかすれて、痛みに耐えるように…でもあれは快感に耐えているのだ。
二人が繋がった部分をきつく密着させて、動きを止めた。
自分の手の中にも、ぬるつく白濁が勢いよく溢れた…。
「なあ、ソニック。昨日の質問の続きだけど」
「なんだ?」
「濡れてなきゃ入らないって言ってたのって、女もガマン汁みたいなのが出てそれで、なんだよな」
「そうだな。まあ、そんなもんかな」
ソニックが午後の休憩時間にご子息様の部屋を覗けば、お茶のご相伴にあずかれる、というのがこの二人のいつもの過ごし方。
若干、香りの強い葉で淹れた紅茶は、ご子息様には1ステップ上がった気がするかもしれない。
「あれって、今は出ない?」
「シルバー…お前いまガマン汁出る?」
「出ない」
「だろうな。雰囲気を作らなきゃ。そこらへんは皇女様に任せていいさ」
「アンタって、ブレイズのこと詳しいな」
ぶへっ! と勢いよくソニックの口から紅茶の霧が吹き出した。
「けほがぼおえっほ!」
「うわあ、きたねえ!」
「おまっ…ハァハァ…、あのひとはっ、城中の憧れだから、そーゆー話は有名なんだ!」
「へぇ! そうなんだ!」
慌てたソニックが布巾でそこらをきれいに拭う。
床までこぼれた紅茶を床に這ってごしごしふき取るその様子が、なんだかちょっとムラっとするけれど、なんかしたら絶対シャドウが怖いと思うので、ニヤニヤ笑うだけにしておいた。
視線に気づくと、スカートを押さえて床にぺたんと座り込むソニック。
「シルバーなら大丈夫さ」
「ブレイズのこと?」
ソニックは頬をほんのり染めて頷いた。
そこには、いろんな意味が込められていたのだけれど、ソニックはまだ何も語らなかった。
気だるいアタマを朝の冷たい空気で覚まし、いつも通り少し寝坊でソニックは使用人の食堂に顔を出した。
「おはよー。昨日はごめん」
「あら、ソニック! もう大丈夫なの? 熱は下がった?」
「ああ、たいした風邪じゃなかったみたいだな。先週も休んだのに、悪かった」
「先週は生理だったものね。きっと来週アタシが休むからお願いするわ」
「OK, エミー」
短くお祈りしてから、パンとスープを頂く
それをエミーがニコニコ笑ってみてる。エミーはソニックの仕草が大好きなのだ。お屋敷に来た時には浮浪児同然だったのに、元気がよすぎるのに多少目をつぶれば、かなり行儀作法が出来ている。
田舎育ちのエミーにすれば、パンのちぎり方、スプーンの動かし方、何を取ってもきれいに見える。
「あーあ、ソニックってシルバー様でも釣りあったんじゃない? 貴族と使用人の恋愛なんて・・・ステキだわ〜〜どーしてシャドウと付き合っちゃったの?」
「え・・・だって・・・う、」
顔を赤くして答えられなくなるソニック。
昨日体調を崩して休ませてほしいと、そして冗談含みで妊娠したかも?と言ってみたら、真顔で「なら結婚しよう」と答えたのだ、あの男は。
それに・・・身分の差が大きな恋愛は、ステキ、とは言い切れなかった。
少し離れた場所でコーヒーを飲んでいるルージュが、心得たように笑ってる。
「まあ、元気になってくれたんならよかったわ。今日は夕方に伯爵さまのお客様が着くことになったから、大急ぎで掃除しなくちゃいけないの」
「お客様? 伯爵の?」
「珍しいでしょ」
社交界を嫌ってなかなか表に出ない人だ。最近は商談や、養子のシルバーの為に少しは動いていたけれど。
誰が来るのかは、ルージュも知らないという。
シャドウなら知っているはずだが、早朝からそのお客様の世話に出かけて行ったらしい。
「とにかく掃除! 今日はサボり厳禁よ」
「はーい」
エミーと一緒に返事をして、ばたばたと屋敷の掃除にかかる。
昼過ぎにはご子息様にも会えたが、彼もお客様が誰かは知らないという。けれど、そのお客様とシャドウが出かけている先については心当たりがあった。
「きっと、マリアの墓参りだろう」
「あっ・・・そうか。5年前・・・だったか?」
「アンタ、ホントによく知ってるな。遠縁の叔母だけど、若くてきれいな人だったんだろ? 突然の病気で亡くなったって」
「病気じゃない」
ぽつりと、でもハッキリ反論するソニックに、ご子息様の目が細くなる。大切な何かを見極める時のように。
「なあ、まだ何も言ってくれないのか? ひとりで抱え過ぎだろ?」
「シルバー、なにを」
「夜会の時、ブレイズから聞いた話がある。妹みたいに可愛がってた子がいるって。アンタだろ? 5年前に死んだって、いや行方不明になったって」
ソニックは答えなかった。けれど、ぎゅっと手のひらを握りこみ、上の方に顔を向けきつく目を閉じる・・・涙を堪えている、それが答えのようなものだった。
「5年前に城で起こったことを教えてくれよ。オレじゃ頼りないかもしれないけどさ、シャドウと一緒に守ってやるから」
「ちが・・・オレがみんなを、守る、から」
すぅ、と大きく息を吸って、ソニックが笑う。それは可愛いメイドさんというよりも、凛々しい女騎士のようだった。
「ごめん。もうシルバーは巻き込まれてるんだ。話さなきゃいけない。…でも、もう少しだけ待ってくれ」
「もう少し・・・ん?巻き込まれてるってどういう意味だ」
「城は、皇族は今、危険だ。マリアのことも、オレのことも、ちゃんと話すよ」
答えながら、思考がクリアになってゆく。伯爵が屋敷に籠るのはそういう理由か。やっとわかった。
反撃の前には準備が必要で、ソニックは伯爵にとって最強の手ごまになりえるのだ。
「でも、もう少しだけ、この家のメイドでいさせてくれよ。毎日がすごく楽しくて、幸せだったんだ」
「おい、待てよ。何言ってんだ? そーゆーことはシャドウに言えよ!」
「わぁーってるって! ありがとな、シルバー」
少し喋りすぎた。
屋敷の掃除を続けなければ、帰ってきたシャドウに何を言われるか。
こんな風に時間を気にして仕事をするのも、本当に楽しい。
「大丈夫。終わらせるつもりなんてないさ」
そうつぶやくのを聞いて、やっとご子息様が離れてくれた。
このまま幸せな日々を続けてゆきたい。
・・・生きていれば、の話だけれど。
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さて。みんな妄想してくださいwww
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