「力」を込めた剣を振るうと、ガラハッドを取り囲んでいた黄泉の大蜘蛛が黒いあぶくになって消える。火山性ガスのせいで、草一本生えないどころか、岩まで腐食して足場も最悪だ。
 以前はこれほどひどくはなかったという。大きな動物が住みにくい環境なので、低木と小鳥の楽園だったのだ、とパーシヴァルが教えてくれた。
 爆発音がして炎の川から火山弾が降る。すすけながらもかろうじて残っていた鉱山夫の村が赤い火に包まれてゆく。
 圧迫感に上を見上げると、また火の玉が落ちる。それをガラハッドは青白く輝く剣で次々と斬り伏せた。

「はあっ…! 必ず、取り戻してやる!」

 ザ・コルドロンの村に、再び民が戻れるように。



 生まれ育った場所は、ひとにとって大切なものだから。
 そう言っていたのは、父と呼べるひとだった。ガラハッドの母は、父の愛を得ることができず捨てられたしまったが、ガラハッド自身は拾われ今は大事にされている。
 父に存在を認めてもらうまで、ガラハッドは大切にできるものを見失っていた。愛されることに慣れなかった子供は、やっと得られた父からの信頼で生きる喜びを知った。
 だから、今、余計に焦りを感じている。



 黄泉の騎士が、熱い地面から湧き出てくる。
 蜘蛛よりずっと堅く、聖なる力をもってしても2度3度と斬りつけなければ消滅させることはできない。打ち落される勢いの剣を受けようと一歩下がると、間欠泉の吹き出し口を踏んでしまった。熱風に突き上げられる。

「ちっ!しまった!」

 空中で体制を整えることはできたが、下方にはさらに強大な黄泉の騎士が現れている。防御の姿勢をとっても、あの戦斧を抑えきるのが精いっぱいだ。反撃のチャンスを見極めなくてはならない。
 地面へ降りて、すかさず剣をかざす。重すぎる衝撃がガラハッドの腕にかかり、さらに後方へ跳ね飛ばされた。転がった身を起こした時には、目の前に戦斧が。

 殺される!

 そう、思わず目を閉じたときだった。
 逆向きの衝撃波と突風がガラハッドの真横をすり抜けた。正面の敵に聖剣を叩きこむ青い風。

「ガラハッド! お前、何考えてるんだ!」
「ソニック!?」

 騎士としての剣の構えはめちゃくちゃなのに、急流のように剣を滑らせて次々と黄泉の騎士を屠ってゆく。鮮やかな軌跡。
 形式に囚われることのないその姿は、父が唯一と尊んだもの。
 ガラハッドは焦ってしまう。焦りで歪んだ力では、戦っても痛みが増すばかりだというのに。





「オマエなんか、騎士とは呼べないワイナ〜」

 モルテン・マインの直前で、荷馬車を襲ってきた盗賊のボスらしき大男は、野太い声で笑いながらガラハッドに斬りつけてきた。
 盗賊どもの数が少なかったこともあり、パーシヴァルと荷馬車を先に行かせた。すぐに追いつくはずだった。けれど男の挑発はガラハッドを落ち着かない気分にさせる。
 血筋は間違いなくランスロットのものをひいている。けれど、その胤は母が無理矢理奪ったものだ。ランスロットに母への愛は無かった。のちに情が芽生えることも。
 騎士としての資質は祖父ペレス王も認めてくれたが、父がガラハッドを認めなければ、騎士の称号に意味を感じられなかった。
 そして、父は認めてくれたのだが。
 風の騎士を前にすると、もっと武勲を上げてさらに強くなったと認められたい衝動が抑えられなくなる。





 地に倒れたままだったガラハッドの腕を、ソニックが引っぱり上げた。
 助けられた礼を言うことも忘れて立ち尽くすガラハッドを、ソニックは厳しい眼で見つめる。

「ひとりで火口まで行く気だったんだろう? …あそこにいるのはレッドドラゴンだ。ドラゴンズ・レアにいたアースドラゴンよりもさらに強いぜ?」
「一刻も早くこの炎を止めなければ、ザ・コルドロンの人たちも、モルテン・マインの人たちも、安心して暮らせない。そうだろ!? だから、オレがあいつを倒さなくちゃならないんだ!」
「話が違うんじゃないか、ガラハッド。今、お前はどういう目的で火口へ向かってる?」
「それは…オレならできると思ったからだ!」
「みんなで決めた約束を破っても、か」

 ソニックの手に作られた拳が、一瞬強く握られた。全身を震わせて深く息をする。ガラハッドは殴られることを覚悟したが、その拳は振り上げられることがなかった。
 恐る恐る顔を上げると、ソニックは何かを思いついたように、ニヤリと笑っている。

「OK. ふたりで行こう。お前の力を貸してくれ、いや、お前が必要なんだ。ガラハッド」












つづく







2009.07.23


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