モルテン・マインまであと1日という頃になって、荷馬車の後ろを追う馬の影がちらついた。
 荷台の上にいたソニックが背伸びでそれを確認する。

「何だ、盗賊じゃないみたいだぜ?」
「騎士でもないな。義賊か」

 応えるガラハッドの声に緊張が滲んだ。
 かつてモルテン・マイン付近を治めていた王や豪族は、酷く高い税を民に課していて、その支配者階級を襲う義賊が横行していたのだ。アーサー王が治世を敷いても、民は義賊を頼りにし、集団としての士気は高い。
 身構えていくらもしないうちに、遅い荷馬車の周りを武装した集団に囲まれてしまった。前方を阻まれ、パーシヴァルが手綱を引いて馬を止めた。

「何の用だ? 私たちはアーサー王の命により、物資を民へ届ける任を…」
「円卓の騎士、パーシヴァル殿ですね? 後ろにいる青いハリネズミをこちらへ渡してもらえるかしら」
「はあ!?」

 唖然とする3人の前で、義賊の頭目らしき女が真新しい羊皮紙を開いて見せた。
 古今東西、こういうものは犯罪者の手配書だ。描かれていたのは極悪人顔のソニックで、捕らえたものには報奨金…かなり0が並んでる額だった。

「なんで、オレが手配されているんだ!?」
「パーシヴァル卿とガラハッド卿が荷馬車で連行中の罪人が、盗賊相手に大暴れしてるって、ここ2,3日の噂はそればっかりだったわよ」
「知名度低すぎるんだよ、風の騎士」

 呆れた口調でガラハッドがつぶやくと、ソニックを守るように義賊の前に立つ。
 だが、義賊を相手に円卓の騎士が戦うとなると、この土地でいい噂が立つとは思えない。悪辣な支配者と戦った義賊の方が人気があったりするものなのだ。
 にらみ合いが続き、それを崩したのはソニックの突出だった。包囲の薄い崖になった斜面へ駆け上る。

「積み荷をモルテン・マインの民の元へ届けろ。その後のことも手筈通りだ。頼んだぜ!」
「待て! オレも」
「ついてくるな!」

 ガラハッドが慌てて援護の魔法を使い義賊の足を止めた。その一瞬の隙にソニックは反転し、元来た道を青い風になって走ってゆく。
 罪人の手配書は本物だった。戦いを回避する方が賢明、それは正しい判断だろう。
 舌打ちをして魔法を解いてソニックを追おうとすると、パーシヴァルは怒りに満ちた制止の声を上げた。

「王の、命令が聞こえなかったか、ガラハッド。私たちはこの荷を飢えた人々のもとへ届けなければならない」
「しかし!」
「民を救うのが目的だ!私たちは行かなくてはならない」

 荷馬車を取り囲んでいた馬の列が崩れ、ソニックを追って動き出した。
 乱戦が得意な連中だ。王は強い、心配いらない、黄泉の騎士相手ならばそう言いきれる。けれど、義賊とはいえ国の民、手加減しつつ戦うのは容易ではない。

「では、失礼。私たちの狙いは積み荷なんかじゃないの。もっとも、護衛が減ればこの先どうなるかわからないけど」

 義賊のしんがりを務める頭目の女は含み笑いを残して、荒れた道に馬を走らせて去った。

 崖と谷底にその足音が反響して、やがて風の音にまぎれて消えるまで、ふたりの円卓の騎士は立ち尽くしていた。












つづく






2009.07.22


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