頭の後ろから鉄串で押さえつけられる衝撃に襲われ、地面に這いつくばる。
あたりに焦げた臭いが立ち込めた。
ドタドタと駆け寄ってくる聖騎士の足という足が、転がったソニックの体を次々と踏みつける。
「案外手こずらせたな。狼の血が混じってるという噂も嘘じゃなさそうだ」
「そうか、あのババァ…聖杯使って、オレの血で乾杯する気になってたんだな。大した司祭サマだぜ」
「お前もようやく神の御許へ行けるじゃないか」
「…拷問にかけて、殺すんだろ?さっさと指を切り落とせよ」
「黙れこのドブネズミ。そうだ、こいつには恐怖よりも辱めの方が効きそうだな」
「ば、ばか、触るな!どいつもこいつも聖職者なんて嘘っぱち…あう!」
ざくり。
首筋に新たな十字が深く刻まれた。
悲鳴を上げそうになったが、喉に達する傷が血を肺に落とし、血の泡を吐くしかできない。致命傷…だが、即死にはならない。
司祭が欲した身体を試そう、死ぬ前に一つくらい誰かを愉しませろ。
とかなんとか言ってる。もうすぐ死ぬのなら、試される前に死にたいと思ったが、ソニックの知る神様は望みを裏切るのがお得意だ。
頭のトゲを左右から掴まれ、引きずられて運ばれる。膝が擦れる痛みを、まだ遠くに感じる。案外、死ににくいのかもしれない、タフな身体に笑ってしまう。
放り出されたのは床の上。…さっきの教会の中だろう。
ごろりと身体を上向けにされた。両腕を抑えられ、足を大きく開かされた。厭らしく笑う男たちの顔の隙間から、青いステンドグラスの天窓が見えた。
月の光を受けて青白い柱を作り、埃の舞う床の上…暗い影から緋色のマントが揺らめいて。
シャドウ…!
声は出せなかった。
また、全身に沸騰するような熱が生まれる。可笑しい。まるで思春期の初恋みたいだ。
ソニックにのしかかろうとしていた聖騎士3人が吹き飛んだ。頭を動かして力の主を仰ぐように見ると、赤い燐光を纏った吸血鬼。
僅かに笑む形に開いた口元には鋭い犬歯が覗く。
「またキミか。騒々しいな」
騒々しいのはオレのせいじゃない、瞳だけでソニックが訴えると、シャドウの赤白く輝く手袋が何かをひねるように動き、壁際で悶える聖騎士の首があらぬ方向へねじ曲がり、絶命した。
すぐ横で狂った悲鳴が上がり、必死で首に下がった十字架を掴んでシャドウへ向けた。が、シャドウは眉ひとつ動かさない。
「カミサマ…カミサマァア!」
「そんなもの、ボクには無意味だ」
指をはじくと、赤い光の矢が十字架ごと聖騎士を粉々に砕いた。逃げようと扉に殺到する者にも矢を撃ち、消してゆく。
最後に一人残った男が、ガチガチと身体を震わせながら、腰に下げてあったピストルを手に握る。銀の弾丸だ。シャドウの顔色が変わるのを見て、男が勝ち誇った奇声を上げる。
「こ、これは、キくんだ!オマエを、殺せる…この悪魔!!!」
男が涙を撒き散らしながらピストルを構えた。シャドウは構えるでもなく、その身を無防備にさらしている。
やめろ、シャドウを殺さないでくれ!
そう、必死で引っ掻くよう手を伸ばしたソニックの視界に、青いドレスが揺れた。金の髪が眩しく輝いて、シャドウの姿を覆い隠す。
…さっきの、夢の続きだった。
乾いた破裂音の直後、シャドウの代わりに銀の弾丸を胸に受けて、マリアのかりそめの命は終わり、霧のように消えてゆく。
薔薇色の頬をして。
なぜか、マリアはソニックに微笑む。背後に守ったシャドウではなく、確かに、床の上に転がったままのソニックに向けて、
「お願い。彼を愛して」
優しい声はソニックの耳にこだまして残る。
マリアの形の霧が晴れた場所には、シャドウと聖騎士が向かい合っていた。
つま先に力が集まる。
騎士の指がピストルのトリガーにかかった瞬間、ソニックはマリアと同じように、シャドウの前に飛び出した。最期の力を振り絞って。
止まりかけの心臓を銀の銃弾が貫いた衝撃は、間違いなく死へのカウントダウンをゼロ近くまで運んでいる。
シャドウの赤い瞳が驚愕に見開かれて、次に、激しい怒りが赤く赤く燃え上がる。
…それでも美しい…
つづく
2009.06.17
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