その後、数秒だろう、ソニックの記憶は途切れている。


 気付いたときに、柔らかな白い毛に顔をうずめていた。
 他に何の物音も聞こえない。

 暖かなシャドウの指がソニックの首の十字傷に触れると、できなかった呼吸が甦った。


「…あ」
「何故、こんなことをした」


 指は胸の銃創にも触れた。傷の痛みが弱くなったのはわかったが、ソニックが瀕死なのは違いない。


「何故ボクを庇った。あのまま死んでも構わなかったのに」
「ハハッ… 死ぬ前に、一度くらい、オメデタイことをしても、いいじゃないか」


 マリアの願いを叶えてやったのだ。シャドウを愛せ、と。

 生まれてこのかたそんな感情を持ち合わせたことの無かったソニックなのに、だからこそマリアは、聖母の名を持つ彼女はこの悪魔を託したのかもしれない。僅かな間でも、彼女はソニックに愛を教えてくれた。
 この吸血鬼に、命を投げ出せるほど心惹かれているなんて。男女の間なら一目惚れの一言で済んだのに。

 いや、それは関係が無い。惹かれている理由は確かにあった。


「シャドウ…は、きれい…だ…なぁ…って…」


 声が潰れて音になったかわからなかった。
 すべての感覚が閉ざされてゆく中で、頬に温かな雨が落ちることを、最期に抱かれる腕があることを、真実のしあわせに感じる。





 糸の切れた操り人形のようになった身体が、強く引き揚げられるように抱きしめられた。


「うつしよに別れを告げるがいい。汝、ソニック。キミをボクのものにする。…死に損ないだが、味は良さそうだ」


 甘い、砂糖菓子の匂いが立ち込める。


 天に昇るというのはこういう感覚か、とソニックは思った。
 首筋の2点から甘い痺れが性感帯を伝って全身に広がる。
 やがてそれは強烈な絶頂感に変わり、頭の中が真っ白に焼けてゆく。



 悪魔の洗礼。
 永遠に続く、2人の時の始まりだった。










ちょっぴりつづく






2009.06.18