がくがくと足が震え、崩れ落ちそうになる身体を、黒い腕が抱いて支えてくれている。
この状況からわかることは、相手は似たような背恰好だということ、ソニックよりは強いということ。
そして、何より驚いたことがある。
「吸血鬼の体って、冷たくないんだな」
ふわりと柔らかな胸元の被毛に、ソニックは顔をうずめた。心臓の音は聞こえない。けれど、耳を当てたその場所は、確かに温もりがあったのだ。
きっとマリアも温もりが欲しくて、この吸血鬼に沿っていたのだ。隷属なんかじゃなくて、彼だけを求めていたのだ。それをシャドウは気付いていたんだろうか。
自らが吸血鬼であること、マリアを吸血鬼にしてしまったこと、その宿命に縛られすぎている。
互いに恋をしていたはずなのに、悲しいじゃないか。
「あの女の子はどうなったんだ?なんで今ここにいないんだ?」
「そうか。キミの中に眠っている血の力が、ボクの過去夢を反射したんだな」
「な、何言ってるんだ? マリアはいったいどこへ」
「死んだ」
ぶっきらぼうに言い放って、影のような黒がすうと離れてゆく。ソニックを支える腕が無くなった。
幻術…過去夢を受けてふらつく頭を軽く振って、翻るマントをぼんやりと眺める。
マリアが、吸血鬼が、死ぬ。十字架か、太陽の光か。いずれにせよ聖職者かハンターが始末したということだろうか。
離れてゆく後ろ姿を見て、改めて驚いた。本当にソニックとよく似た姿だった。鮮やかな血の色を引いた漆黒の針の色にまた心を奪われる。
「帰れ。二度とここへ来るな」
突き放す口調が厳しい。けれど、恐れは感じなかった。それどころか。
マリアが、吸血鬼になる前から、この悪魔を愛していた理由が、よくわかる。
彼は、とても美しくて、そして…
「やさしいじゃないか、シャドウ」
わずかに気配が動いた。嘲笑だったのかもしれない。そして祭壇の後ろのステンドグラスの青い光を受けると、霧のように滲んで消えた。
震える指で首筋を確かめる。噛み傷はどこにもない。あの吸血鬼の気まぐれにせよ、助かったには違いない。
長いため息をつく。
激しい脱力感に重い身体を引きずるようにして、ソニックはひどく暗い教会の外へ出た。
つづく
2009.06.15
--- もどる ---