「静かすぎるぜ…まぁ、吸血鬼が出る村なんて誰も行こうなんて思わないからな」

 人どころか鳥や虫の声もない寂しい荒野を駆ける。道などとうの昔に消えている。

 なのに、その村へ抜けるため通る森には新しい足跡が無数に落ちていた。
 ソニックは楽しげに口元に笑みを浮かべると、草の上の足跡を追う。
 森に入っていくらも進まないうちに、木々や下草の影から、統率されていない10人ほどの気配がソニックを囲んでいるのに気付く。相手は隠れているつもり、らしいのだが。

「出てこいよ。遊んでやるからさ」

 呼びかけると、バラバラと姿を現す、背の低い子どもたち。

「……とうさんかあさんのカタキ!やああ!」
「しねぇ!しんじゃえー!」
「きゃああっこわいよう!」

 慌てるでもなく剣を抜くと、木の葉が落ちる程度のお粗末な攻撃を、少々乱暴に撥ね返す。子どもたちは必死で棒きれを振り回して向かってくる。その奥にはちいさな女の子がおびえたネズミのように震えていた。
 町の混乱の中、大人たちに逃がされたのか、なんとか町を抜けだしたものの、こんなところで見つかるようでは全員皆殺しになるのは間違いない。
 とりあえず、何度も必死で歯向かってくる子どもの武器を叩いて落とし、戦意を殺いでから小声で言った。

「お前たち。この先の、吸血鬼が出る村へは行くなよ」
「…え? だって」
「オレがそいつを退治するんだ。ってヤツがオレの後にも続々やってくるぜ」

 呆けた顔の子供たちが、はっと互いに顔を見合せ、さらに不安げな眼をソニックへ向ける。つい、と剣で町とは反対側の暗い森を指した。

「道を外れて森に隠れろ。足跡は消していくんだ。聖騎士に見つからなければ生き延びられる」

 それだけ言うと、ソニックは子どもたちを置いて先へ走りだした。
 運があれば生き残る、なければ死ぬ、それだけのこと。生き残るチャンスは与えたけれど、本当に生き残れるかなんて誰もわからない、神のみぞ知るというところだ。
 思ってから、くくっと笑いだす。神など信じてはいないくせに、と。



 森を駆け抜けると、だだっぴろい荒れた草原に出た。
 そこに見えたもの。
 町の教会にあった記述通りの、崩れた家が数件。
 それと、そこだけ時が止まったかのように、50年前に建てられたらしい小さな教会…ただ、屋根の上の十字架は消えていた。

 無人のはずなのに妙な気配がする。
 ビンゴ!と声をあげたいのを抑えて、抜き身の剣をぶらぶらさせながらそっと教会へ近づいた。
 すん、とあたりの匂いを嗅ぐ。一歩進むごとに、焼き菓子…ジンジャークッキーの匂いが漂ってくる。


 オルガンの音もかすかに聞こえた。











つづく






2009.06.12


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