そこに、かつては村があった。

 麦を作る農家が数件、山羊を飼う家が数件。
 教会があり、敬虔な牧師と歌姫の娘が居り。
 小さな村はささやかな実りを称えて、小さな幸せに満ちていた。

 しかし。

 50年ほど前に、流行り病ですべてが死に絶え、以来その村にはある呪いがかけられたという…。






ときのよどみに






「面倒だなあ。さっさと終わればいいのに…異教徒狩りなんてただの殺戮じゃないか」

 教会のてっぺんへ駆け上がり、天井にぶら下がった鐘をたたき落とした。
 ガラガラン、ゴワン!!!
 壊れながら地上に落ちてゆく轟音が、町の外で待っている聖騎士たちへ合図だ。


 宗教対立から始まったいさかいは、強者が弱者を踏みつぶす十字軍の遠征につながる。
 神の名を語る大軍は、街道を進み、小さな村、大きな街、関係なく力に任せて突入し、コミュニティの中心である教会をたたき潰す。
 家々に押し入り、聖書を奪い取り、広場で一斉に焼き尽くす。逆らう男は容赦なく殺し、女は犯す。子供は、面倒になったら聖書と一緒に焼いてしまうのだ。

 そんな、血に酔った行軍にソニックは心から厭いていた。

 異教徒狩りではいつも先頭隊にいる。いつ死んでも良い使い捨て部隊だが、死なない限り手柄は増える。
 風のように突入し、問答無用で異教の牧師を粛清し、鐘を落として後発の軍隊を呼び寄せる、そんな役どころだ。
 けれど、殺戮には全く興味を持てず、最初の数回の戦闘以降、教会を占拠した時点で任務を放棄するようになった。焚書直前まで牧師の日誌なりを眺めるのが楽しみになっている。


 その日もソニックは崩壊する異教徒の町を横に眺めつつ、教会に残る町の古い記録を漁っていた。
 書棚に並ぶいくつもの日誌、その奥に隠された1冊のノートを手に取ると、そこにソニックの血を騒がせる面白い記述をみつけたのだ。
 町はずれのさらに向こう、50年前程前に流行り病により放棄された村があり…。

「吸血鬼が住み着いた、だって?これは行ってみる価値がありそうだ」

 ひとりごちて立ちあがる。ソニックは自由を望んでいたが、それは手柄による出世でしか手に入らない。この手の情報は可能な限り利用したかった。ヴァンパイヤハンターの称号を得て十字軍での地位を手っ取り早く上げられれば、もっと自由を振舞える。

 教会を飛び出し、町へなだれ込んだ十字軍が殺戮や強姦を平然とやってるのを横目に走り抜け、淀みのない風が吹く街道はずれのさらに向こうへ…。












つづく






2009.06.11


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