川を下ると大きな滝にたどり着く。水の落ちる先は深い渓谷。
谷の向こうは遠いが、久々に眺めたその場所にポポは眉をひそめた。
「乾燥してる。森の力が衰えてる。どうして?」
「火事は数年前から続いてるんだ。南の森では住める場所を求める森の民が、木々に力を与える為に時折森を焼く。生きる為に」
「それでもこんなに酷くはならないはずだよ。森の民が増えすぎたかな」
「それも、ある」
いつものソーマなら、ただ南の森の民を救うために火事を消そうとは思わない。自然の摂理に逆らうことは無い。
なら今回はかなり私情の入ったことなんだろう。何も言わないソーマの不器用さは相変わらずだ。
「日が暮れる前に、この谷を降りるぞ。じゃないと夜を越す場所が無いからな」
「えー!?…ソーマひとりで蝶になって渡った方が本当は早いんじゃないの?」
「風が強すぎて蝶は渡れない。俺ひとりだってこの渓谷越えは嫌だぞ。ロープの先に二人分の体重を乗せなくちゃ、向こう側に飛べないんだから」
ソーマはさっさと切り立った崖を降りてゆく。ポポもそれ以上は言わず、ソーマの後をついてゆく。
足元の岩が崩れたり、ロープだけの橋を渡らなければならなかったり、まともな者ならこんな谷を降りようとは思わない。
「落ちたら光になっちゃうかな?」
「きっとな」
「落ちたら拾ってくれるよね?」
「それはどうだかわからない」
「酷いなぁ、ソーマって」
軽口をたたきあいながらも、ふたりは呼吸だけで迫る危険を避けて行ける。
ポポはソーマの多くの経験を信じているし、ソーマはポポの天才的な勘を信じている。
「ちょっと危ないけど、やめられない気がする」
足元に何も無い場所で長いロープにしがみつきながらポポが呟く。
二度、三度、ソーマが崖を強く蹴ると、大きく視界が揺れて、対面側の崖が間近に見えた。
「それは相手が俺だから、だろ?」
四度目、強い風の力も受けて、ふたりは掴んでいたロープを離した。
3へ続く。
2006.04.16