Nightmare -1
一度だけ、母に聞いたことがある。
「どうして僕は、コーディネイターじゃないの?」
と。
父は、自分を屋敷の外には出したがらなかった。
母は、父に負い目があるのか、決して父に逆らえなかった。
父はいつも多くの人間を従えていたが、その多くは父ではなく、父の持つ金が目当てだったに違いない。
だからへつらう。
息子である自分へもへつらう。
が、本心は違う。
母が泣いていた。悔しそうに泣いていた。
父の取り巻きの一人が嘲笑った。
「あの子供、見かけはいいのに中身がアレじゃあな」
それくらいなら平気だ。
いつものことだから。
奴のあざけりは続いた。だから母は泣いた。悔しそうに泣いた。
「母の胎が悪かったのだろう?父親は優秀だからな」
僕は、本当に遺伝子操作を受けていたのだろうか?
もしかして、医者が遺伝子操作を忘れて、母の胎に戻したのではないだろうか?
それなら、母は悪くない。
そうではなくて、僕の遺伝子が最初から壊れていて、ちゃんと育たなかったからではないだろうか?
それなら、母は悪くない。
父も、母も、悪くない。
悪いのは、ナチュラルに生まれてしまった僕だ。
解かっていたのに。
父は、ナチュラルの僕を愛してなどいなかった。
母も、ナチュラルの僕を愛してなどいなかった。
あの日。
僕に似た誰かが家に来た日。
その誰かが、コーディネイターだと解かった時。
言ってはいけなかったあの質問を、母にぶつけた。
「どうして僕は、コーディネイターじゃないの?」
それでも、僕は、父と母を、愛していたのに。
泣いている子供、泣いている子供、
抱きしめてくれた大きな手は誰のもの?
泣いている子供、泣いている子供、
涙を払ってくれた優しい手は誰のもの?
next?
2003/08/19 UP
--- SS index >>NEXT ---