Nightmare -2
「行きましょう。立てますか?」
キラが差し出した手の、真っ白なグローブが、視界に鮮やかに焼きついた。
全ての元凶は俺だ。
俺が、父の、望み通りの子に生まれなかった、そのせいで。
姿勢を変える度に感じていた痛みが鈍く変わっていく。
何も解からなくなるのは嫌だ。痛みの方がまだマシだ。
「…おっと。重いだろ?すまないなぁ、ヘマばかりで、お前に助けられてばかりだ」
「いいえ、そんなこと…。あ、止血しますか?」
「もういいよ。あと少し経ったら、かさぶたができちまうわ」
やっと、キラが少し笑う。
俺を支える力も強くなる。
「アイツのヨタ話、信じる気にはならないが…それでも、キラを育てた親が優しい人だというのは解かるな」
「毎日怒られてばかりでしたよ」
「お前、できるのにサボってばっかりだったんだろ?」
「…なんで解かるんですか?」
「あー、当たり?」
何も知らない、幸せな子供だったのに。
ヘリオポリスから戦争に巻き込んで、今は自分から戦いに身を投じて。
何も知らなかった頃には戻れない。
こんなに、根深いところで、キラと繋がりがあったとは、思いもよらず。
全ての元凶は俺だった。
「俺は、キラのこと好きだぞ」
「…いきなり、何言ってるんですか?」
「優しいし。時々抜けてるけど、自分の考えをしっかり持っててさ」
「そーゆーことはマリューさんに言ったらどうですか?」
「言ってるよ。似てるんだよ、お前ら」
「僕は、ムウさんよりも女の子の方が好きですよ」
「俺もだよ!」
通路を抜けると、赤茶けた地面。
乳白色の空。
振り返ると、そこは、どんな時間にも風化しない程の、圧倒的な建物だった。
こんなところで。
命を作っていたなんて。
こんなところで。
俺たちが産まれたなんて。
コロニー全体が大きく振動している。
ヤバイな。
地球軍か、ザフトか、どっちだ?
「ムウさん、ストライクのコクピットはまだ耐えられますか?」
「ああ。ストライクは結構頑丈だよなぁ」
「そうじゃなくて、ムウさんの身体が耐えられるんですか?」
「平気だっての。なんなら操縦して帰ってやろうか?」
キラの眼が本気で怒り出している。
ほらねぇ。そーゆーところがちょっとマリューに似てるんだ。
「ウソ。頼むわ。アークエンジェルまで引き摺ってってくれる?」
「わかりました」
ストライクのコクピットまで、キラに引っ張り上げられて、シートに落ちるように座る。
シートベルトを締めようとするが、指先が痺れてなかなか上手くいかない。
キラが素早く降りてきて、代わりにやってくれる。
「それじゃ、コクピット閉じます」
心配そうな紫の眼。
大丈夫だって。
手を振って、応えてやる。
コクピットが閉じてから、電源を上げる。
安全装置は正常に働いている。
モニターの一部が壊れてる。幸いにも、コクピット内を映すカメラも壊れてる。
通信は生きていたが、切ってしまった。
一人になると、急に傷が鈍く痛み出す。
ヘルメットは被らず、パイロットスーツの前を軽くはだける。
脇腹辺りを強く押さえて…止血はムリだな、これは。
耳鳴りが煩い。
フリーダムに連れられて舞い上がる。
バスターと合流する。
茶色の大地が終わり、エアロックを潜りぬけると、メンデルの港は空。
進む、更に先に、戦場の光。
足手まといだな。いつまでたっても、俺は―――
望み通りの子。
キラ、お前は何を望まれた?
ヒトの未来を、よりよきものにする為に?
それは、俺が望み通りの子に生まれなかった為の、代償。
next?
2003/08/19 UP
--- SS index >>NEXT ---