再会の前の再会3


「…クロイツ、お前…」
その後は言葉が続かないエヴァンに、クロイツは口の端だけで笑って(エヴァンに言わせればイヤミ笑いをして)ブランドルの方を向く。
「ご苦労。この先で怪我人の治療をしている。お前も行ってこい」
「自分はかすり傷ですから…」
「いいから行け!」
はっ!と反射的に敬礼をして、通路の先へ向かうブランドル。

「地導師を呼んで来いとは言ったが、まさかまたお前を連れてくるとは思わなかったな」
「おれだって、まさかここにオマエがいるとは思わなかったさ!」
言っていることは以前と変わり映えしない二人。
口調は多少違っている。でもそれは、戦いの疲労のせいかもしれないが。
「とりあえず、協力に感謝する。脱出の方も頼むぞ、新米地導師」
「あのなぁ〜他にも言うことあるんじゃ…」
詰め寄ろうとするエヴァンの疲労がスゥっと解ける。クロイツが『ミケロマ』をかけたのだ。
「ちゃんと報酬よこせよっ!」
「今の呪文で十分だろう。後はボランティアだ」
「…冗談だろ?」
「冗談だ」
一瞬絶句するエヴァン。
そんな二人のもとへ、坑道の先から10歳くらいの女の子がブランドルに守られて歩み寄る。
「あ、あの、ごめんなさい…。こんなのが出てくるなんて…」
そこまで言うと、涙で言葉を詰まらせる。余程恐かったのだろう。
「なぁ、なんでこんな所に入り込んだんだ?」
エヴァンの問いかけに、女の子は腕に抱いた小さな生き物を解き放つ。
「キャロ?」
「かわいかったから、飼いたいってお母さんに言ったの。そしたら、ダメだって…。だからここでナイショで飼おうと思って…」
キャロはその子にとても懐いているらしく、足元にまとわりついたり、肩まで上がり体を頬に摺り寄せて甘えている。
「そっか、そこでこの事故か…。もう大丈夫だぜ。すぐに外に出られるさ」
女の子が安心したようにエヴァンを見上げると、キャロも嬉しそうに鳴き声を上げた。
クロイツが素早く部下に指示を与える。
「ここも落盤の危険がある。奥のジオポイントまで急ぐぞ。もうモンスターは出ないとは思うが、念のため警戒を怠るな。先頭はブランドル軍曹、残り3名は交代で子供を背負い、守りながら続け。次に地導師。最後に私が行く」
軍人達が敬礼で答える。エヴァンから見ても、申し分の無い上官だと思う。今は。

坑道奥のジオポイントまでの道程は早かった。男の足でサッサと逃げ出すだけだ。
エヴァンは後ろを走るクロイツに言いたいこと、聞きたいことがたくさんあったのに、結局はほとんど何も話せなかった。
ジオポイントでゲートを開こうとすると、上から振動とともに坑道が崩れる音が聞こえてくる。
「早く戻ろうぜ、エヴァン!」
ブランドルが行きと同じく急かす。
「揺れが収まるまで待て。地脈を安定させる」
皆が不安そうに見つめる中、背後に大きな存在を感じているエヴァン。
何故か焦りも不安もない。
ふと、昔にもこんなことがあったのを思い出す。クロイツがまだ自分達の仲間であった頃と同じ、不思議な安心感…。
自分の気が強くなり、足元の地脈が言うことを聞くようになってくるのを知覚して、一気にジオゲートを開く。
「…もういいだろう。全員鉱山の外へ連れて行くからな。いくぜっ!」
青白い光が、今度は7人を包んだ。


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