Angel Snow





紅白歌合戦から演歌が続き、最後の蛍の光。
画面が変われば静かな山寺の除夜の鐘。

棋譜を集めたファイルを手に、「今年もありがとうゴザイマシタ、来年もヨロシク」というと、リビングでくつろぐ両親は揃ってお茶を噴出した。
何改まってんだ?って笑い飛ばされる。
何も知らないわけじゃないと思う。俺の両親だもの。信じて放っておいてくるのが嬉しい。

吹けば飛ぶような将棋の駒に〜

鼻歌を歌いながら部屋に戻ると、凍えるような寒さ。この部屋の低い屋根の上、もう雪が降り積もり始めているのだろうか。電気ストーブのスイッチを入れても当分温まりそうに無い。
スタンドの明かりをつけて、ファイルに目を落とす。
探しているものはきっとこの中にある。きっと、ある。

こーん・・・どこからか、鐘の音。
雪に吸収されずに届いたそれには強い芯がある。
しなやかで強い。
親友みたいに。

ベランダに続く窓を開けると、冷気と一緒に小雪が舞い込んだ。

迷って、悩んで、どうしようもないほど傷つけてしまった。
真実にたどり着けば、こうなることが解かっていたのに。

このまま凍りついてしまってもいい。許しを請うなんてできない。

こーん、また除夜の鐘。響いてくる先を探して視線を転じると、店先の街灯の下に人影があった。
はぁ、と漏れる息が真っ白に染まって、やがて透明になる。

「緒方」

呼ぶと肩に積もった雪がさらさらと落ちた。
まっすぐ見上げて、小さく手を振る。

「何だよ、入って来いよ」

首を振って、済まなさそうに笑った。

「顔が見たかっただけなんだ」
「俺がここ開けなかったら、どうするつもりだったんだ」
「島崎」

息を吸い込むと痛いほど冷たいのに、まっすぐに届いてくる温もりはなんだろう。
まるで定石破りの一手のように。

「今年もよろしく」

新しい年は、ふたりで始まった。




おしまい。








中学1年ならこんなもんだろ。

2006.11.13


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