web拍手、跡地その2。
恋のつぼみ 5つのお題。
starry-tales



1.一緒に居よう

「みやはらのおにいちゃん、なにやってるの?」

 校門前で出会った女の子。赤いランドセルが他の子よりも大きく見える。

「芦川待ってるんだ。アヤちゃんも一緒に待つ?」
「うん」

 門扉横の花壇の端に腰掛ける。
 アヤちゃんが隣に座ると爪先が地面に届かなくて、足が揺れるたびにかかとからコツコツ音がする。
 もうヒトツ大きな荷物を手の中に抱えてるのに気付いた。

「なあに?それ」
「としょしつでほんをかりたの。ほら」
「おっ!かにむかし!」
「しってるの?よんだことある?」
「あるある、いつも弟と妹に読んでるよ。アヤちゃんにも読んであげようか?」

 大判の絵本を開くと出てくるオナジミのかにの絵。

 むかし むかし、かにが はまべに でたところ、
 すなのうえに かきのたねが ひとつぶ おちていた。・・・

「宮原、お待たせ。アヤちゃんも一緒なの?帰ろうか!」

 芦川と三谷が僕らの前に立った。遅いんだよ、職員室にプリント届けるのにどれほど時間かかるのさ。

「アヤちゃん、帰ろっか」
「もうすこしだけ!さるがどうなるのか、よんで!みやはらのおにいちゃん!」

 アヤちゃんの瞳がキラキラしてる。芦川と三谷が顔を見合わせて小さく笑った。
 じゃあ、もう少しだけ、一緒に居ようか。







2.裾を掴む頼りない指

「アヤはおともだちとあそんでくる!」

 アヤちゃんが教室を飛び出した。小さな手をブンブン振って、
 ふたりのおにいちゃんが図書室に寄り道していくのを見送ってる。

「健気だね。そこまであいつらに気を遣うこと無いのに」
「けなげ?ってなぁに?」
「一緒に遊んでもらえばいいのに。おにいちゃんも三谷も好きでしょ?」
「うん、でも、アヤはとしょしつよりも、おそとであそびたいもん」

 小さいのに強がってる。知ってるよ、俺は。
 腰くらいまでの高さしかない頭を撫でる。このツインテール、芦川が結んでるのかな。上手いな。
 小さな指が服の裾を引っ張る。すぐ離れてしまうほど、弱く。

「またうちの弟と遊んでやってくれる?」
「うん」

 この指、手をつなぐまで、どれくらい時間がかかるのかな。







3.チクリと痛んだ気持ちの行方

「アヤがいちばんすきなひとはおにいちゃん!」

 やっぱりなぁ。そんな気はずっとしてたけど。

「ボクのおにいちゃんだって、かっこいい!」

 弟よ、誉めてくれてありがとう。

「アヤのおにいちゃんはおんなのこ1000にんぎりだよ!」

 誰がそんなこと言ってたんですか?三谷ですか?

「ボクのおにいちゃんはヘンシンしてジャマンガを1000にんたおす!」

 すいません、それは言いました。でも嘘です。

「アヤのおにいちゃんはすききらいないよ。ピーマンだってたべるよ」

 それは半分嘘だ。あいつ、アヤちゃんの前だからムリして食べたんだ。

「ボクのおにいちゃんはくちからひをふくぞ!」

 ふざけてドラゴン花火を口に咥えました。煙たかったです。

「うそだぁ!」
「ホントだってば!」

 アヤちゃんの疑いのマナコが俺の胸に刺さりました。







4.涙の訳に気付かずに

『ごめん、気付いたら弟と寝ちゃってたんだ』

 電話の向こうで芦川が迎えに行くと言ったんだけど、誰もいない家に帰るのって、淋しくない?

 起こしてみたけど、まだまだ眠そうだったから、負ぶって送ることにした。
 力なく背にもたれる小さなかたまり。
 子守りは好きなんだ。暖かくてきもちいいから。これは本当。

「ゆたろ、…おにいちゃ…ん」

 起きたかな?振り返ってみると、アヤちゃんの目はまだ閉じられたまま。
 でも、あれ、泣いてる。

「アヤちゃん、怖い夢見た?」

 答えはなかった。深い吐息、寝息が続く。

 うーん、女の子は謎だ。こんなに小さいのに。







5.今はまだ知らない

「芦川って美人だよなぁ」
「何をいまさら…」
「小学5年生でアレだったら、将来もっとすごくなりそうだよねぇ」
「何…言ってるの、宮原?」

 三谷亘の表情がさーっと青ざめる。見ていて面白い。

「あげないから。美鶴は絶対誰にもあげないから」

 取るなんて言ってないじゃん。
 そうそう、油断は禁物。誤解させるのも付き合いのうち。

 今の気分はこの間塾の先生が話してくれたあの話。
 源氏物語、宇治十帖。
 さしずめあの子は女三の宮かな。
 俺は恨みを買って死んでしまう柏木。
 今はまだ、怖いお兄さんに知られていない。
 でも知られたら…。
 ハマりすぎてて怖いな。








2006.11.07〜2007.08.17


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