○○5題

1. ○○になりてぇ
2. 箱から出てきた
3. 恐怖の○○○○
4. みんな集まれ、○○の時間だよー。
5. ○○の正体は

○○の部分には城東第一小学校の5年生たちを入れました。












1.○○になりてぇ


 5年生が終わって成績表が返ってきた。中身を見るまでもなく、克美の成績は・・・だろう。

「なぁミタニぃ、ちょっと成績表見せッコしねぇ?」
「え!?だだだだ、ダメだよ!ボクの成績なんて全然!」

 とかなんとか言いながら、がんばりましょうの○の数なんか1つか2つなんだろうな。

「じゃあさ、アシカワの見せてヨ」
「あ、ボクも見たい!…ミツルがよければ?」

 芦川は面倒くさそうに成績表を見せてくれた。予想通り、よくできました、に整列してる○印。

「…全てのことにもっと積極的になりましょう…だって。あっ!」

 先生のコメントを読み上げると、さっと奪われた。それで別にふてくされてるんじゃないけど、芦川だって先生に注文つけられることがあるんだってちょっと安心する。

「じゃ、宮原のは?見せてくれる?」
「…つまんないよ?」

 とかなんとか言いながら見せてくれた宮原の成績表も、よくできました、にきっちり1列の○印。

「何事にも積極的に取り組み、クラスのまとめ役です。6年生になってもこの調子でがんばりましょう」
「…さっすがって感じぃ?オレ宮原になりてぇな!そしたらとーちゃんかーちゃんにも怒られずに済むしぃ」

 ぼやいてると、宮原は克美の成績表をひょいと摘まんで中を覗く。さらっと目を通して、ちょっと笑った。
 そりゃ可笑しいだろうけどさ、あんまりサイテーで。

「僕は小村になりたいって思うけどね」
「どこがぁ!?」
「ほら、ここ。人の心を読むようなところがありますって」
「…それさぁ、ジャンケン強いからなんだ。今のクラスで負けたことねぇの」

 ジャンケン…
 宮原とミタニが爆笑した。アシカワも…横向いて顔を隠してるけど確実に笑ってる。

「ボク、カッちゃんになりたいよ!」
「僕も小村になりたい!」
「そうだな。小村の強運は一生を左右するかもしれないな」
「適当なこと言うな!」


 もつれあって帰る道。












2.箱から出てきた○○


 学校からの持ち帰り荷物を整理しながら、こんなにも無事に学年を終えたのが初めてだと気付いた。
 最後の日になって慌てて返却されたプリントを整理していると、道具箱の中に折り紙がひとつ。
 仕掛け船ってヤツ。教科書を忘れた亘に貸して、返ってきたときに挟まっていたもの。

「アヤ、ちょっと来て」
「なあに?おにいちゃん」
「この船の折り紙の、帆を持ってて」
「うん」
「目をつぶって」
「はーい」
「アヤ、さっきと舳先を持ってるよ」
「あ、本当だ!すごいね、面白い!おにいちゃん、これアヤにも作って!」

 すっごい笑顔で要求されて、はたと困る。折れない。

「これはおにいちゃんが作ったんじゃないんだ。今度、三谷が遊びに来たときに折ってもらおう」

 アヤはちょっと残念そうな顔をして、「はーい」と返事をした。
 ふと、自分にも折れるかと思って、仕掛け船の折り目を分解してみると、
 折り紙の白い裏の部分に小さな文字が並んでる。
 その文字列を読んで、頭の中の温度を2度くらい上昇させて、元通りの仕掛け船に戻す。

「バカワタル…」

 呟いて、そっと道具箱の一番下に隠した。


箱を開ければ、いつでも亘に会えるように。












3.恐怖の○○


「それが、何?」

 芦川が言った。瞳を細めて、口元に微笑さえ浮かべて。けれど、僅かに上向いた顎がその視線の下にいるものに強烈なプレッシャーを与えている。実際、言葉を投げられた小村は恐怖に縮み上がってる。
 話の発端は、芦川が妹のアヤに過保護すぎるんじゃないかと、小村がバカ話ついでに言ったことだ。それは小村としては当然の理屈で、いや、世間一般からしても割と普通の意見で、春休み中に友達の家に遊びに行く妹の送り迎えを兄がびっちりやっているというのは、アヤもアヤの友達も気遣ってしまうだろう。GPS付きの携帯まで持たせてるんなら、アヤを信じて好きにさせてあげればいいのに、と。

「実質の保護者は俺なんだから、遊び相手の親の顔まで見られて安心じゃないか」

 それっと言い放ちながら、腕組みをする。拒絶の姿勢。いや、少し違う。自己防衛だ。
 間に入った三谷が、ふんわり笑う。

「美鶴、カッちゃんは間違ったこと言ってないよ。ちょっと考えればって言ってるの」

 芦川はぷいと顔を逸らす。そんな態度に小村はまた焦る。自分のせいで三谷と芦川がケンカするのも困るのだ。三谷は全然気にしないで、手元で止まってる塾の宿題を再開した。
 焦ったままの小村が、助けを求めるように僕を見た。
 仕方ないなぁ。多分こういうことだと思うんだけど。
 小村の、算数ドリルの空白部分に、えんぴつで文字を綴ると、その部分を覗き込んだ三谷は『そうそう』と頷いて、小村は『ホントに!?』って目を丸くして僕と芦川を交互に見る。
 シュッ
 空気が切り裂かれて、僕の手元のすぐ隣にシャーペンの先が突き刺さった。

「わあっ!何するんだ芦川!」
「お前が余計なことをするからだ!」

 芦川は相変わらず怒ってるけど、三谷と小村は爆笑した。僕も笑いたかったけど、恐かったから表情だけに留めておいた。


 恐いのは芦川じゃない。芦川の本心を見抜いてる小村と三谷だ。
 いつか、僕の心も見抜かれてしまうんだろうか。












4.みんな集まれ、○○の時間だよー。


「おっまったっせっしました!カツミィコムラ・タイムの時間だよぉー!」
「わあー!がんばってカッちゃん!」
「タイムの時間って重複だろ…」
「ほら、ソコ!観客はスナオに楽しめよ!」

 4月の新入生歓迎会に上級生が一芸を披露せよ、と旧5年2組の学級委員長に電話があったのは2日前。本当は新学期が始まってからでもよかったけれど事前に連絡しておけば『凝る』だろうと期待されてしまってる。
 塾の帰りに相談すれば、「去年クラスの発表会で手品をやった」と三谷が言って、翌日みっちり教えを乞うて、今はその練習発表を芦川の家のリビングでやっている…というわけ。

「♪ちゃらららららーん はい、最初は三谷亘くんのロープを使ったマジックです〜」
「ハサミで真ん中から切ります…切ったよ。それでー、ここをこう結んでー」
「ワンッツーッスリー!!繋がりましたぁ拍手ー!」
「亘おにいちゃんすごーい!どうやったのー?」
「あ、案外簡単なんだよ、コレ」
「こらこら、タネを明かさない。えっとぉ、次は?」
「ハンカチを結びます。あかー、あおー、みどりー、きいろー、…この何の変哲も無い紙袋にいれてー」
「ワンツース…早!…全部白に変わりましたー!拍手ー!」
「紙袋、調べさせろよ」
「美鶴がこっち側に来るんならね?」
「おにいちゃんもやったらいいのにね、亘おにいちゃん」

 わあ、芦川の目が厳しくなったなぁ。ヘタなタネなら簡単に見抜かれるような気が。

「♪ちゃらららららーん 次は期待の新人、宮原祐太郎!失敗すんなよー」
「あのなぁ、昨日教わって今日ご披露なんて早すぎじゃない?」
「トランプなんだ。おっ、シャッフル速いねー!」
「はぁいアヤちゃん、僕に見えないように1枚抜いてー、カードを憶えたら適当なところに戻してね」
「うん!じゃあ…これ!さっきと別のところに戻すのね?」
「そうそう。もう一度カードを切って、…それじゃ、投げます!芦川受け止めろ!」
「うわあっ!」
「宮原、キャッツカードみたいだなー!」
「なにそれ?…芦川の手にあるカードって、さっきアヤちゃんが選んだヤツ?」
「うん!そう!なんでわかったの!?」
「カードマジックなんて、タネは簡単なんだろ?宮原が1日でできるくらいだからな」 「まーね。あと、新聞紙に水を入れるヤツも教わったけど、準備ができてないんで後日発表ってコトで」
「♪ちゃらららららーん さて、ではこのコーナー、トリを努めるのはこのカツミィコムラです!」
「なんで、わざわざ氏名を逆読みしてんだよ…」
「では、観客の方にお手伝いして頂きます。アシカワくん、ヨロシクゥ!」
「おにいちゃん!がんばってー!」
「美鶴!この黒い袋の中に入って!」
「しゃがまなくていい、立ったままでいいから。上、結ぶよ?」
「それではっ!…準備オッケー?ワーン、ツーウ、スリー、
・・・・フォーォォォウ!」
「うわあああ!何故、今レイザーラモンHGなんだ!?説明しろ小村!」
「はあぃっ!カツミィコムラ・タイム改めレイザーラモンアシカワ・タイム終了ぉ!」
「おにいちゃんすごいすごい!」


…タネも仕掛けもわかりませんでした。<宮原祐太郎。












5.○○の正体は


「あ、カッちゃんもう帰るの?」
「うん。またあそぼーぜ。じゃーな!」

最近、ミタニは「一緒に帰るから待って」とか言わなくなった。
芦川と仲良くなってから、勉強もすげぇ頑張ってるし、優しいとこは変わらないけど、弱虫なところが無くなった。
芦川や宮原と並んでも、あんまり見劣りしない。
それが芦川の影響だって、わかるから、オレはちょっとだけ面白くなかった。
オレの正体って、もともとつまらなかったけど、最近もっとつまらなくなった気がする。


「僕も帰るね。家の手伝いしなくっちゃ」
「マユちゃんたち、きっとお兄ちゃんが帰ってくるの待ってるね」

アヤちゃんにそう言われて、咄嗟に笑顔が作り物にならないように気をつけた。
家に帰れば弟妹たちが待ってる。うん、すごく懐いてるよ。
仕事をしながら家事をしてる母親の邪魔をさせないように、一緒に遊ぶんだ。遊んであげる、じゃなくて。
けれど、母親よりも、義父よりも、自分に懐く弟妹というのは、正直困る。
離れないと、後で困るのは弟妹たちだから。
僕の正体は、いいお兄ちゃんなんかじゃないんだよ。


「ワタル、明日はどうするんだ?」
「…え、あっ明日も遊びに来るよ!」

明日なんて要らないと思ってた。
友達も要らないと思ってた。
一度手にしたら、手放せなくなった。
叔母もワタルも、俺の変化を喜んでくれている。
けれど、俺は本当は嫌なんだ。
こんな強欲、いつかまた酬いを受けるんじゃないだろうか。
俺の正体は、以前と何一つ変わってなんかいないんだ。


「それじゃね、バイバイ。みんなバイバイ」

手を振って別れて、ひとりになって、夕方の冷たい風に腕を抱いた。
家に帰っても母さんはまだ帰ってない。
掃除や洗濯、炊事も、二人分だけだから朝に手早くやってしまえば終わりだから、することもない。
それでも、未来を創っていくのは僕だから。
いつでも明るくしてなくちゃ。
嘘吐き。嘘吐き。嘘吐き。影の中の僕が言う。それを僕は踏みつける。

「嘘じゃない」

僕は知ってる。
僕だけじゃない。


本当は みんな寂しいんだってこと。










ものすごい、適当に、思いつくまま書き散らかし。

2007.03.25〜03.31


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