チラシ裏






「三谷、ちょっといいか?」

 授業が終わって、今日はカッちゃんと約束をしてる日だから早めに帰ろうと教科書をまとめてると、宮原がちょいちょいと手招きをする。教室じゃなくて廊下まで連れ出されて。何か深刻な話なのかな?

「なあに?改まって」
「あのさ、小村のことなんだけど」
「カッちゃん?うまくいってるんでしょ?」
「うーん、それが…最近、最後までやらないんだ」
「…!!!」

 悩みっていうか、それが悩みなのか、普段のろけ話のひとつも聞いたことの無い宮原からそういうことを言われてしまって、ちょっとパニックに陥る。

「なんでかなぁ?三谷、理由わかんない?」
「わ、わっかんないよ…そんなの!本人に聞いてみれば?」
「聞いたけど曖昧でさ。俺何かマズイことしたかな?」

 宮原にも解けない難問ってあるんだ。てか、宮原がカッちゃんに対してなにかマズイことしたって何にも思いつかないんだけど。宮原は誰かを傷つけたりするのが嫌いだから、そういうのすごく気にするんだと思うけど、悩みが悩みだけに…。

「うー、あー、わかったよぉ…。僕もそれとなく聞いてみるよ」
「サンキュ。何かわかったら教えて」

 宮原はひらっと手を振って教室に戻っていった。
 なんで今日カッちゃんと会う約束があるときにそんな相談するんだよ?
 って、今日会うからか。今日より前にこんな話を聞いちゃったら、カッちゃんが宮原を押し倒す勢いで、僕が美鶴を押し倒しちゃうかもしれないし。
 まあいいか。カッちゃん、あんまり宮原のこと喋ってくれないから、いい機会かもしれないし。





「ところでさぁ」

 カッちゃんの自習を手伝って、クラブや新作RPGの話題を経てから、僕はとうとうあの話を切り出す。ヒソカにおてふきタオルを握り締めて。

「宮原とセック○してないってホント?」

 カッちゃんは飲みかけてたジョッキ入りカルピスソーダを盛大に吹き出した。僕は慌てずにこぼれた液体をタオルで拭く。

「べはごへかっ」
「カッちゃん落ち着いて。意味不明だから」
「な、なんでっ!?」

 頬どころか顔中真っ赤になって湯気出しながら、カッちゃんは壁際まで引いた。案外純情少年だ。
 何故僕が知ってるって、宮原から聞いた以外にありえないことまで考えが至り、今度はさーっと血の気が引いていく。

「わ、ワタル、お前、宮原とやっちゃったりしたとか!?」
「してないよ!最近は美鶴としか」

 言うと、カッちゃんから空気が抜ける。ぷしゅるるるるー。そのままゆっくり床へダイブ。一体なんなんだろう。宮原とやっちゃったって聞いた時も、嫉妬というよりもなんだか怖いものに会っちゃったみたいな感じだったし。

「ね、どうしたの?宮原も気にしてたんだけど」

 床にめり込みそうなほどガックリしてるカッちゃんに視線を合わせると、すっごく情けないような弱弱しいしゃがれ声。

「ちがでて…」
「ち?ち、って血液の血?」
「うん…すごい焦って、俺どーすりゃいいのかわかんなくて」

 そこから話を要約すると(てか、カッちゃんの話も要約されててわかりやすかった)
 宮原とセッ○スしたとき、痛いとか言わないからつい思いっきりやっちゃって、終わって抜いてみたら最中に出血してたのかえらく赤いことになってて、以降恐くて最後まで到れない、と。

「カッちゃん、ローション使ってる?コンド○ムは?」
「ローションもコンドー○も使ってる。絶対使えって言われてる」

 宮原らしい。性病予防の基本だけど、カッちゃんのこと大事にしてるんだってよくわかる。

「やってるときの痛みとかはあんまりわかんないみたいだよ」
「ええ!?で、でも、すごい、血が」

 そのときのショックを思い出すのか、再び顔面蒼白になってきて、見ててかわいそうになってくる。
 宮原が相談してきた理由がわかったよ。

「…わかったよぉ、宮原には痛いのガマンするなって言っとく。だから、カッちゃんが気をつけて慣らしてやったらオッケーな話じゃん」
「慣らす…ってどうやって?」

 わかんないのか、案外純情少年め。

「保体の教科書見せてよっ説明するから〜」
「でもこれって女子の仕組みしかないじゃん」
「…そか、男子は精巣のトコだけか。じゃあ落書き…」
「おいおいおい!教科書に書くなー!」

 自習の続きでチラシ裏に特別図解直腸図とか描きながら説明する。

「ここがこーなってんだろ?」
「そうそう。それでここらでこうなってるから…」

 肛門の先に直腸があって、あまり進まないうちにS状結腸になるから、根本的にたくさん入れるのは無理なのだ。だけど、

「ここらへんに、なんかあるよな?すごいゾクゾクするトコが」
「うん。あるある、前立腺だよ。ここらへんにもある」
「へえー!亘物知り!」

 ふたりして「こんな感じ」と書き込みを増やしていけば、なかなかリアルな図になってくる…。





「ってコトだから、今頃カッちゃんと宮原うまくやってると思うんだけどな」

 寮の美鶴の部屋で、この間のことを喋ってると、美鶴は指を口元にあてて、何か考えてる。

「お前、そのときの落書きまだ持ってるだろ」
「うん。見る?」

 鞄の奥から住宅情報チラシを引っ張り出して、裏を広げて見せる。
 我ながら、教科書に載せたいくらい正確に描けた気がする、あの辺りの図だ。

「…この○印は?」
「美鶴のイイトコロ」
「×印は?」
「カッちゃん曰く、宮原のイイトコロ」

 何か言いたげに、美鶴の指が絵の上をうろうろして、やがてため息ひとつついてぷいっと横を向いてしまう。あれ、少し怒ってる?カッちゃんに教えちゃったから?

「俺は、こんなところで善がったりしないぞ」
「するって」
「しない」
「じゃあ、重点的に攻めちゃっていい?」

 強情に頑張ってる美鶴が好きだから、こんな態度はすごく嬉しい。
 返事の代わりに美鶴は枕を投げてきた。
 でも、コレは合図だって判ってる。





おわりー。










年末頃に冒頭だけ書いてたら、続きはー?と嬉しい催促が!笑

2007.02.09


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