※オリジナルっぽい人が出てきます。

 DATAさんの素敵絵を早く見たい方はズバッと下スクロール!












another









「その傷、どしたの?」
「傷?」

 痣というべきか。宮原は気付いてないみたいだった。唇の端に殴られたような痕。
 ああ、と笑う。

「転んだ」
「ドジ!」

 そんなわけないだろ。

 誰に殴られたんだ?
 誰がお前にそんなことするんだ?
 誰だよ、なあ?

 嫉妬に任せて距離を詰めると、背を小さく振るわせた。何かに怯えてるように、視線を泳がせて逃げる。
 オレとキスすんの、嫌?
 唇の代わりに痣を舐めると、宮原は緊張を解いた。

「あー…、口内炎があってさ、ちょっと恐かった」
「治せよ、早く!」

 目を閉じて壁に背を預けると、ふっと様々な感情の混じった苦笑が漏らす。諦め?安堵?
 宮原に傷を負わせたヤツは、オレにキスさせたくなかったんだ。

















 あの人は俺と似てる。
 頭がよくて、人気があって、いつも笑ってる。それは表の顔だ。
 裏にはどうしようもない欲望が常に渦巻いている。
 気に入ったものは絶対手に入れて、可愛がり、支配する。
 気に入らないものは消去する。

「キミの恋人はどんな子?芦川君?三谷君?学校の子かな?」
「全部アリです、先生」
「賢いな、キミは、相変わらず。…僕がソイツを殺してしまうかもしれないからね」

 狂気だ。
 ギリギリのところで踏みとどまるのは、俺を完全に支配しているからだ。
 じゃないと、あの人は、本当に小村を殺してしまう。

















 絆創膏の上から指が触れる。

「ねえ、誰に殴られたの?」
「いきなり直球ストレートだな、三谷は」

 怒り混じりの口調、かわそうとする俺の態度がさらに気に入らないのか、三谷の、俺を睨みつける目がきつくなる。

「宮原の相手してるのって、カッちゃんとこの校内以外にもいるわけ?」
「その相手の中に殴ったヤツがいるって思わないわけ?」
「思わない」

 さすがの直感だ。三谷と芦川の他に、上級生に何人かかわいがってくれる人がいる。この学校の生徒に「女の代わり」って思考はない。制服着て歩いていれば女の子から引っかかってくるもの。
 上級生方も俺のことを気に入って遊んでくれている。力で抑えようとする人なんかいない。

「だから、普通に転んだだけ」

 訝しげな視線。

「…カッちゃんに聞くよ?」
「いいよ。小村には何も言ってない、何も知らない。無駄足で構わないなら、どうぞ」

 三谷の目が大きく開かれた。驚いた?
 この隙に逃げよう。
 三谷は、芦川を守らなくちゃならない。俺のことなんて放っておけばいいんだよ。





「あーしーかーわー。服を返せ」

 シャワーを使ってる間に脱衣場兼洗面所で何かやってるな、とは思ってたけど、着替え(新しいのも脱いだのも)を全部持っていかれるとは思ってなかった。
 可能な限り水滴は落としてきたけれど、体洗い用の小さなタオルしか持ってないし(バスタオルも無い)、とりあえず腰あたりを隠すだけでいっぱいいっぱい状態だ。

「ふ…ん。傷があるのは顔だけか?」
「それを確かめるためにかよ…?」
「まさかそのタオルの下に」
「無いよ。見たければ着替えてるときに見ればいいだろ。本当に寒いから服を返してくれ」

 芦川が脱衣カゴを俺の前に返してくれた。宣言どおり、目の前で服を着る。背中や尻を向けて芦川が目で確認してるのを意識するのはなかなかの羞恥プレイだと思う。

「誰が…」

 やったんだ、と続くんだろう。芦川の目が昏い。報復をためらわない目だ。
 芦川も三谷も知ってる人だよ。アヤちゃんや俺の弟も多分知ってる。
 …なんて、言えるわけがない。

「宮原、その傷で、お前がそいつを恐れてるってことは確実にわかる」

 芦川のその聡さを、あの人は今も気に入ると思うよ。
 だから、絶対に出てきちゃいけない。

















 秋の、秋にしては生温い朝だった。
 どこにいて、何をしていても恐かった。幻覚が纏いつき、振り払うために逃げて逃げて、ほんの少し坂を上っただけで息が切れて、世界が暗転する。しゃがみこんで、吐けるだけのものを吐いても、恐怖は去らない。

「キミ、大丈夫かい?」

 肩を揺さぶる腕が、ドラッグ欠乏による激しい妄想夢から思考を引き剥がした。
 瞬間、まずいと思った。
 誰だか判らない。警察や補導員とは関われない。まだ自分を追いかけてるヤクザがいるし、守ってくれる弁護士先生のところはさっきの悪夢で飛び出してきてしまった。
 普通の人なら余計にまずい。関わらないで欲しい。
 剣呑にその手を振り解こうとして、相手の顔がチラと見えた。
 知ってる、この人、どうして、こんなところに?

「せ、…先 生?」

 その人の表情は、親切に心配しているものから驚愕へ変わっていった。





 渋谷の路上で拾われて、新宿の結構いいホテルに連れて行かれ、汚れた服を脱がされバスルームに入れられて、ぼんやりしてたら上から下まで洗われて、バスローブを着せられて、「眠っていいよ」って言うからベッドの上でまどろんで…。
 少し眠るだけって思ってたのに、気付いたら部屋は真っ暗になってて。
 体を起こすと、デスクで書き物をしてる人がいる。

「先生」

 塾の、テスト作成か、採点か。

「ちょっと待っててくれるかな。ああ、そこの袋の中に、キミに似合いそうな着替えがあるよ」

 ベッド脇にあったブランドショップの髪袋には、夜目にも濡れて光って見えるような、光沢のある上下服が見えた。ちゃんと下着も揃ってる。靴まで。
 その真新しい服を一瞥して、乱れることも無かったバスローブの紐をしゅるっとほどいた。

「先生、先生はどうして、あんなところにいたんですか?」
「たまたま、通りかかって」

 コゥコゥと、ボールペンの芯が滑る音。

「そうじゃなくて…。わかりません、…どういう目的で、僕に声をかけたんですか?」

 コツコツ、カラン。ボールペンが指から離れた。
 先生はゆっくりとコチラを向く。背もたれに腕を乗せて、頬杖をつくように。

「あの時のキミを放っておけなかったからさ。まさか、宮原くんが浮浪児だとは思わなかったからね」

 ニッコリ笑って、黒い目が楽しそうにこちらを見ている。
 教室の中で、特別できる子にはこんな楽しそうな目を向けていたっけ。

「先生は、僕みたいな子を探してたんでしょう?薬中で、ひとりで、死にそうなヤツを」

 そうだね、小さなつぶやきは、人工的な明かりがたゆたう窓の外へ。

「便利だからね」
「便利?」
「そういう子は、小金を渡せばなんでも言うことを聞く」
「先生なら、お金じゃなくても顔だけで女の子がついてくるでしょ?」

 ははっと笑う、印象的な笑顔、自然でいて、そうでなくて、

「女の子は面倒」

 塾で、女子が先生に告白してた。子供だから断ったんだと思ってたけど、女性全般がだめだったのか。

「だから、時々壊れかけた子を拾って遊ぶのさ。塾の子じゃダメだな、小さくて弱いのはつまらない。大人は意思を持っててまた面倒だ。行き場の無い高校生くらいが面白い」

 方程式の解き方を説明するのと同じように、話す。
 先生の秘密。でもバラすことはできない。同じように秘密を握られているから。
 それなら、

「僕じゃダメですか?」
「宮原君を?構わないけど、お金が欲しいの?それとも居場所?クスリも?」
「クスリは要りません。もちろん、誰にも言いません」

 言い終える頃には、勝手に身体が火照り出す。
 以前、先生に憧れたことがありました。
 優しくて、賢くて、笑顔で誉めてくれるのが嬉しかった。
 ここへ、きなさい。命じられてデスクの側へ行く。整理された紙束は、やはり塾のテストだった。
 肩に引っかかっただけのバスローブを落とすと、先生が嬉しそうに目を細めた。

「自慰、しなさい」
「はい」











おわり、ったらおわり!










1/14、インテのイベントにて、
DATAさんに描いてもらっちゃった素敵絵!



ここから、もくもくもうもう妄想膨らんじゃって!

my脳内宮原は、好きだって言ってくれる人には、もちろん自分自身も好きな人だって思ったら、やってしまいます。
そうすることが、当然って感じです。見返り、じゃないけど、返したいから。
カッちゃんだけはちょっと違う。

最後のは、秋口に書いたfarewell(不幸捏造話)あたりに入るネタ。
エンコーですよ、エンコー!(ヒトとしてサイテーだ、私)
「先生」のモデルは模倣犯のあの人です。

2007.01.14〜01.19


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