節分
「節分の日に巻き寿司作るから、芦川くんと妹のアヤちゃんを呼びましょう」
って、母さんが嬉しい提案をしてくれた。
美鶴の叔母さんは、平日は残業たっぷりで仕事をしてるから、休日にひとりでゆっくりできるほうが嬉しいはずって、母さんは言ってる。実際その通りみたいなんだけど、やっぱりオトナ同士って通じのかなぁって僕は考える。
それはさておき、節分の日。
美鶴とアヤちゃんは手土産に柊と鰯を持って僕の家に来てくれた。
アヤちゃんは何故か不機嫌だったけど、
「柊鰯ってよく知ってたわね、ありがとう」
って母さんが言うと、ちょっとだけ機嫌を戻した。
「鰯は小骨がいっぱいあって嫌いだからシシャモがいいって、スーパーでゴネたんだ」
美鶴が種明かしすると、僕と母さんは爆笑してしまった。アヤちゃんはまた怒りそうになったけど、母さんが準備を手伝ってって頼むと、唇を尖らせながらキッチンへ付いていった。もちろん僕たちも手伝うけどね。
母さんが桶でご飯にすし酢をふりかけながら寿し飯を作る。アヤちゃんが一生懸命うちわを仰ぐとお酢のにおいが部屋中に散らばった。
僕らは巻き寿司の具をお皿に入れて並べる。母さんは手巻き寿司だって面白いのを入れるから、今日もいろいろあって楽しい。
高野豆腐、かんぴょう、たまご、きゅうり、煮しいたけ、さくらでんぶ、うなぎ、いくら、三つ葉、かにかま、にんじん・・・・
「これ、全部巻いたらご飯を入れる場所がなくなるんじゃないか?」
そのとおりだよ。だから僕のうちの巻き寿司のご飯は少ないんだ。
海苔をさっと炙って、簀巻きの上において、寿し飯を薄く敷いて、じゃんじゃん具を置いて…巻く!
「上手いな、亘…」
へへっ。美鶴は具を乗せすぎなんだよ。手を出そうとしたら、ムッとする。
アヤちゃんも母さんと一緒に、好きな具だけの巻き寿司を作ってる。
次々巻いて、叔母さんへのお土産も入れて、全部で10本。
確か今年の恵方は北北西だったっけ。
「じゃ、いただきますっ!」
って食べ始めたら、僕から美鶴の方向は南南東。正反対じゃん。ね、場所変わってくれない?
「いいけど、…ニヤニヤ笑ってヘンなヤツ」
だって、恵方巻きは恵方を向いて笑いながら食べたらいいんでしょ?
美鶴を見ながらがぶっとまるかぶり!って、美鶴何やってんの?
「切って食べる。どうしてこんな食べにくいことをするんだ?」
…さあ、どうしてだろう。母さんも苦笑いしてる。
ひとり2本ずつ食べて、アヤちゃんも小さいのを2本食べて、ごちそうさま。
次は豆まき。
ジャンケンで負けたら鬼、で、美鶴が鬼。
アヤちゃんがここぞとばかりに豆を握って、美鶴にぶつけた。
「おにはーそとー!おにいちゃんもそとー!」
あー、さっきのシシャモをばらされたの、まだ怒ってるんだ。かなり思いっきりぶつけてるし。
「うわああ!この家に鬼はいられないーっ!」
美鶴、名演技で出て行くし。
「ヤッター!あたしの勝ちー!」
アヤちゃんはすっかり機嫌を直して大喜びしてる。おにいちゃんが負けて引いてあげるんだ。僕と喧嘩だったら、絶対引いてくれないのになぁ。
・・・って、美鶴が帰ってこない。どうしたのかな?
扉を開けたら、玄関ポーチの所に美鶴がしゃがみこんでる。
「どーせ、俺は不幸な鬼だよ…」
拗ねてるし。ちょっと泣き真似入ってるし。お兄ちゃんも楽じゃないんだね。
隣に座って、美鶴が振り向いたときに、頬にちいさくキスをした。
「な、に?」
厄払い♪
部屋に帰ろ。ね。ほら、鬼のお面取って。
「ふくはうちだよー!美鶴と一緒に帰ってきました!」
おわり。
恵方巻きって、関東に飛び火したの最近だよねぇ。<関西すし屋の陰謀がようやく首都攻略…
けど、なんかスイーツまで出てきて、ちょっと路線がおかしくないかい?
2007.02.02
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