眠れぬ夜

























 携帯が鳴った。一回コールで切れて、ワン切りかと思ったら履歴は宮原からで。何の用かとかけ直してみても出ない。けど、小さな音で宮原の携帯の着信音が聞こえた。
 驚いてベランダの窓を開けると、暗い路地にひとり佇んでる奴がいる。宮原は普通こんな呼び出し方はしない。事前に連絡してきて、ちゃんとこっちの都合に合わせてくれる。

「宮原?」

 上から呼んでも振り向かない。いつもの笑顔も無い。ただならない気がする。
 店からじゃなくて、家の裏口から出て、亡霊のように立ち尽くしてた宮原に触れた途端、倒れこむよう俺の肩にしがみついてきた。

「ど、どうしたんだよ、宮原!?」

 力の入らない腕はカタカタと震えている。寒いのかと制服のシャツの上から身体に触れてみるけれど、熱があったりするわけじゃなさそうだ。でも、妙に湿気てる。

「ごめん小村…俺、サイテーだから」

 自嘲気味に笑ってる。何が?何で?
 キスしようと髪に触れると、確かに濡れていた。雨なんて降ってないのに。髪の中に指を入れる、ふわりとシャンプーの香り。

「どこで、アタマ洗ってきたんだよ?」
「ラブホ」
「相手は男?女?」
「それって重要な質問?」

 全然重要じゃない。関係ない。顎を上げさせて、唇を拾う。絡まる舌先は、ねっとりと熱かった。
 宮原の手が俺の指を導いていく。シャツの上からでもはっきりわかる、胸の尖り、甘い喘ぎ。
 たまらない、腰が疼く。硬く痛くなってきて、宮原の脇腹に押し付けた。

「は、あ…、小村ぁ…口で、しようか?」
「ダメ…俺もぅ、宮原欲しくてたまんない」
「ふふ…うん…いいよ、壊れるくらい、壊していいよ」















     あの人は、俺を弄んでるってわかってる。
     捨てるつもりだってのも知ってる。
     ただの意地でみっともなくしがみついて、どうしようもない熱を抱えて。
     挙句の果てにこんなこと。
     小村を傷つけるだけなのに。















「…っう、んんっ!……ぁ、」
「っう、宮原、大丈夫かよ!?」
「…はぁ…はやくっ」

 部屋に入ってカギを閉めると、服を脱ぐのももどかしく、オレは着衣のまま、宮原はズボンを膝まで下ろした恰好で、忙しなく繋がる。
 宮原の様子は、おかしいなんて言葉じゃ片付かない。
 ・・・どこか、狂ってる。

「あ、ああ、ぁん、ぅ、」

 短い嬌声、女みたいな。宮原のズボンを足で爪先まで下ろして、深く貫いてから片足を引き上げてやる。
 転がった体勢が少し変わって、上気した横顔が見える。

「な、宮原っ、気持ちいいか?」

 眼を閉じてコクコクと頷いた。床にこすれて眼鏡がカチャカチャ音を立ててる。
 宮原の中は熱くて緩くてぬめっていた。
 さっきまで、誰に弄られてたのか。

「い!ああっ、こ、小村っ!こ、キツ…!」

 瞳を湿らせ、悲鳴を上げながらも、宮原の後孔はきゅんと閉まる。
 はだけたシャツの間から、宮原のものも臍の下辺りまで硬く屹立していて、悪戯に触れると身体をよじって逃げようとする。逃がさない。
 溺れるように腕を掻いて、オレを見つめた宮原の瞳に、愛しさと痛みを感じて胸が痛くなる。

「たすけ…こむら…ああ、あっ!」

 恍惚と快感が宮原に降りかかり、ほぼ同時にオレも宮原の中に精を吐き出した。
 背中から宮原を抱いたまま、ふたり、床に倒れこむ。
 暴れる心臓と、呼吸が落ち着くのを待って、身動きひとつしない宮原を引き寄せようと肩に触れると、ビクリと大きく反応した。

「宮原?」

 そっと、覗き込むと、眼を閉じたまま静かに涙を溢している。

「なんで、泣いてんだよ…」

 問いかけると、宮原は長い息をひとつ吐く。

「俺ってサイテーだから。小村の気持ちを知ってて、利用して、ごめん」
「何言ってんだよ?今更。俺のところしか来る場所が無かったんだろ?」

 宮原はもう一回「ごめん」って言って、ぐったりと力を抜いた。
 今のところ、オレの立場はセフレってとこか。
 けど、逃げ場でもいい、宮原の安心できる場所を作ってやれるのがオレだったらそれでいい。
 そう言ったら、きっとまた宮原は痛みを抱えてしまうんだろうな。

「狭いけど、ベッドに行け、ベッドに。床は辛いからヤだ」

 無理矢理身体を起こしてやると、やっと穏やかな笑みを見せてくれた。





おわる。













・・・・・・・・・
かなり、かつみやに飢えていると思ってください。

2007.01.25


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