特効薬
眠くて、痛くて、寒くて、アタマ割れそうで、息が苦しくて、
とにかく朦朧としてたから、ヘンな夢を見ちまった。
あいつを抱いたまま寝る夢。あいつが苦しそうで恐かった。
世の中はクリスマスだけど、オレは酷い風邪を引いてしまって、自分の部屋でずっと寝転がってた。
クリスマスったって、居酒屋小村は忘年会シーズン真っ只中で、いつも通り手伝いバイトをするはずだったのに、夕方にはフラフラになっててお袋に寝てろって言われて、ごめん忙しいのに役に立たなくてって考えたのは一瞬で、すぐに寝てしまって・・・
もうすぐ深夜12時だ。
階下からまだオヤジたちの騒ぐ声と、食器を片付ける甲高い音が響いてる。
動けるかな?ちょっとは手伝わないと、お袋が大変だ…ろう、あ、ダメだ。フラつく。
「大丈夫?」
冷たい手が肩に触れた。水仕事した後の、冷たい手。え?なんで?
「小母さんが作ったおかゆ持ってきたけど、食える?ムリ?」
「なんで、お前がここにいんの?」
「なんでって……まあいいや。スポーツドリンクとお茶があるけどどっちがいい?」
「お茶…おかゆー」
「はいはい。あんまり熱くないからそのまま食えると思うよ」
お茶をひと口、れんげを持っておかゆをひと口ふた口、緩く効いた塩が味覚と一緒に記憶も醒ましてゆく。
「あー、ごめん、忘れてた。オレが呼んだんだっけ?クリスマスの日にケーキ作るからって」
「ビックリしたよ。倒れてるんだから」
「そんで、オレの代わりに店も手伝ってくれたんだ」
「小父さん、バイト代くれるって言うし」
しゃらしゃらとひとり用の鍋の底をさらって、おかゆを全部平らげた。お茶で口の中を流すとえらくスッキリする。
すげぇ、治ったかも。
「体温はかれよ。小父さんも小母さんも心配してるし…汗かいてるよ。着替えもしなくちゃ…」
「宮原、おまえさ」
食器を押しのけて、きれいな形の肩を抱きしめた。やっぱり本調子じゃなくて、指先に力が入らないけれど。
受け止めてくれる腕がオレの背に回る。冷たくて気持ちいい。
「オレ、お前のこと、すげぇ好き」
「何言ってんだよ。早く風邪治せ」
「あっためてよ、そしたらもっと元気になるからさ。な?」
勢いと体重で押し倒すと、すげぇ困った目で見返された。ダメだっていうのでもないらしい。
えり首つかまれて引っ張られたと思ったら、唇が触れた。そのまま深くなっていく。
「…は、ぁ、…効くぅ…何さ、お前にうつしてオレが元気になっちゃってもいいの?」
「…そんなんじゃなくて…もう、いいよ。小村、早く脱がして着替えさせてやるから」
理由をつけて、パジャマのボタンを外されていく。
ああ、ひょっとして、宮原もこういうことしたかったのかなぁ?
と思ったけど、あまりにもアタマがボーっとしてて、それが正解なのかわからなかったから、今夜はただ抱きしめていようと、やっぱりボンヤリ考えていた。
手の中の宮原は、少し怒ってるみたいだったけど、苦しそうではなかった。
よかった。
夢心地のまま、このまま眠れるんなら、風邪も悪くないなぁとか考えた。
おわるー。