看護人





「もしもーし、三谷?宮原だけど、今いいかな?」
『え、何?もしかして、美鶴の風邪が悪化したとか?』
「察しがいいね、三谷は。さっき医者に引き摺って行ってきた。脱水気味で点滴されてたよ」
『やっぱり僕が昨日連れてけば良かった。宮原、看病代わろうか?』
「三谷が芦川の看病なんて、看病にならないだろ」
『ご明察です。って、それ知らせてくれる電話なの?』
「じゃなくてさ、俺の弟から電話があったんだけど。アヤちゃんが塾に来てないって」
『アヤちゃんが?ひょっとして、美鶴と同じ風邪を引いてたりして…』
「流行ってるしね。気になるんだ。三谷って芦川の家の合鍵持ってただろ?アヤちゃんの様子見てきてよ」
『僕がー!?』
「適任だよ」
『鍵渡すから、宮原が行けば?』
「それこそ、看病じゃすまなくなったら大変じゃないか」
『・・・・・・宮原?』
「あ、いや、そういうことだから、頼む」
『うん、わかった。じゃ、美鶴のことよろしくね』




「何電話してたんだよ」

 苦しそうな息を注ぎながら、美鶴は宮原をにらみつけた。まるで手負いの獣。

「三谷に。心配してるだろうから、連絡しておいた」

 三谷の名前を出すと、青ざめた頬がほんの少し緩んだ。けれど、すぐに悲しそうに目を逸らす。

「大丈夫。吐いたり下したり高熱出したりとかは言ってないから。必要以上に心配させてないよ」

 美鶴がホッとため息をこぼした。
 亘に会いたいと思う気持ちはいっぱいなのだが、風邪をうつしたくないのと、酷い状態の自分も見られたくないのだ。
 宮原ならいいのかと言えば、そうとも言い切れないけれど、いい加減宮原の面倒見の良さに慣れてしまったのだろう。

「早く風邪治せよ」
「宮原に言われなくても、そうする」

 どんなに具合が悪くても、美鶴の減らず口は通常営業。
 こみあげる笑いを抑えながら、宮原は温くなった氷嚢に新しい氷を継ぎ足した。




 インターホン越しにアヤといくつか言葉を交わしてから、亘は芦川家の玄関をくぐった。
 一応お客様、と歩き回ろうとするアヤを、亘はリビングのソファに座らせた。

「本当に大丈夫ですって。さっき病院にも行ってきたし」
「アヤちゃん、酷い顔色だよ?水分取ってる?」
「………」
「吐いちゃうんでしょ?かわいそうに。それでも水分は取らなくちゃだめだよ。余計に酷くなるから」

 亘は手に提げていたスーパーの袋からスポーツドリンクを取り出し、ついでにアヤが貰ってきたらしい処方箋薬をさらりと眺めて、嘔吐止めと一緒に渡す。

「…おくすり、ご飯の後じゃなくても飲んでいいの?」
「うん。辛いときにはね」

 叔母さんは相変わらず仕事が忙しいのだろうか。6年生、といってもまだ子供だ。放っておけない。
(亘だって高校生の子供だが、同じ母子家庭だし年齢分くらいの判断力はある)

「ご飯、おかゆでいいよね。作ってあげるからアヤちゃんは部屋で寝てて」
「は、い。ありがとうございます」
「お礼を言う人は僕じゃないよ」

 亘はにっこり笑って、不思議そうに首を傾げるアヤの額にひえピタを貼り付けた。




おわり






本当はずばっと入れ替えお見舞いにしようかなと思ったんだけど、
書いてみたらコッチの方が自分萌える…笑

2006.12.14


ブレイブindexへ