冬の日のW.







 真っ黒な夜空。
 強風に煽られて、キラキラ瞬く星。

 秋冬の空は格別に美しいけれど、寒くて凍え死にそうなのだ。
 自由参加にしたら誰も来ないのは当然かもしれない。
 遠慮なく毛布もシュラフもひとり占め。
 ひとり観望会。

 ああ、ひとりじゃないな。

「バッカじゃないの?お前」
「追いかけてくる芦川だってバカじゃないの?」
「今日は何があるんだよ」
「しし座流星群、極大」

 部屋着ジャージにフリース一枚って、死ぬ気か芦川。
 学校の屋上は、現在体感温度氷点下。
 やれやれ。
 枕にしていた封筒シュラフを分解して、もう一枚と繋ぐと、ジャンボサイズ封筒シュラフの出来上がり。

「中、入れよ」
「なんでふたりで同じシュラフなんだよ」
「ひとりだと寒いんだよ。毛布も入れてるから、このまま屋上で寝ても凍死しないようになってる」

 小さな赤い豆電球の明かりを頼りに、芦川がシュラフに潜り込む。
 中で毛布を半分渡して、一緒にくるまって、それから肩口が寒くないようにきゅっと紐で締めた。
 すごい密着度なんだけど、人肌で暖を取る作戦はひとまず成功。
 マットの上に寝転がった瞬間、空に銀光が走った。

「しし群だね。さすが、強烈」
「夏に見たヤツと似てるな」
「うん」
「数えたりしないのか?」
「今夜は、観にきただけ」

 びゅう、風が吹き付けて、露出した顔をなでてゆく。顔だけ寒い。
 同じことを考えたらしい芦川が、頭をころんと寄せてきた。

「宮原、あそこに亘がいるな」

 視線の先を辿れば、カシオペア。
 なるほど。

「イニシャルか。三谷と一緒に観たい?」
「あいつ、寒いの嫌いだからな。俺も嫌いだけど」

 もういちど、ころんと転がって、芦川は俺の体を抱きかかえるように密着してくる。
 頭は寒そうにシュラフの中に隠れてしまった。

「おい、それじゃ流星観れないじゃないか」
「お前が見てろよ。俺は寝る」
「部屋で寝ればいいのに…」

 返事はない。やがて始まった寝息に黙殺された。

 空に、Wの文字。
 銀の星雨が、始まる冬の夜空をキラキラと濡らしてゆく。





おわり。








宮原はワタルの代わりですか?>芦川?笑
単に、ひとりになりたくないもの同士。

しし座流星群の極大は18日夜半
(17日〜18日明け方にかけて)(翌日もいいらしい)
今年はアタリかもしれないらしい。
5年前の大流星雨までは届かないだろうけれど。
観た人いる?あれ、本当にすごかった。
一生でもう二度と見られないかもしれない。あんなのは。それくらい。

2006.11.17


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