顔に熱い雫がボタリと落ちて、うすく覚醒する。何が起こっているかを知覚する前に、力の入らない口の中に押し込められる塊、広がる青苦い味。
 覆いかぶさる男を蹴り飛ばすと、腹部に激痛が走った。が、痛みは怒りに換えられる。倒れこんだそいつの股の間に、まだ緩く勃ち上がってるものをおもいっきり踏みつけた。
 男にしては甲高い悲鳴が狭いトイレに響き、あまりに煩かったので、わめき続ける口にも一発蹴りをお見舞いしておいた。








to be close








「宮原!」

 ガチャン!突然開いた扉に、呼ばれた自分も跳ね上がるイキオイで驚いた。

「何だ…三谷かぁ。ノックくらいしろっていつも言われてるだろ?」

 芦川に、と続く言葉は省略する。
 はて、その芦川は英語科インターンがやってる課外授業のはずなのだが。寮に戻るのは下校時刻ギリギリ位。
 三谷がそのことを知らないわけはない。ということは、

「何の用?」
「美鶴が宮原の様子を見て来い、だって」
「ああ、5現に遅刻したからか」
「宮原が遅刻ってありえないよ。しかも物理でしょ?」
「腹痛でトイレに篭城してたんだってば。せーろがん飲んで一発解決」

 言いながら、胃のあたりを撫でる。やばい、本当にまだ痛い。
 渋いコーヒーでも飲んだみたいに、三谷は口元に不満を漂わせてる。気がかりをひとつに集結て、紛らわせられなくなったように。

「3年のナガノ、5現の途中で早退したって聞いた?」
「さあね」
「ここんとこずっと美鶴につきまとってただろ。今日こそ僕がやっつけてやろうと思ってたのに」

 はぁ、ため息がこぼれた。三谷は芦川を守るってことになるとかなり過激だ。相手次第では半殺しにしかねない。寄付金だかなんだか知らないが、ナガノに教師は甘かった。けれど、三谷は容赦しないだろう。
 普段温厚なだけに、ギャップを知る者としては放置しなくてよかったと僅かな安堵さえもある。

「昼休みに俺が話をつけておいたよ。ちょっと長引いて遅刻したけど、もう芦川に手を出せる状態ではないから」
「美鶴を守ってくれたの!?宮原ありがとうっ!」

 ぱぁっと笑顔を輝かせて三谷が飛びついてきた。椅子に座ったままだったから、後ろ向きに転びそうになる。普段なら、壁に手を着いて堪えるところが、また腹部の痛みで力を入れられず、結局床まで雪崩れるように倒れてしまった。

「いってぇ…。守るとか、そんなんじゃないし。あいつ、俺も腹が立ったから」
「宮原、首にキスマーク」
「え?」
「美鶴のじゃない、僕のでもない。…ナガノ?」
「何でわかるんだか」
「無節操だな。誰でもよかったのか、アイツ!」

 三谷の指がするする動いて、カッターシャツのボタンをひとつ残らず外していく。顕になる肌に鬱血の痕が5・6個?みぞおちに擦過傷混じりの大き目の痣。

「殴って、無理矢理かよ」
「結構派手に残ってるね。ま、昏倒してるうちのことだから、記憶に残ってないのが幸い」
「どこまで、やられた?」
「最後まで」
「!」
「は、やられなかった」

 あからさまにホーッと息を吐いて、三谷が崩れ落ちてくる。
 抱きとめながら、苦笑を漏らしてしまう。
 三谷は自分の大切なものが傷つけられたとき、自身が傷つくよりも深く後悔する。その対象の一番には芦川がいるけれど、背中に回る手のひらの熱は言葉よりも雄弁にココロを語っている。

「みや、はら」

 頬をつつまれて、柔らかな唇がふれてくる。ちゅ、ちゅ、軽くついばんで、角度を変えて深くなる。舌は奪うように動きながらも、沁みこんでくる、痺れるような快感。
 吐息よりも水を湛えた瞳に釘付けになっていると、三谷の指がメガネを奪っていく。

「みたに、おまえさ」

 乱れる呼吸の合間に覗く、泣き出しそうな笑顔。こういうところがいつまでも弱い。
 三谷の手のひらは、みぞおちの痣の上を滑る。優しく、癒すように。

「キス、上手いな」

 え?、びっくりした瞳がまた面白い。
 ふっと笑って、背を壁に預けて目を閉じると、また優しいキスが降ってくる。

 三谷と芦川が互いを必要としあうのと同じくらい、俺も、お前たちのことが大切なんだよ。

 言わなくても、伝わっているはず。








おわり。












※チャットに降ってきた萌えネタをいくつかお借りしたり、サルベージしたり。

1、宮原の顔に、
2、キスするときはメガネなしがいい
3、三谷は芦川よりもキス上手だったらいい

2006.10.18


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