抹茶アイス味










「美鶴も宮原も、抹茶好きだよね」
「ホント、オレ饅頭と羊羹以外に興味持てねぇけど」

 小村の通う高校の文化祭。男女共学だけあって、華やかさも賑やかさも男子校とは一味も二味も違う。
 午前の発表で小村はダンスステージの中央でスポットライトを浴び、散々女子の注目を集め、その後も見物に来ていた亘と合流すれば、隣の美鶴がまた凄まじく女子の視線を集めまくり落ち着く間も無かった。そこに宮原の提案で茶道部の茶室に逃げ込んだのだ。
 喫茶店風についたてが並んだ一番端に、ようやく死角を見つけてくつろげたところ。

「未だに砂糖3杯のコーヒーしか飲めないヤツに言われたくないな」
「抹茶の苦味と和菓子の甘味のバランスがいいんじゃないか」

 これが天才ってモンか、なんて亘が考えてると、小紋の着物に白いエプロンの茶道部員が頬を赤らめながら茶菓子を運んできた。小村が「サンキュ!」と手をヒラヒラさせると、さらに耳まで赤くなって下がっていった。

「人気者だね、カッちゃん」
「相乗効果でしょ?いっただっきまーす!」

 亘と小村が早速和菓子にぱくついた。亘は二口で、小村はひと口で。
 そんな二人を美鶴は呆れて眺めているし、宮原は苦笑して和菓子の形を楽しんでから、楊枝で小さく切って口に運ぶ。

「うん、甘い」
「宮原ぁ、女の子じゃねえんだからさ、ひと口で食っちまえよ」
「それもいいけどさぁ、後が困るんじゃない?」
「後?」

 首をかしげた亘のもとに、お抹茶が運ばれてきた。もともと部員が少ないのか争う様子もなく、1人ずつ御椀を運んできて「どうぞ」と4人分を置いて下がっていった。水谷のあたりで「キャー」と声が上がるのも、まあよしとしよう。

「いただきます」
「作法とか覚えてないよ…」
「まわして、いただいて、縁を指でぬぐう」
「そーそー!」

 しばしの沈黙。

「苦い…」
「普通だろ」
「平気なの?」
「そのために和菓子残してるのに」

 亘と小村の頭上に「!」が飛び出した、ように見えた。
 美鶴と宮原は涼やかに抹茶を飲んで、最後にひとかけら残していた桃色の和菓子を口に放り込む。

「「ごちそうさまでした」」
「「その手があったか!」」
「作法とか気にしないで楽しむものでしょ」
「やっと静かな場所に来たのに、余裕なくしてどうする」
「うぅ、すっげぇ苦いんだけど」
「…美鶴、口の中甘い?」

 亘は熱っぽい視線を隣に座る美鶴へ向け、その肩をがしっと捕まえた。
 何をする!?と言う間もなく、亘は美鶴に口付ける。

「んんっ!…わた」

 押さえ込まれる美鶴を直視できずうつむいた小村が、同じく額に手を当ててがっくりしている宮原と小声で言葉を交わす。

「アイツら、いっつもこんな感じ?」
「もう、慣れそうでイヤ…」
「みつる、あまいよ?」

 チラリと盗み見れば、舌は絡まってるし、美鶴の頬は色づいてるし、このエロい緊張感をどうしてくれよう。
 免疫の無い小村には刺激が強すぎてクラクラしてくる。口の中に溜まる唾液は苦いままだし…。
 ふと、思いつく。

「そうか…宮原の口の中も甘い?」
「ちょっと待った」
「試すだけ」
「こ、こむ…」











「器、下げてもよろしいですか?」
「はい。お願いします」
「お水、持ってきましょうか?」
「じゃあ、一杯…宮原いるだろ?」

 茶道部員の気配に、さっと元通りの態度に戻った亘と美鶴。
 壁際に崩れ落ちた宮原にも平然としている。美鶴は顔を背けてはいるけれど、口の端が笑う形になってるから、この状況を楽しんでいるに違いない。
 動悸が治まらない小村に、亘がぴしっと人差し指を立てた。

「カッちゃん、宮原は見慣れてるけど、やられ慣れてはいないから」
「え、そうなの?ごめん。ついイキオイで」
「何の味した?当ててみようか!」
「ミタニと一緒じゃねーの?」

 幼馴染も10年以上続くとこうなるのか。三谷と続くということは、芦川と続くことよりも大変なのかもしれない。俺もまだまだだな。
 宮原は、身体は混乱しつつも頭だけは妙に冴えて、今後の展開を考えて長ぁ〜いため息をついた。








終わる。












どうだ!カツミヤだ!!

・・・・・・

ごめんなさい。

2006.10.15


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