(『学祭』オマケ)




 舞台を次のクラスへと明け渡して、借り物の太鼓や小道具を慌ただしく片付けていると、舞台裏に小村とアヤがひょっこり顔を覗かせた。衣装を畳んでいる美鶴を見つけてアヤが駆け寄る。

「おにいちゃん!強かったね、暴れん坊将軍!」
「それか!」

 興奮気味に喜ぶ妹を前に、くだらぬ役をやってしまった後悔が少し和らいだ。
 小村は亘の側まで行って、談笑している。ミタニすごかったなー、カッちゃんのおかげだよー、等々親友会話が聞こえてくる。小村がダンスにハマってるというのは何度か亘から聞いていた。なるほど、舞台上での亘のハードアクションは小村直伝だったのか。
 そこにバタバタと割り込んでくる宮原。未だ緊張を解かず、ぐいっと二人の腕を引いてどこかへ連れて行く。亘だけがチラッと美鶴に視線を投げかけて。
 なんだろう、と首を傾げると、アヤがそうそう、と話を次いだ。

「カッちゃん、体育館に行くって言ってたよ」

 ふぅん、と生返事をしながら考える。確か、体育館は1年生は使用していないはずだ。見物にしたって、慌ただしすぎる。亘はまだ牛若丸の衣装も脱いでなかったのに。
 粗方、片づけが終わったところで、学祭委員の五十嵐がパンパンと手を打って皆の注目を集めた。

「体育館でやってる2年有志のブレイクダンスイベントを宮原たちがかき回しに行った!時間に余裕のあるヤツは見にいってくれ」

 期待にワッと歓声が上がる。(すぐに五十嵐がしーっ!と注意した)

「行ってみようよ。カッちゃんのダンス、すごく上手いんだよ!」
「…なんで、アヤが小村のこと知ってるんだ?」
「この間、学校の友達とテレビに出てたよ。おにいちゃん、テレビ見ないから知らないでしょ?カッちゃん有名人だよ?」

 これには美鶴も驚いた。知人がそんなことになっていたとは。
 大急ぎで自分の荷物をまとめて、アヤとふたりで体育館へ急いだ。
 暗幕でふさがれた入口からはひっきりなしに轟音が漏れている。
 アヤとはぐれないようにしっかり手をつないで苦手な人ごみに紛れると、暗闇のフロア中央部のみに白いスポットライトが当たり、重低音に合わせて2年生が踊っているのが見えた。結構顔の整った体育会系男が交代でダンスバトルをしている。観客(特に女子)の声がキャーキャー響いて煩い。
 一曲終わり、ひと段落の間に、現生徒会長がマイクを握ってステージに立った。その顔にピンとくる美鶴。忘れたい記憶その3かもしれない。(詳しくは省略)確か、亘も彼が嫌いだった。

「ギャラリーの中で、俺たちと、バトルしてみたいヤツ、出て来い!!」

 自信タップリだ。実際、さっきのダンスはすごく上手かった。
 ざわざわ声が溢れる中、ピンと手を上げたヤツがいる。

「ハーイ!ハイハイハイ!!」

 元気良く跳ねながらステージに入ってゆくのは小村だ。+額にひょっとこお面つき。
 続いて宮原と、亘も光の中に現れた。亘はまだ牛若の衣装も脱いでない。目立つことこの上ない。3人でニコニコ笑いながらも、ばっちり戦闘モードだ。
 対する2年生たちもニコニコ笑顔で受けてたつ。負けるわけが無いと思ってる。マイクを置いた生徒会長が、両手を大きく頭上で打ち合わせる。手拍子が大きくなる。他人を見下す笑みで挑戦者たちを顎でしゃくる。
 小村が隣のふたりにこそこそ耳打ちし、亘と宮原は親指で応えた。
 軽く身体を揺らして、「One/Two/Three/Four!」小村の声で、ステップが始まる。3人の動きはピッタリ揃う。
 歓声、悲鳴、絶叫、真っ白な光の中で踊るやつらを中心に、すべてが集まっていく。




* * * * * * * * * * * * * * * * * * * *




「すっごくかっこよかった!カッちゃんすごーい!!」
「でしょー!?アヤちゃんもっと誉めてー♪」

 ダンスバトルは1年生側が連続技をキメまくり大歓声を貰ったところで、宮原がミスって終わりになった。予定通りの敗北。とりあえずセンパイの顔はギリギリで立てておくものである。らしい。
 次のグループが代わって踊る中、亘たちは体育館の壁際にいる美鶴とアヤのところまで下がる。

「惜しかったね」
「2年よりもかっこよかったよ!」

 等々、ねぎらいの言葉が次々とかけられる。話題はちゃんとかっさらった。満足のゆく結果だ。
 一番端の人も少ない壁際の暗闇で、美鶴とアヤも3人の労をねぎらった。
 宮原は「次は地学部のプラネタ当番!」とまた慌ただしく去っていく。忙しそうだが活き活きしている。
 小村はアヤと一緒に校内の模擬店を巡るという。亘と同じように一人っ子だが年下の子の面倒を見るのが上手い。アヤのことを「妹にしたい!でもアニキが怖いから友達で〜」と弱気な本音を漏らしつつ、エスコートするのが楽しそうに体育館を出て行った。



「亘、衣装脱げ。いつまで目立ってるつもりだ」
「真っ暗なんだから目立たないよぉ」

 ひざ下までの小窓についた暗幕にもたれるようにふたりでペタリと座り込む。

「ダンス、上手かった。正直驚いた」
「へへっ。美鶴も誘おうって言ったんだよ?そしたら、カッちゃんと宮原がすっごくキレイにハモってさ。向いてない、だって」

 亘の思い出し笑いが聞こえる。つられて笑いながら、美鶴はこっそり小村と宮原に感謝しておいた。
 腰が落ち着いたところで亘はやっと牛若の衣装を脱いだ。中に着たままだった制服のスラックスはともかく、シャツは汗でべったりなのだろう。熱を含んだ湿気が、薄暗闇に満ちる。
 ひとりで汗かきやがって、なんて理不尽な嫉妬が美鶴の中に湧いてくる。

「暑い!のどが渇いたからさ、模擬店でジュース買おうよ!!」

 騒音の中、ハッキリ聞こえたくせに、美鶴は「なに?」と小さな声で答えた。
 聞こえなかったのかな?「だからー」と続く亘の頬を捕まえて、逆に美鶴が亘の耳元にささやく。

「お前、今日一日で人気者になりすぎ。ちょっと独占させろ」

 遠くのスポットライトが美鶴の濡れた瞳に映り込む。けれどそれは嫉妬、だけではなく、亘を自慢したい、誇らしく思う色がチラリと覗いた。
 どきりと胸を弾ませた亘の唇に、美鶴のそれが重なる。仕掛けられた柔らかなキスは闇に巻かれて深くなり、溶け合って繋がった。
 やがて、ダンスステージが終わりになる。天井のライトが次々点灯していく。
 離れ際、亘も美鶴の耳元に囁いた。

「…ジュースよりも断然うるおった。大好き、美鶴」



 亘が学祭の間中、女子の騒ぎから逃げまくることになるのは、この後から。






しまい。







2年生の生徒会長さんは、中学のときに美鶴に告白したツワモノという脳内設定です。
美鶴は亘のことが好きです。亘らしい亘が好きです。
うちの美鶴さんは、亘が友達(たとえばカッちゃん)と仲良く談笑していても、それが亘らしければ大抵嫉妬しません。でも時々拗ねるのがいいと思う。(笑)
ダンスはねぇ、高校生で上手な子たちを見ちゃったんですよ。ふふ。かっこよかった。若いエキスをじゅーっと吸ったよ。(変態だ)(通報しないでー)
あと・・・マツケンがすきですいませんでした。(汗)

2006.09.24


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