キズモノ




 亘が長袖の服を着ている。
 俺が長袖を着るのはいつものこと、当たり前だ。校内はどこもエアコンが入っているし、選択授業によっては吹き出し口の真下の席で冷風に凍えるからだ。
 亘は夏時期は半袖を着ているのが当たり前だ。暑がり属性。制服の衣替えの後もブレザーの下に半袖を着ていたりするのに。

「不自然」

 棘を混入して、投げつける言葉。
 亘はビクリと身体を振るわせた。言い訳を探して、瞳が泳ぐ。

「え?何が?」
「長袖。今度は何をやったんだ」
「別に」
「剥かれたいか」

 脅しだけれど、返答次第では本気に変わる。
 前に長袖を着ていたときは、自転車で帰宅中に散歩中の犬を轢きかけて、急ハンドルで盛大に転んだ擦過傷を隠すためだった。
 今回は顔に傷痕がない。
 ぎこちなく、おそらく無意識に隠そうとする左腕を先に捕まえて、袖を引き上げた。
 わずかに上げるだけで覗く白い湿布と、鼻を突く刺激臭。

「…やけどした」
「いつ、やったんだ?」
「昨日の夜。ご飯作ってて、フライパンに接触」
「まだ痛むのか」
「大分引いたけど、念のため」

 そっと冷湿布をはがすと、亘は痛みに顔をゆがめた。
 腕には赤く7・8センチほどのみみず腫れ。

「ばか」

 最低。つまらない。

 シャツの袖口のボタンを外し、くるくると巻き上げてやる。肘の上まで。
 湿布を元に戻して、目立つ白を別の白で覆い隠す。

「あ、リストバンドか。その手があった。これテニスの?」
「部活、全然行ってないけど。役立つとは思ってなかったな」
「ありがと。長袖、暑かったんだ」

 にっこり笑う亘。
 けど、俺からは苦笑も出ない。
 腕にある傷に、ばかばかしいほどの嫉妬が湧く。

「美鶴、どうして、ばかって言うの?そりゃ怪我した僕が不注意でバカなのは判るけど、そういう意味じゃないよね」

 あのな。
 お前を傷つけていいのは、俺だけなんだよ。

「教えてやらない」





おわり。









ああ、ちゅーのひとつもさせればいいのに!なんか日常のヒトコマになってしまった。
あれ?これはみつわたか?(どっちでもいいと思っている)

テニス部サボリな芦川はイメージ不二周助です。
なんか人間業ではないテニスをする人ですよ。(笑)

2006.08.27


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