Release! 2 (突然5話くらいの設定)




がっちゃん、がちゃがちゃ、がーちゃっちゃっちゃちゃちゃちゃちゃ!!!


『うわああっひ、引き込まれ…!』
『カッちゃん、あぶない!!く、っそー!許さない!』
『闇の力を秘めし(省略)レリーズ!!風よ、空へその咆哮を轟かせよ』
『ミツル、手加減してよ!』
『加減して何とかなるもんか。タイミングは一瞬だぞ』
『わかってる…!』
『水が引いた、今だワタル!』
『常闇の鏡…幻界へ戻れぇ!』
『…ぁぁぁあぁ、あ?あれ?ミタニィ!?』
『カッちゃん!よかった、無事だぁ!』
『今の、またまた超常現象!?す、すっげぇえええー!』


 三谷家のテレビ画面に映る宮原撮影の映像が、ピピと小さな電子音で静止した。

「いいなー!アヤもみたかったなー!」
「大変だったんだぞ…」
「学校のプールでこんなことがあるなんて」

 数日前からおかしいという話は聞いていた。プールの底に何故か冷たい水が溜まっていて、足が攣る児童が後を絶たないと。
 5年生のプールの時間に、それは爆発したのだった。飛沫を上げて数名に襲い掛かり、カッちゃんを水の中に引き摺り込んだ…。
 不思議なことに、常闇の鏡と真実の鏡が現れるときには、他の人間の姿が掻き消えたように見えなくなる。

「ああ、それは結界やな。幻界の力が漏れとるからやろ」

 ジョゾが宮原が作ったソースたこせん(解かります??>all)をばりばり頬張りながら説明する。すっかり三谷家に溶け込んでしまったジョゾ。亘の母、邦子など「マンションの管理組合に知られないように気をつけなくちゃ」なんてすっかりペット扱いである。

「それにしてはおかしくないか。アヤと宮原は例外なのか?」
「難しいことはよぉわからん。あはははは」
「笑って誤魔化すなよ」

 アヤが裁縫用の50cm竹定規を持ってすっくと立ち上がる。
 無表情で器用に定規をクルクルと前に後ろに振り回して、真正面でパシっと止めた。

「わ、上手い上手い!レリーズしたときのミツルの真似だね!」
「アヤ…いつの間に」
「えへへっ!!ゆーたろーおにいちゃんにダビングしてもらってれんしゅうしたの!」
「宮原め、余計なことを」

 話題に上った人物は、テレビから遠い位置にいる。ミシンを使って何やら作ってる。
 学年一の優等生の呼び名に恥じず、家庭科も優秀なのだ。
 ちなみにミシンは三谷母の所有物である。

がっちゃちゃちゃちゃ…ちゃっちゃっちゃ、がー、がっちゃん。

「…できたよ、アヤちゃん。こんな感じかな?」

 ハサミでちょきちょき、端の糸を切り落とす。白と黒の混じった、服?

「ゆーたろーおにいちゃん、ミシンがじょうずね!」
「アヤちゃんの裁断が上手だったからだよ。すごいね、アヤちゃんもお裁縫できるんだ」
「宮原、さっきから何を作っ…!!!」
「な、っつかしー!幻界の魔道士の服だ!アヤちゃんがデザインしたの?」
「そーだよ。むねのところにみどりいろのドロップビーズをいれたらカンセイ!」
「ビーズボタンを縫い付けるのはアヤちゃんにお任せしようかな」
「はーい!」

 アヤがポケットから大事そうにきれいな緑色のボタンを取り出して、ぬいぬいぬいと縫い付ける。
 艶のある白と、吸い込むような黒が混在する、綺麗な衣装だ。
 その出来映えに大満足な、ミツル以外全員。

「まさか、これを、着ろとか言うんじゃないだろうな?」

 声を震わせるミツルに、アヤと宮原は揃って言い放つ。

「ヴィジョンのがかみをしずめるのはトクベツなじけんよ!」
「そんな時には、特別な服を着て記念撮影がお約束だよ!」
「ミツル、着てみて!ね、お願い!」
「ワタルまでそんなことを!!」

 形のいい唇を噛んで、逃走を図ろうとしたミツルの足を、宮原が捕まえた。
 どさっと倒れたところをアヤが腰に乗っかって押さえ、ワタルが調子に乗って上着を引っ張って脱がす。

「わ、や、やめろって!!脱がすなー!」
「だって、脱がさないと着てくれない…てか、ミツル…肌が、すっごくキレイだ…」
「ホント。色白いよねぇ…ドキドキするよ」
「おにいちゃん、ズボンもぬがしていい?」
「き、き、着替える!自分で着替えるから、放せーっ!!」

 これを、俗世(腐女子)はミツル総受けという。
 このまま総受けにされてはたまらない!とミツルはいろいろギリギリで踏みとどまり、この場は仕方ないと流されることに決めた。
 ワタルの部屋を借りて、自分の服を脱ぎ、デザイン:芦川アヤの服を身に着けてみる…

「…アヤ、これはいったいどういうことだ」
「わー!おにいちゃん、にあうにあう!!」
「「……!!!!!」」
「スリットは必要ないだろう?」

 大きな切れ込みが太ももの高い位置から入っている。縫っていた宮原でさえ、モデルが着てみた状態の想像を絶する色香に、血の海で溺死しかけている。

「どくしゃサービスだよ、おにいちゃん」
「こんな字サイトで読者サービスもクソもあるか!(本音)」

 それでもとりあえず脱がないのは、ミツルにだって策略があるからだ。
 アヤに言って、ワタルの衣装も作ってもらおう。幻界の見習い勇者はもちろん、着ぐるみ系も。物語やゲームの勇者のいでたちというのは、恰好よくていけない。
 自分ひとりなんて絶対許さないぞ。羞恥心は怒りと野望にふつふつと変換する。

ぺれ。ぺれれれれれれ。ぺれれれれれれ。ぺれれれれれれ。

 電話の呼び出し、ワタルがヨレヨレの酸欠状態を引き摺りながら応じる。
 カッちゃんからだ。声が大きい(向こう側が騒がしい)ので電話越しでもみんなに話が通る。

『三橋神社の十五夜祭に来てるんだけどさぁ、いつもより夜店が楽しすぎるんだ!ミタニは来ねぇの?』
「もう6時かぁ、そろそろ行こうかな。その、楽しすぎるって、何?」
『よくわかんねぇんだ。けど、ベビーカステラとか綿菓子とかタコヤキとか、すっげぇ山盛りなんだ』
「タコヤキー!?行きたい行きたい!ジョゾもおまつり行きたい!」
「わあっ!ま、まち…」(ジョゾー!?おとなしくしててくれないと一緒に行けないよ!)
『え?今の何?』
「ええと、テレビの音?」

 公衆電話の10円の落ちる音が何度か続いて、じゃあねあとでね、と切ろうとした時、

『わああっ、ワタルー!?なんか、夜店が…夜店があああっ!!』

 カッちゃんの叫びをラストに、電話が切れた。
 呆然とするワタルの肩をミツルが叩いた。

「行くんだろ?急げよ」


・・・・・・・・


「これはすごいねぇ」

 ビデオカメラを構える宮原が呑気に言い放つ。アヤも驚いているというよりは楽しそうだし、そこにいる一般人の人たちも、楽しそうではある。
 出店のいろんなものが巨大化しているのだ。
 食べ物はまだいい。でかい焼き鳥、でかいリンゴ飴、でかいカキ氷…。
 金魚もヒヨコもカブトムシも、となるとちょっと不気味だが、神社内に潜むお陽気な空気に全員が支配されている。

「鏡、封印しなくちゃいけないのかな?」
「ワタル、鏡の思うツボやな。おもろいけど、ええことかわるいことか、よぉ考えてみ」

 口調だけは真剣なくせに、巨大タコヤキをぽいぽいぽいっと口に放り込むジョゾ。
 アヤが巨大綿菓子を食べながらきょろきょろと辺りを見回して、一軒のどじょう釣掘をついっと指さした。

「あそこにカッちゃんがいる、とおもう」
「小村が…?あのどじょう、大きすぎるんだが」
「まさか、食べられちゃったとか?」

 言ったそばから、店を覗き込んだ浮かれた一般人がぱくっと頭からのみこまれた。

「ひいいいいっ!あんなのと戦うの?!ぬめぬめは勘弁してよー」

 情けない声を上げながらも、ワタルは封じてある剣をフルサイズに戻した。
 途端、どじょう釣堀の雰囲気が一変する。
 つぎつぎとどじょうが巨大化し、例えるなら幻界の水人族のどじょう版になってにょろんにょろんとワタルにべたべたのヒレを振り回す。

「ぎゃー!キモチワルイー!でも水人族だと思ったら戦えないよっ!」
「それも鏡の意思だな。ワタル、お前を心読まれすぎだ」

 ミツルが封印解除した魔道士の杖をくるっと廻して、その尖った先端を地に着けた。
 現れる魔方陣ときらめく雷撃。2体のどじょう人間が倒れ、中から飲み込まれていたらしい小さな子供が出てきて倒れた。

「ほら、情けないことを言ってる余裕はない。きりきり戦え、見習い勇者」
「う、わかった!この中にきっとカッちゃんがいるんだ!鏡も、どこかに」
「わいも手伝ったるでー!ごおおおお!」

 ジョゾが火を噴く。強いダメージを受ければどじょう人間は倒れていく。
 ワタルも剣を振るう、1枚・2枚・3枚おろし!腹開き・背開き!勇者の剣はいまや切れ味鋭い料理包丁!
 だが、どじょうはいっぱいいるし、金魚すくいの店からも金魚人間がべっちょべっちょと現れて、ワタルとミツルの周りは大混乱に陥る。

「きゃあああぁぁんっ♪」

 少し離れたところから、その様子を見守っていた宮原の隣に、真っ白い綿菓子の山が生まれた。

「アヤ!?まさか、綿菓子山に埋もれたのか!?」
「そうみたい…」
「宮原っ!お前、冷静にビデオ撮ってる場合か!アヤ、いま助けるぞ」

 宮原は手にしたビデオカメラを冷やしパイナップルの夜店に置いて(もちろんレンズはワタル方面に向いている)、焦って混乱しそうになってるミツルににっこり笑った。

「芦川、さっさと鏡を封印しないと、もっと酷いことになるよ。アヤちゃんは僕がなんとかするから」
「宮原、お前、何かを知って」
「知らない。でもわかるよ。鏡の意思ってヤツだよね。芦川を本気にさせる手段にアヤちゃんが利用された」

 ミツルの手の中で、握られた杖が悲鳴をあげそうだった。上部に付いた宝玉がキラキラ輝きを増す。
 くるりと宮原と綿菓子山に背を向けた。
 悪戦苦闘を続けるワタルに向かって、大きくはないけれどハッキリ通る声で、

「ワタルの剣に竜神を召喚する。一撃でなぎ払え」
「えええ!?よくわかんないよっ!!なんだよこれー!?」

 ワタルの足元に今までものとは比較にならないほど大きな魔方陣が現れた。ミツルが使う円形のものではなく、地割れみたいな模様が。

「地の竜、天の竜、和合しその吐息をもって我らの敵を焼き尽くせ!」

 真昼の太陽が、ワタルの手の中に降りてきた。刀身に赤と青の竜が纏わりつく。勝手に暴れようとする光を、ワタルは制御しきれない。
 勢いのまま剣を横に一閃すると、白い焔が駆け抜けて、サカナ人間たちを粉々に砕いていく。倒れ落ちて行く一般人多数。
 その中にカッちゃんの姿を見つけて、ワタルが駆け寄る。
 カッちゃんの手の中から、白く輝く鏡のカケラが零れ落ちる。

「ミツル、封印を!」
「真実の鏡、汝の在るべき世界へ戻れ!」


・・・・・・・・


 昼間の残暑とは打って変わって、初秋の冷気が夜店に漂う。
 何事もなかったように、三橋神社の十五夜祭は、いつもと同じ賑やかさを取り戻した。

「びっくりしたぜ!ワタルの電話を切ろうとしたら軽トラくらいのクワガタムシに追いかけられて」
「ちょっと、恐怖体験だよね」

 和やかにおしゃべりを続けるカッちゃんとワタル。どこか浮世離れしている。
 宮原とアヤは、頭から水をかぶっている。融けた綿菓子が髪に服に張り付いて、気持ち悪そうであり、甘いにおいに嬉しそうでもあり。

「ねえ、アヤちゃん。なんで綿菓子が大きくなっちゃったの?」
「おいしかったから。もっとたべたいなーやまもりたべたいなーってかんがえたの」
「ふーん。でも芦川…おにいちゃんがすごく心配してたよ?」
「ごめんなさい、みつるおにいちゃん」

 申し訳無さそうに、ちょこんと頭を下げるアヤに、ミツルが折れないわけがない。
 無事ならいい、そう思おうと努力してみる。
 あの混乱の中で、宮原はアヤを助ける為に、綿菓子山に水をかけて融かしたのだろう。けれど。

 どうやって?

 ミツルは、冷やしパイナップル屋に置かれていた宮原のビデオカメラに手を伸ばし、中からテープを拝借した。

「宮原、何か隠してる…」





中途半端に終了。









つづくかどうだかわかりません。(笑)
シリアスにオチながらも、ミツルの服は太ももから下がスリットでみえみえです。
脳内絵はチラリズムな感じで展開中。(バカモノ>自分)

2006.08.26


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