吸血プリンス







「いてっ」

 指先を庇って、反射的に身を硬くする。
 ぽてっと読んでいた雑誌が落ちた。
 顔を上げると、小さな悲鳴も周囲の注目を集めてしまって、慌てて「なんでもないです」風の顔を作る。
 集まる視線が離れてほっとしながらも、はがれることのない、まばたきひとつしない眼。

「切ったのか」

 答えるまでもなく。
 美鶴は僕の落とした写真雑誌を拾い上げ、開きっぱなしになってたページを確認する。
 砂漠の黄色と空の青。
 加工のない景色。
 ネジオオカミと赤い翼があれば、幻界だよね。
 次のページに移ろうとしたら、まだ早いんじゃないの?って感じで僕の指を切りけた。

「深くはないよ。ちょっとだけ」

 おそるおそる、自分の傷を確かめる。
 真直ぐに白く痕が浮いている。ふと、圧迫してる指を外すと、しゅっと赤い染みが浮き上がった。

「みせて」

 腕ごと引っ張られる。
 傷口に赤い雫がぶら下がる。
 落ちる、
 雫が美鶴の唇に吸い込まれた。
 伏し目がちなのは感情を読み取られないようにするため。
 大丈夫か、とは言わない。
 どじ、とも言わない。
 痛みを気遣ったりもしない。

 けれど、美鶴の唇は、とても優しく傷に触れる。

 美鶴は左手で僕の指の血管を圧迫しながら、右手は僕の胸ポケットから生徒手帳を探り出し、学生証の裏に挟んであった絆創膏を抜き出した。
 器用にシールを剥がす。
 唇が離れる。

「ばか」

 冷たく言い放つ美鶴。ちょっと怖い。
 絆創膏は綺麗に傷口を隠してしまった。きっと自分で100回やってみても、こんなに上手にできないだろう。

「ありがと」

 なんとなく指先を見つめる。
 さっきまでここに美鶴の唇が触れてたんだな。
 意識すると、急に顔が火照ってくる。指先も、痛みが増しそうなくらい気になってくる。
 どうしよう。
 絆創膏の上に、自分の唇をあててみる。
 戻れ、戻れ、動揺するな、ただの傷の手当てじゃないか。

 ククッ。
 美鶴が笑う。
 艶然と、というのはこういう笑みだな。吸血鬼に魅せられたみたいに動けない僕。
 美鶴はチラリと周囲に視線を走らせた。

「お前が悪い」

 一瞬の後、僕の唇に血の味が広がった。






おわり








ミ、ミツワタ!?

年齢設定全然考えてなかったよ…高校生でもいいですか?

2006.08.03


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