宿題

























 夏休みも8月に入ると、学生寮も人はまばら。残っているのは美鶴のように何かしら家庭に事情のある者や学習・部活で帰れない者くらい。
「親弟妹孝行してくる」
 同室の宮原も先月のうちに単純な宿題をさっさと済ませて、賑やかな実家へ帰っていった。
 早めの夕食を終えると居残り組の級友が美鶴に遠慮がちに声をかける。
「駄弁る?」
「来客」
 短く答えると、相手はほっとして次に目をまるくする。
「嬉しそうじゃん芦川」
 そうかな。表情を改めようとするけれど、今は普段の顔がわからない。元に戻るとしたらあいつが帰ってからだろう。



 亘は窓を開けて外をきょろきょろしてる。この暑いのに。エアコンが効かなくなる。虫が入る。
「ホントにいなくなったね、寮生」
 どこか遠くでテレビの音と、合わせて笑う数人の声。
「ぎっしりいると煩い。まるで蜂の巣」
 その小部屋のような2段ベッドの下段に座ると、亘はようやく窓を閉めて今度はエアコンの噴出し口の真下にぺちゃりと座る。いつもの通学と同じに自転車を飛ばしてきたんだろう。前髪が汗で額に貼り付いたままになってる。
 汗だけじゃない。薄く立ちのぼるにおいは、この部屋の人間のものじゃない。何もしないうちから亘の存在感は強い。
「物理の宿題、わけわかんね」
「苦手だっただろ。何で選択するんだ」
「美鶴が取ってるからに決まってるじゃん。面白いの?」
「理論が解かれば簡単」
「ふぅん。じゃあ美鶴と一緒だ」
 床面に近いところで嬉しそうに笑うな。俺はそんなに単純だったのか。
「僕、美鶴得意だもん」
「まだ間違えるクセして」
「じゃあそれも教えてよ」
 誰が?甘えるなよバカ。足を伸ばして軽く後頭部に蹴りを入れてやる。

 俺から亘に触れること、それが合図。

 膝立ちになって近寄る亘に口付ける。何度かついばむと亘の腕が背に回る。
「汗、外暑かったんだろ?」
「うん。シャワーしたほうがいい?」
「もういい。遅い」
 どうせ亘のにおいにつつまれるんだ。諦める。
「じゃあ早くしてシャワーする」
「ケモノめ」
「ケモノは美鶴だろ?噛むし」
 誰のせいだ。声を上げるなんてできるわけが無い。学生寮だぞ。
「でも今日はさ、誰も居ないし。噛まないでよね」
「イヤだ」
「強い美鶴も好き」
 亘に閃く笑みは勝負を挑んでる。当然受けてやる。
 僅かに身を引くと亘が追ってくる。
 距離がゼロになり、食むように唇を吸われ、舌が絡まる。勢いのままひとりだっていっぱいの狭いベッドに倒された。
 キスの間、目を閉じずにいると、亘の目も薄く開いて、驚いて、細く笑む。指が優しく顔にかかった髪を払う。
「いいよ。見てて、僕がどれだけ美鶴のこと好きなのか」
 ふっと笑う。俺はこんなにもおまえのことを欲してる。
「お前、相変わらず余裕あるな」
「無いよ。ギリギリだもん」
 口調は子供の頃のまま。なのに身体は逞しくなった。
 中学から自転車で通学を続けて(学校まではかなり距離がある)腕に足に胸に、無駄なく筋肉がついた。均整の取れた身体。背も高くなり、力も。それでも細い腹筋あたりに触れると「ひゃはっ」とくすぐったそうに声を上げる。
 悪戯を繰り返してると指をとられて、その手の甲にちゅう、とキスされる。空いた方の手でするすると俺のシャツを脱がす。下も、ジャージと一緒に全部剥ぎ取られてしまう。

 全身に亘の視線を感じて隠しようも隠れようもなくいたたまれない。
「みつる、きれい」
 亘は胸の少し左、心臓の上を触れるようになぞってから、唇を落とす。いつもそうする。
 この心臓は亘の為だけに動いているのを自覚する。この鼓動は亘のものだ。

 唇がすべり、左胸の尖りに舌が届く。湿る吐息を呑み込んだ。
 こんなとき、優しいばかりの亘は残酷だ。焦れったい痺れが右の胸に、下腹部に集まる。
「わたる」
 追い詰められてるのは俺のほうだ。待ちきれない。
「美鶴?」
 頭を振って、熱と痺れを振り払う。身を起こして亘のジーンズに手をかけた。ボタンをはずして引き下ろす。ついでにブリーフも。自転車に乗るときトランクスだと困るからだ。理由もいちいち思い出しては笑いがこみ上げる。
「何だよ、美鶴」
「形のいい尻だなって思ってさ」
 ゆるく、かたちを膨らませる亘のそれを指でやさしくつつんで、唇をよせる。先端を舌先でこじ開けて、丸い頭をくるくる嘗め回すと、切なげな亘の吐息と一緒に硬度を増して膨らむ。
 全体を唾液と先走りで濡らして、口の中に含む。雁首を唇で絞めて裏側も舌でなぞると、亘の身体がびくりと震える。ゆっくり頭を上下に動かしてだんだんその先端を奥に咥えていくけれど、咽のあたりまで呑み込んで息苦しくなっても、唇は根元に届かない。困るな、大きくなりすぎだろ、亘。
「美鶴、みつる、夢中になってる?」
 こぼれる体液を指ですくって亘の胸に擦り付けた。刺激に馴れてない柔らかな粒を爪で押してやる。
「痛いよ、美鶴」
 快感じゃない本当の苦情。
 仕返し、と亘の両手の指が俺の胸をまさぐって、小さな突起になった部分を爪でぎゅっと押しつぶした。
「んん!!…ぃああっ!!」
 唇が緩んで亘が離れる。全部、持って行かれる。
 悲鳴はかろうじて堪えた。
「ごめん、痛かった?」
「わたる、おまえ、加減くらいしろよ」
 息を乱したまま訴えると、素直にうん、と頷いて今度はゆるく胸を摘まむ。ゆるくても、さっきの痛みが退かないままだから、じんじん熱が集まって広がっていく。
「キモチイイ?」
「聞くな。ばか」
 睨みつけてやったのに、亘は嬉しそうに笑ってる。憎いくらい、愛おしい。
 改めて、俺はベッドにつっ転がされる。
 亘のキスが、脇腹に、臍に、胸に、肩に、鎖骨に、咽もとに、耳に、瞼に、ちくちくと降り、また唇に戻ってくる。乾きを覚えて舌を伸ばせば、しっとりと暖かいものをくれる。
 指は別の生き物みたいに、俺のものをいらって蜜を集め、亘のものをいらってさらに蜜を集め、ぴちぴちと水音まで拾って俺の脚の間を探る。
 羞恥心よりも性欲が勝ってくる。膝を許してその場所を弛緩させると、予想以上の早さで指が沈んで行く。
 ゆっくり大きくかき回されて、口の中も同じ動きで犯されて、くぐもった嬌声が咽の奥から漏れてしまう。
「みつる、もう、いい?」
「は・・・ば、か・・・やりたいように、しろよっ」
「こえ、きかせて。もっと」
「それはイヤ」
「じゃあがんばって。俺もうガマンしないよ」
 亘の一人称が俺になった。瞳の中に優しいだけじゃない色が見える。
 最初からそういうつもりだろ。




 指を引き抜かれると、喪失感に情けなく呻いてしまう。
 逸る気持ちは亘も同じで、準備もそこそこに亘のものが押し当てられ、少しずつ逡巡しながら埋められていく。
「みつる、みつる、大丈夫?」
「おまえ…だいじょう、ぶじゃ、ないって言っても」
「止まらない、けど」
「じゃ、聞くなっ」
 強烈な痛みに反して、からだは次に来る快楽を知って震える。
「全部はいっちゃう。きついよ、みつる」
「きついのはおまえじゃないって」
「そうだね・・・動くよ?」
 言いながら、亘は辛そうに笑む。
 いろいろ限界。自分を抑えること、俺を追い込むこと。
 もう、いいから、苦痛の向こう側に、俺も早く連れて行ってくれ。
 抱きしめたい手には力が入らない。代わりに指先に力を込めて亘の背中を引っかいてやる。
「わたる、はやく」
 漏れた声は、信じられないほど甘ったるい。




 うなじのあたりに、刺す痛みが走って覚醒する。
「あ、美鶴、気付いた?」
「…今の、おまえ、またやった?」
 見えないところに咲かされた赤い花。鬱血が消えにくい肌だから困ると言ってるのに。
 だるい思考が徐々にハッキリする。
「へへっ所有印ってヤツ?」
 悪びれない亘の胸を、平手で思いっきりびしっと叩いてやった。
「手形―!?」
「所有印ってヤツだ。…髪切りたかったのに」
「ごめんごめん。あっつー。汗かいた。シャワー借りていい?」
「さっさとしろよ。その後、物理の宿題やるからな」
 ぱかん、と現実で殴ってやる。亘は予想通りがっくり項垂れた。
「…明日にしない?」
「おまえのタフさに付き合ってられるか。休憩させろ」
「物理が休憩なの?」
「終わるまで俺に触らせない。おまえにも触ってやらない」
 はあい、わかりましたー。ぼそっと呟く亘。つまらなそう。可笑しいやつ。
 一声、押しておくか。俺にしては大サービスだぞ。
「ちゃんと教えてやる。早く終わらせろよ」






おわるです。
















最後、みつるさんはご機嫌です。あはは。
高校一年生くらいかなー?(はっきり決めてません)
中高一貫校で中等部の時の寮は4〜6人部屋で、高等部から2人部屋、みたいな。
わたるさんはおかあさんとの暮らしも大事なので、チャリンコ通学です。
宮原くんは高等から寮生です。そんな感じ。部活もやってみたいお年頃。


某所にて頂いた宿題ネタでした。

× 男子寮/ルームシェア 脳内で折り合いがつかなかったので、おしかけわたるさん
○ 声を堪えるみつるさん 聞かせて欲しいわたるさん
○ イイ?って聞くわたるさん、解かれよと思うみつるさん
○ みつるさんにはキスマーク、わたるさんには引っかき傷 ビミョーに隠してあります。

おそまつさまでした。

ところで、わたるさん。
・・・せめてこんどさんをつければ??(よけいなおせわです)


2006.07.19


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