11歳の知識欲


 放課後は本を読むのが美鶴の日課。
 学校の図書室の本はあらかた読んでしまって、百科事典か図鑑くらいしか残っていなかった。興味の無い知識を溜め込むことに退屈していると、それが亘にはわかってしまったらしい。図書館へ行こうと誘われたのだ。
 以来、塾の無い日はふたりで本のページを捲っている。

 一時間ほど読んで、美鶴は目の前で同じように没頭してる亘をふと観察する。
 残り少ないページ、文字を拾うペースが速くて、次のページに移るのも待ちきれないほど急いでる。
 面白い本に巡りあえたらしい。
 最後の数ページには、ほっと息をついて安堵の表情さえ浮かべている。
 ぱらり。真っ白な終わりを捲ったところで、美鶴に気付いた。

「あ。ええと、終わった」
「見ればわかる。随分楽しそうだったな」
「うん。…映画は見てたけど、原作本を読むのは初めてだったんだ」

 亘がぱたんと裏表紙を閉じて、本を立てると背表紙に見えるタイトル。

『ハリーポッターと賢者の石』

「面白かったのか」
「…美鶴は、読んで、無いよね?お子様本だし」
「読んだよ、去年。原書で」

 亘は何か言いたそうに口をパクパクする。反応が面白い。

「英語、だよね?」
「最初から読めたわけじゃない。辞書を引きながら読んだ。そうか、日本語訳も面白いのか」
「美鶴は、こーゆーファンタジーみたいなのは読まないと思ってた」
「…僕が幻界で何をやっていたのか、亘は忘れたのか」
「忘れてません…魔道士です」
「よろしい、勇者殿」
「ところで、今、美鶴が読んでるのはどんな本なの?」

 同じ種類の本を読むと知って、亘は嬉しそうに美鶴の手元を覗き込む。
 残念ながら、美鶴が読んでいるのはファンタジーではない。
 栞を挟んで本を閉じて、亘と同じように背表紙を見せる。

「も、も、も?」
「模倣犯」
「あ、そうそう!知ってるよ、その話」

 もほうはんが読めなくて何故知ってるんだろう。

「映画でやってたよね。ナカイクンがかっこいいって」
「ナカイクンがかっこいい?」
「見たこと無い?確か、お母さんがビデオに撮ってるよ」
「ふぅん」

 むくむく湧いてくるのは嫉妬。
 亘が知っていて、美鶴が知らないことがあるのが悔しい。
 無関心を装いながら、美鶴は気になって仕方が無い。
 かっこいいナカイクンってなんだ。

「この本、読み終わったら…」
「…え」
「いや、いい」
「ビデオ見る?お母さんに頼んであげようか?」

 美鶴の感情を見抜いた亘がニコニコ笑ってる。

「自分で頼む。おまえには頼まない」
「えー!一緒に見ようよ、美鶴!」
「うるさいな」

 本の整理をしていた司書が、「静かにね」と小さく声をかけた。
 びくり。首をすくめた。
 亘も、美鶴も。




おわり





好き勝手にやりました。
そういえば、ハリポタで英語を勉強しようみたいな本もあったよね。
読んでないけど。
ついでに、模倣犯は読んでませーん映画も見てませーん。

2006.07.09


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