100人の旅人を迎え、101人目と入れ替わる。
 丁度、1000年。
 永遠の様な時。
 それは瞬きひとつの間。



moment



 一学期の終業式は欠席。
 僕の中であまりに現世が遠く、急な引越しを理由に学校には行かない。
 優しい叔母は僕と彼女自身を励ますように、部屋を片付ける。

「本当に行かなくていいの?美鶴君」
「早く終われば、少しでもあやに会いに行けるから」
「そうね。あやちゃん、最近笑顔が増えてよかったわね」

 ほんの少しだけ変わった運命。
 妹は、いるけれどいない。戸籍上はもう妹ではない。養女に迎えられた家で不幸な事件を忘れてくれればいいけれど。
 そのためには、いつまでも「あやのおにいちゃん」ではいられない。
 けれど、あやが生きていることが唯一の救いだったから、訣別は怖れない。

「ごめんなさい。私が不甲斐ないから、こんな短い間に転校なんて」
「いいえ」

 厄介者を押し付けられたかわいそうな叔母に、甲斐性なんて求めていない。

 荷造りを終えて、夏の強い日差しだけががらんとした部屋に満ちる。
 水槽のような部屋。
 窓の外。
 新緑の木々、朱色の鳥居、青いシートのビル。

 あいつはまだ憶えているだろうか、僕のことを。
 あいつのことだから、忘れてしまっているかもしれない。

 ふと、学用品の詰まった鞄をあけて、何も書かれる事の無かった連絡帳を千切る。
 指がしなやかに動いて、折り上げる、紙飛行機。
 窓を開けると、夏らしい重い風がさわと部屋に吹き込む。
 うまく飛んだら、あやにも折ってやろう。

「これで、さよならだ」

 願いを込めて、指から離れる白。
 そう告げれば、またあいつに会える。そんな気がするから。
 きっとそれは1000年よりは短いだろう。
 ならば、瞬きひとつの間。

 空に溶けた白は、扉の向こう側と同じに輝いて、消えた。



おわり







あ、あれ?もちょっと痛くしたかったのに…


2006.07.05


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