St. Valentine's Day 〜カノジョの場合〜 1話 |
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それはお昼休み。 あたしが口に卵焼きさんを入れようとした瞬間を狙い澄ますように、アメリアの口から放たれた。 「リナさんもチョコレート買いに行きますよね?」 「なっ・・・」 あたしは落ちそうになった卵焼きさんを慌てて受け止めた。 毎回何で唐突なのかな。この子は あたし達は今、学校の食堂でお弁当を広げている所だった。 当然周りには人が一杯いる。 あたしはそうっと辺りを窺った。 幸いにしてアメリアの声は雑踏の中に紛れたらしい。 ホッと一安心。 「わたし、家族以外にチョコあげるの初めてなんです!」 「あのねぇ、アメリア」 あたしはフォークをハンバーグに突き刺した。 「何であたしがチョコレートを・・・」 「いやですぅ、惚けちゃって」 このっ、このっ。 アメリアがウリウリとあたしをつついてくるが、力が入りすぎててどつかれてる感じがするぞ。 まあ、アメリアが浮かれるのもわかるけどね。 「この間、ガウリイさんといい雰囲気だったじゃないですか」 う゛っ。 絶句するあたしに、アメリアは身を乗り出してきた。 あんた・・・目が輝いてるわよ。 チョコレートねぇ・・・ うーん。あたしは考え込んだ。 その時も、事の起こりはアメリアだった。 「リナさん。ダブルデートしませんか?」 「はぁ?」 あたしはマジマジとアメリアの顔を眺めた。 何を唐突に言い出すかな。この子は。 アメリアはあたしの高校の後輩で、ちょっと正義オタクが玉に瑕だけど素直でいい子なのよね。 同じコンビニでバイトしてることもあってあたしは随分アメリアをかわいがっていた。 今もそのバイト中。 客が居ない時を見計らってたんだろうけど、随分唐突に・・・ アメリアは期待に目を輝かせながらあたしの返事を待っていた。 Wデート? ははぁーん。 「もしかして相手はゼル?」 ボウン。 アメリアが爆発した。 「いやだぁ、わかっちゃいました?」 わからいでかっ! あんだけ毎日話を聞かされれば、誰だってわかる。 ゼルはこのコンビニの深夜シフトに入っている大学生なんだけど、昼間人手が足りないときに良く駆り出されるので あたし達とも顔を合わせる機会が結構あった。 舞愛想、ぶっきらぼう、なんだけどアメリアはゼルを気に入ったようで、 ここん所毎日のように彼の話を聞かされていた。 まあ、悪いやつじゃないし。 ―――からかうと面白いし。 あたしはかわいーーい後輩のために一肌脱ぐことにした。 「いいわよ」 「本当ですか?」 飛び跳ねるようにして喜ぶアメリア。 でも一つ疑問。 「何でWデートなの? 二人っきりの方がいいんじゃないの?」 「ダメです!交際の始まりはグループ交際からと昔から決まってるんです!」 あー、はいはい。 わかったからカウンターに登るのは止めようね。 お客が居ないのをいい事に、カウンターの上で拳を握りしめるアメリアにあたしは手を振った。 これっさえなければ、本当にいい子なんだけどなぁ・・・ 記念すべきWデートは誰の趣味だか――言うまでもない――遊園地だった。 相手との待ち合わせは駅のロータリー。 あたし達が待ち合わせの場所に着いたのはかなり早い時間だった。 それもこれもアメリアの所為。 あたしは訳あってアメリアの家に泊まっていたもんだから、 朝からアメリアの早く早くコールの洗礼を食らってしまった。 ・・・約束の時間までまだ30分以上ある? そう言えばアメリアの事に必死であたしの相手のこと聞いてなかった。 今のうちに聞いとこーっと。 「ねぇ、アメリア。ゼルの連れてくる人って誰? 何か聞いてる?」 ソワソワと道路の方を見ていたアメリアが目をパチパチと瞬かせた。 「リナさん、相手の方、知らなかったんですか?」 「うん。だってアメリア言ってくれなかったじゃない」 「えと、あの、その・・・ わたしも聞いてませんでした」 おひ。 ま、仕方ないか。浮かれてたもんね。 それにあたしはおまけだし。 それにしても寒いなぁ。 まだ時間はあるし、どこかで時間でも潰そうかな。 でもアメリアのこの様子ならここから離れないだろうなぁ・・・ どうしようかと思ったとき、一台の車が近づいてきた。 もしかして? 思った通り降りてきたのはゼルとあたしも見知った顔。 「あれ?ガウリイ」 アメリアと近づいていくと手を上げた挨拶してきた。 「よう、リナ」 ガウリイもゼルと同じくバイトに入ってきたやつで、 こいつがバイトに来た途端深夜の客が増えたと伝説になった男。 担当は深夜シフトなんだけど、何故か昼のヘルプに入ることが多かった。 大学生って暇なんだね。 昼のヘルプに入るって事は必然的にあたし達とも一緒になることが多くて、こいつの事はよく知っていた。 黙って立っていたらモデルで十分通るのに、実は中身はクラゲだとか。 野生のカンを生かして妙に鋭い突っ込みが入るかと思えば、 とてつもないところで大ボケをかましたり。 とても年上に思えなくて、つい叩いてしまった時も、笑って許してくれた。 半年もすればすっかり友達気分。 ガウリイもゼルに引っぱり出された口なんだ。 相手がこいつでホッとした。 今日一日の事とは言え、ヤなやつが相手なら大変だもんね。 その点こいつなら、気心も知れてるし。 これで思う存分、アメリアのバックアップに入れるってものよ。 うん。 To be continued... |
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