すのーまじっく



「お〜いリナ知ってるか?
ここって願いの叶う雪が降るんだってさ」
あたしが部屋で魔導書を広げているとノックもそこそこにガウリイが飛び込んできた。
願いの叶う雪ぃ?
またそんな胡散臭い話を・・・
魔導書から顔を上げてガウリイを見れば、その顔一杯にいかにもワクワクしてますと書かれている。
思わず眉を顰めるあたしに気が付かず、ガウリイは一人でどんどんと話を進めていく。
「その年の最初の雪を捕まえた人の願いが叶うんだって。
みんな今晩あたり降りそうだから丘に登るって言ってるんだ。
リナも行かないか?」
「う〜〜ん、悪いけどあたしはパスするわ。
いつ降るか分からない雪を待つぐらいなら、
自分の願い事ぐらい自分で叶えるから」
って本当は寒いのが嫌なだけだけど。
大体最初の雪ってんな曖昧な。
どうせ願いが叶う雪なんて村おこしか何かの為に広めた話に決まってる。
あたしがあっさりと断ると楽しそうだったガウリイがシュンとなった。
「え〜行かないのかぁ・・・」
「んなこと言ったって・・・」
そんな話嘘だって言ってやろうかと思ったけど、 ガウリイがあんまり可哀想だから心優し〜いあたしは黙っていてあげる事にした。
・・・あたしに害が及ばないなら幾ら夢見てくれても構わないし。
「リナも一緒に行こうぜ」
「あたしはいいって。
この本今日中に読んじゃいたいし。
あたしのことは気にせず一人で行ってきたらいいわ」
「お、おい、リナ?」
「風邪引かないようにしなさいよ。
ま、あんたなら大丈夫だと思うけど」
「リナ〜」
「いってらっしゃい」
バタン。
ガウリイをぽいと部屋から追い出しあたしは魔導書を手に取った。
暖かい部屋に温かい飲み物。手には魔導書。お腹は一杯。
それなのになんでわざわざこの寒空の下、雪を待たなきゃいけないのよ。
出来れば雪なんてずっと降って欲しくないぐらいなのに。
椅子に戻ろうと近づいた窓から村人達がぞろぞろと移動しているのが見えた。
丘って窓から見えるあの丘のことよね。
人々の向かう先はそう遠くは無いけれど、結構急な斜面を持つ場所。
・・・ご苦労様。
あたしは肩を一つすくめ、椅子に腰を下ろし本を読み始めた。


暫くして日も完全に落ちると確かに雪が降ってもおかしくないほどの寒さになって来た。
あたしは本を机に置くと椅子の上で伸びをする。
本のページは時間の割りに進んでいない。
何だか静かすぎて落ち着かないのだ。
これならガウリイに付き合って・・・
いやいやいや、それこそ敵の思う壺!
って敵なんか居ないけど。
あたしは暖炉に薪を足すために立ち上がった。
ついでに冷めてしまった香茶のお代わりも貰ってこよう。
・・・な
ん?
―――リナ

今のは??
ドアに向い歩き掛けていたあたしは慌てて声のした方――窓へと駆け寄った。
「ガウリイ?!」
窓の下にはいつの間にか降ってきた雪の中をガウリイが立っていた。
「リナ」
こちらを見上げるガウリイの吐く白い息が雪の間を縫って立ち上っていく。
「何してんの?部屋に戻らないと風邪引くわよ!」
いつまでも動こうとはしないガウリイに業を煮やしたあたしは浮遊(レビテーション)を唱えて地面へと降り立った。
「ちょっと、ガウリイ早く・・・」
「これやるよ」
「は?」
よく見ればガウリイは両手で何かを大事そうに包んでいた。
何か、には予想は付いたけどそれでも一応聞いてみる。
「何を?」
「願いが叶う雪」
サラリと帰ってきた答えは予想通り過ぎて反応が返せない。
「オレ目が良いからな。
一番に見つけて取ってきた」
「・・・」
ニコニコと笑いながら差し出された手は赤くなっていて、あたしは出し掛けた手を引っ込めた。
同じ赤でもあたしの手とは全然違う。
「・・・あたしはいいわ」
「え?要らないのか?」
「ガウリイが取ったんだからガウリイが使いなさいよ」
「でも・・・」
「それじゃなに、お宝ザクザク持ってる盗賊さんvとかでも良い?」
「いやそれは・・・」
あたしは苦笑するガウリイを更に促した。
願いが叶うと言うのが本当でも嘘でもそれを言う権利はあたしには無い。
「じゃあさっさとあんたの願いを言いなさいよ」
「う〜〜ん・・・」
ガウリイは少し考え込む素振りをしたかと思うと急にその手を開いた。
「あっ!」
慌てて覗き込んだガウリイの手の中には何も残ってはいなかったけれど、確かに一瞬白く光る雪をあたしは見た。
「あ〜あ、勿体ない・・・」
「良いんだ。オレの願いは叶ってるから」
「・・・ふぅん・・・」
願いが何か、少し気になったけれどニコニコと笑うガウリイにまぁ良いかと言うような気分になった。
そのまま二人して雪が消えていった空を見上げる。




「今年もよろしくな」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・こちらこそ・・・・・」





2012/04/02再up


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オチ?