翌朝、あたしは機嫌良く食堂へ降りて行く。
ずっと外にいた所為で風邪を引き掛けたけれど、わりと良い年の始まりよね。
何なら来年はガウリイに付き合って雪を待ってあげても良いかな。
そんな事を思いながら食堂へ入るとガウリイが先に来ていた。
「よう、リナ」
「おはよ」
手を上げて挨拶して来るガウリイにいつもの如く返事を返せば周りがざわついた。
?何かあたしおかしい事した?
訳が分からないままいつもの如くガウリイの前に座りメニューを広げる。
「あ、ガウリイは何にする?」
2人そろってメニューを覗き込めばざわめきこそ消えたものの、視線がやけに突き刺さる。
だからなんだってーのよ。
あたしもガウリイも注目を浴びるのは日常茶飯事だけれど何だかいつもとは雰囲気が違う。
殺気・・・でも無いし、一体なんだろ?
注文を取りに来たウエイトレスのねーちゃんに小声で尋ねて見る。
「ねぇ、何かあたしたち注目浴びてるみたいだけど、何か有るの?」
「いやだ、お客さん」
ねーちゃんは盆を抱えたままコロコロと笑った。
「そちらの人でしょ?
思いの叶う雪を取ったの」
・・・?
今、何だか微妙に違和感が・・・
「村中の噂になってるわよ。
飛び上がって雪を取ったかと思えばすごい勢いで走って行っちゃうんですもの。
よっぽど好きな人が居るのね、って」
好きって誰が誰を?
「ちょ、ちょっと待ってあの雪って・・・」
「知らないはず無いわよね?
雪を好きな相手に渡せば思いが叶うの・・・
ロマンティックよね〜」
ねーちゃんはお盆を胸にうっとりと視線を宙に彷徨わせた。
ちょっと待て。
・・・思い?願いじゃなくて??
そう言われれば周りからの視線は『若いって良いわねー』的なおばちゃん染みたものが多い。
どこかにイっちゃっていたねーちゃんも帰ってきたかと思えばあたし達の方をじっと見た。
真顔だが目は周りの人と何ら変わらない。
「で、二人で朝食なんか食べているところを見ると、上手く行ったのね?」
「なっ・・・あたしとガウリイは別にそんな仲じゃ・・・」
「まぁまぁそー照れないで」
周り中が聞き耳を立てる中あたしは必死で誤解を解こうとするがねーちゃんは聞き入れない。
何を言ってもあたしが照れてると自分の都合の良い方に解釈をする。
ここで誤解を解かなければ周りの人に何を言われるか分からない。
あたしは慌ててガウリイの袖を引いた。
ガウリイが勘違いしていたことを言って貰わないと・・・
「ガウリイ!あんたも何か言いなさいよ!」
「ん〜?何をだ?」
未だにメニューを覗き込んでいたガウリイがやっと顔を上げた。
「あんた、あの雪を・・・」
「おう、綺麗だったよな」
違う〜〜
いや違わないけど〜〜〜
あたしが聞きたかったのはそんな事じゃなく・・・
「そーいや昨日の夜は寒かっただろ?
風邪引かなかったか?」
「ばっっ・・・」
赤くなったり青くなったりするあたしをどう思ったのか、姉ちゃんは、お幸せにね、とウエイトレスらしからぬセリフを吐いて去って行った。
所で、あたしは耳が良い。
この喧噪の中でもハッキリと会話を拾い出すことが出来た。
それはあたしとガウリイがその・・・ごにょごにょ。
「どうしたリナ?
一人でブツブツ・・・」
突然ガウリイの顔が突然どアップになった。
ぷち。
「ディっ・・・」
「げっっ」
「炸弾陣ぉ〜〜〜〜〜!!!」





・・・ガウリイは、あの雪と同じ様に空へと消えていきました。
あたしはそれをじっと見送りました。
周りには呆気にとられる顔、顔、顔・・・
今日中にも無責任な噂は消えるでしょう。





ふっ不可抗力よ!




2012/04/02再up


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