前編





〜Side L〜



白い砂、抜けるように青い海。
新興のリゾート地として開けたこのティレルの町の浜辺。
そこでは、普段のあたし達を知る人が見れば、驚愕で固まるような出来事がおこっていた。(我ながら悲しひ)

なぜなら、あたしがスリスリと甘えちゃったり何かしてる腕の持ち主は、知る人ぞしる金髪クラゲのガウリイなのだ。
そして周りにはお互いしか見えてないと言ったようなバカップルばかり。
それも当然。ここはカップル専用ビーチ。
あたしが多少ガウリイに甘えたところで、大して目立ちもしない。
と言っても勘違いしないでね。
あたしとガウリイが、そぉいう関係と言う訳じゃあないのよ。
あたしには崇高な目的があるのだ。
事の起こりは昨日の事だった。




「そこを何とかお願いします!」
さっきからあたし達の前で米搗きバッタのように頭を下げてるのは、このリゾートの環境だか開発だかの責任者で名前は・・・
そうそう、ソーンさんだ。
あー、あんまり頭を振るもんだから、うすーい髪が乱れてるよ。
「えーでもねぇ・・・
だって、たかがごろつきの10人や20人くらい警備兵を置けば十分でしょ?」
あたしはやる気がないのを暗に示し、わざとため息を付いてみせる。
だがソーンさんはそんなあたしの態度に顔を引きつらせながらも、こっちに躙り寄ってきた。
「そんなことをすればこのティレルのイメージがぁ。
小さな事からこつこつと、やっとやーっとリゾート地としてのイメージが定着してきたんですよ。
それをををををを」
「あーはいはい」
あたしはパタパタと手を振りつつソーンさんから目を逸らした。
そんなに力まれてもねぇ。
このティレルの『アベック専用ビーチ(はぁと)』にいつ頃から徒党を組んだごろつきが出るらしい。
カップルならよほどの事(笑)が無い限りふたりっきりだし。
すぐに助けを呼べばいいと思うのだが、そこはほれ『男のメンツ』とやらでカッコつけようとして、
結局は身ぐるみ剥がれるそうだ。
男って悲しひ・・・
まあ、哀れな男どもの話はこの際置いといて。
確かにビーチに警備員がぞろぞろいたらリゾートの雰囲気ぶちこわし。
そして、ティレルのイメージも悪くなる。
かといって放って置いても、イメージが落ちること間違いなし。
そこで目を付けられたのがあたし達ってわけ。
あくまでも『依頼で』ではなく、ただのカップルがごろつきを撃退した事にしたいらしい。
もちろん報酬は出るが、『依頼料』ではなく『お礼』と言う形で。
それは別段良いのだが・・・
むぅー、あたしはちょっと考えた振りをする。
あくまでもフリ。
この依頼、始めから受けるつもりは無かった。
そりゃあ、この美少女天才魔導士のあたしにかかれば、ごろつきの10人や20人なんて目じゃないけどね。
だぁって、せっかく羽を伸ばしに来たのに。
懐もこの間の盗賊いぢめで潤ってるし。
・・・大した報酬じゃないしさ。
何が悲しゅうて、せっかくのリゾート地で警備員のまねごとなんかしなくちゃいけないのよ。
だが、あたしが口を開くより先に、ガウリイがあたしの頭をぽんぽんと叩いた。
「無理無理。このリナにカップル役なんてできっこないって。
大体胸だか・・・」
!!
ガーウーリィィィィィ。

どがしゃ。

あたしの『インバースロイヤルクラッシュ』を食らって、床にのびているガウリイの背中に片足を乗せて。
どこぞの熱血王女のまねをして、ぐっと握り拳をつくる。
「ソーンさん!
この美少女天才魔導士のあたしが引き受けるからには、大船に乗ったつもりでいて下さい!」
さっきの勢いはどこへやらみょーに腰の引けてるソーンさんと、床にのびてるガウリイを見ながら。
ガウリイに『参った』と言わせてやると、心に誓ったあたしなのだった。




あ、おべんとう♪
ジュース。
紙皿、紙コップ。
ビニールシート。
とどめにパラソルv
ソーンさんの好意で用意してもらった荷物を、砂浜に広げていく。
少し早めに出てきた所為でまだ人は少な目だ。
んふふふふ。
あたしは早速一晩掛かって考えた作戦の第一段を実行にうつすことにした。
「ガ・ウ・リ・イ(はぁと)」
あたしは海をみて、ぼーっとしているガウリイに声を掛ける。
「サンオイル塗ってあ・げ・る(はぁと)」
どうだ?
あたしはガウリイの様子を窺いながら、ビンを片手にニッコリと微笑んでみせた。
「ああ、頼む」
だがガウリイはいつもと変わらぬ調子で返事を返す。
ちちぃ、不発か?
ガウリイはあたしの様子など気が付かないように、シートの上に寝転がった。
どきっっ。
いきなりあたしの心臓が跳ね上がった。
髪の毛を払ってシートの上に寝そべるガウリイ。
その広い背中。
いつもあたしを守ってくれる・・・
うぁ。
顔が熱くなってきた。
じゃなくて、あたしが赤くなってどーする!
あたしはサンオイルを手に取ると、ガウリイの背中に塗りだした。
どきどき・・・
あたしがこんなに赤くなっていると言うのに、ガウリイは涼しい顔だ。
目を閉じたまま完全にリラックス状態。
くっそー。(まあお下劣)
上から下へ、下から上へ。
オイルをのばす。
手に伝わる感覚。
なんかこー・・・(赤面)
長いような短いような時間が過ぎ・・・
「はい、おしまい。」
やっとオイルを塗り終わってほっと一息。
まだちょっぴり赤い顔を、見られないように逸らしながら、あたしは日焼け止めに手を伸ばした。
もうこんなこと二度とやらんぞ。
だがガウリイはそんなあたしに気が付かないまま、追い打ちをかけてきた。
「おう、今度はオレがリナの背中に塗ってやるよ」
え゛??
「あ、あたしはいいよ。自分で塗るから」
「恋人のふりだろ?」
じりじりと後ずさるあたしの耳元にガウリイが囁く。
がっくり。
「わかった」
あたしはゆっくりとガウリイに背を向けて座る。
うー、恥ずかしいよぅ。
顔があげらんない。
ガウリイの大きな手が、あたしの背中に日焼け止めを塗っていく。
「ひゃっ!」
「あ、悪い。くすぐったかったか?」
ガウリイの手が首筋をなでる。
「でも、おまえさん髪をあげてるから、首もぬっとかないとな。」
あたしからはガウリイの顔は見えないが、いつもと変わらぬのほほーんとした声。
うー、あたしがこんなに意識してるのに。
ガウリイの手が首筋そして背中へと・・・
もー我慢できない!
「あ、ありがと、ガウリイ。もういいよ」
「え、でも」
「だって・・・くすぐったいんだもん」
ちょっとビックリした顔のガウリイを見上げる。
なんかこー、ゾクゾクするとゆーかなんとゆーか・・・
はあ。それにしても疲れた。
まだ計画の第一歩だと言うのに・・・




あー、だからと言ってここで引き下がっては、このリナ=インバースの名が廃る!!
頭上に登っていく太陽に向かって握り拳を作る。
って、なんか計画自体が間違ってるような気がしてきたけど・・・(汗)





† † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † † †




〜Side G〜



白い砂、抜けるように青い海。
新興のリゾート地として開けたこのティレルの町の浜辺。
季節は夏だと言うのに、オレの人生はまさに春真っ盛りだ。
なぜなら、オレの腕に甘えるようにしがみついているのは、『あの』リナなんだから。
照れ屋のリナがこんな事をしてくれる日が来るなんて・・・
ああ、人生って素晴らしい。
昨日身体を張った甲斐が、有るってもんだ。



「無理無理。このリナにカップル役なんてできっこないって。
大体胸だか・・・」
リナの頭に手をやりながら口を開く。
そんな事を言えば、どつき倒されるのは分かっていた。
だてにリナとのつき合いが、長いわけでは無い。
呪文かスリッパか?
キックだった(泣)
オレは、リナが人の背中を踏みつけながら、依頼を引き受けるのを聞いていた。
そうそう、こんなおいしい仕事、断らないでくれよな。
リナと恋人のふりが出来るなんて、そうそうないんだから・・・
リナの性格からこーなる事は、予測済みだ。
そして明日のリナの行動も。
オレは顔がゆるむのを押さえるのが大変だった。




おべんとう。
ジュース。
その他諸々。
ビニールシート。
とどめにパラソル。
荷物を広げるリナを盗み見る。
青地に大柄な花模様の水着。
胸元のリボンがキュート(はぁと)だ。
細い腰、小さな肩。
いつ見ても華奢だよな。
今日は髪をアップにしてあり、白いうなじがなんとも・・・
おっと、涎が。
カップル専用ビーチなので、リナに飛ぶ視線が少ないのも、いい。
いつもは、心が安まらないからな。
大体リナは男に警戒心がなさ過ぎるんだ。
オレが辺りに視線を走らせ、リナにちょっかいを出そうとする、不届き者がいないのを確認する。
さすがに、彼女連れでナンパをするやつはいないらしい。
「ガ・ウ・リ・イ(はぁと)」
おっと、ハニーのお呼びだ。
「サンオイル塗ってあ・げ・る(はぁと)」
振り向けばビンを片手にニッコリと微笑むリナ。
おお、初っぱなから飛ばしてるな。
オレはいっそう気を引き締める。
ここでデレデレしたら、今日の楽しみがパーだからな。
「ああ、頼む」
オレはなんでもないフリでマットに寝転がった。
その背中にリナがオイルを伸ばしていく。
オレは目を閉じ、その感触を楽しんでいた。
リナの小さくて、柔らかい手。
気持ちいいなぁ・・・
だが、至福の時間はあっさりと終わった。
「はい、おしまい」
なんか、短くないかぁ?
どこか赤い顔を不自然に逸らしたリナはオレの不満に気づきもせず、小さな瓶を取り出した。
おっ。
ニヤリ。
「おう、今度はオレがリナの背中に塗ってやるよ」
リナが面白いほど硬直した。
ほんと、こーゆうことに免疫がないんだな。
「あ、あたしはいいよ。自分で塗るから」
「恋人のふりだろ?」
逃げようとするリナの耳元で囁く。
とたんに、動きがピタリと止まった。
まあ、なんだかんだ言っても律儀だからな。リナは。
案の定しぶしぶながらもオレに背を向けて座る。
その背中にそっと手を滑らせた。
なめらかで、極めの細かい肌。
ずっと、触っていたい。
「ひゃっ!」
「あ、悪い。くすぐったかったか?」
もちろん、わざと。
予想通りの反応に、顔がゆるむのが止められない。
うなじまで赤くなってるんだもんな。
「でも、おまえさん髪をあげてるから、首もぬっとかないとな。」
最もらしい事を言いながらオレは全然違うことを考えていた。
もし、後から抱きしめたらどうするかな?
暴れるか?硬直するか?
それとも・・・?
刹那の衝動。
しかし、理性が勝った。
大体、こーーんな人前で照れ屋のリナが素直になるわけないよな。
もっと、落ち着いた場所でゆっくりと・・・
「あ、ありがと。ガウリイもういいよ」
「え、でも」
「だって・・・くすぐったいんだもん」
不自然なほど早口で、リナがまくし立てる。
もうちょっと、困った顔も見ていたいが、お楽しみはゆっくりと。
だから、今は逃がしてやるよ。




なにやら、海に向かって握り拳を作るリナ。
何考えてるかすぐに分かる。
空は抜けるような青空。
今日は最高の日になりそうだ。



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