後編





〜Side L〜



あ゛あ゛あ゛あ゛ぁ、終わってしまったぁ。

さぼさぼべーん。

目の前には沈みゆく太陽。
ビーチの人影もまばらに。
そして耳には今となっては寂しげにすら聞こえる波音。
それもそのはず。
今日の成果は0(ゼロ)
ごろつきも現れなければ、ガウリイに『参った』と思わせることも出来ず・・・
つまり、な〜〜〜〜んも無し。
あれだけやったのに・・・(涙)
唯一ガウリイが慌てたのがあたしが転びかけた時だけ、なんて。
はあ、虚しい。
「ガウリイ、帰ろ」
荷物をまとめて。
あたしはぽつりとつぶやくと、身を翻・・・せなかった。
なぜならガウリイが、あたしの手を掴んでいたから。
夕日がガウリイを背中から照らし、あたしからはその表情は見えない。
金色の髪が夕日に当たって朱金に輝く。
「ガウリイ?」
ガウリイがクスリと笑う気配がした。
「まあまあ、リナ。
せっかくだから夕日が沈むのを拝もうぜ」
んー、ほんとのとこ、夕食まで少しゆっくりしたかったんだけどな。
でもまいっか。
こんなにのんびりする機会ってなかなか無いもんね。
元々は羽を伸ばすつもりで来たんだし・・・
あたしがうなずくのを見届けると、ガウリイが片手に荷物、片手にあたしを引きずりながら歩き出す。
「ちょ、ちょっと。
なんでそんなに馬鹿力なの」
あたしの抗議もむなしく、引きずって行かれたその先は。
さっきの場所から少し離れた、街の、ホテルの明かりの届かぬ、淡い光を楽しむのに絶好の場所。
あー、ちょうど岩場が明かり(ライティング)を遮ってるのね。
あたし達二人は並んで座ると無言で夕日を眺める。
沈みゆく夕日。
あふれ出る黄昏。
昼と夜の境。
髪をなぶる風。
夕日が海に落ちるその瞬間。
一瞬光が強くなり・・・そしてあたりは夕闇に包まれた。
自然の見せる、一瞬の奇跡。
やわらかい沈黙が辺りに満ちていた。
それは居心地がよく、壊すのがもったいないくらいで・・・
「リナ」
不意に名前を呼ばれる。
「ガウリ・・・」
いつの間にか昇ってきた月が、やわらかな光で辺りをあたし達を照らす。
こちらを見つめるガウリイ。
夕闇に紛れて、青いはずの瞳が黒く光って見えた。
「リナ」
もう一度。
息をのんで見つめるその先には見たことも無い『男』の顔。
あ・・・
思わず身を離そうとするが、いつの間にか腰に回されたガウリイの左手はびくともしない。
「リナ」
三度(みたび)。
優しく、そして熱のこもった声。
あたしの頬をそっと撫でる大きな手。
ゆっくりと近づいてくるガウリイの顔、瞳、そして唇。
あたしは金縛りにあったように、手も足もそして頭も動かない。
「あ・・・」
「ひゅーひゅー。おにーちゃんたち楽しそうだねぇ。
俺達も混ぜてくんない。」
知性のかけらも無いような、そーんなお決まりのセリフ。
周りには10人程の男達。
って・・・
はっ。
さっきの金縛りは解け、ちゃんと手も動く。
思わずわきわきと手を動かすあたしの横で、ガウリイが無言で立ち上がった。
ちらりと横目で見れば、口元を引き締めたいつもの表情。
(戦闘時限定。男前度当社比30%UP)
演技・・・だったんだ。
ほー。
息を吐いて、立ち上がる。
えーと。ごろつきに囲まれて腹を立てた『一般人』が戦わないといけないからね。
うん。
未だ痺れが残っているような頭を振って文句を考える。
仕事、しなくちゃね。
「あんたたち・・・」
「オレ達の邪魔をするな。さっさと消えろ」
あたしが文句を言うより早く、ガウリイが唸るように言う。
おおおぉー、あの脳味噌ヨーグルト男のガウリイが自分の役を覚えてるとは。
感心感心。
あたしも・・・
「あんたたちに用はないわよ!」
うーん、ちょっとわざとらしすぎるかな?
なんか、まだ頭がよく動いてないみたい。
だがのーみそに黴が生えている男達に、そんな機微など分かるはずもない。
立ち去る気など更々ないようで、質の悪い笑みを浮かべながら近づいてくる。
ふっ。このリナ=インバース様にかかれば・・・
大技一発。
そう思った瞬間、ガウリイが男達の中に突っ込んでいった。
と、思うと戦いは終わろうとしていた。
それはもう身も蓋もなく。
あんなごろつきが多少武装しようと、たとえガウリイが素手であっても遅れを取るわけがない。
しかもその後ろにはあたしが居るのだ。(えっへん)
って本気で早いな。
あたし何もしてないんだけど・・・
ま、いっか。
こいつらつき出して報酬もらわないとね♪
あたしはガウリイが最後の一人を殴り倒すのをのんびりと眺めていた。




ぱちゃ。ぱちゃ。
はー。
ごろつき達をしばき倒した翌日。
あたしは一人浮き輪に掴まって、海に浮かんでいた。
ソーンさんが好意で(あくまで好意よ、好意)後2日分、ホテルなんかを用意してくれたのだ。
もちろんタダ(なんていい ひ・び・き)で泊めてくれると言うんだから、断る理由もない。
それでこうして海で遊んでる訳なんだけど・・・
ガウリイは・・・いない。
多分浜辺で、ピチピチのおねーちゃん達に囲まれてるだろう。
今日は普通のビーチだから、ガウリイの隣で歩くあたしに刺さる視線の、痛いこと痛い事。
それどころかねーちゃん達の包囲網が徐々に縮まってきて、水面下での高度な駆け引き、まさに一触即発状態。
だがガウリイはそんな水面下の駆け引きなんて欠片も通じないし。
そうなると当然とばっちりは隣にいるあたしに飛んでくるわけで・・・
あたしを無視してガウリイに話しかけるもの、睨み付けるもの、遠巻きに眺めるもの反応は様々だが姉ちゃん達の心は一つ。
『邪魔』
・・・ねーちゃん達ガウリイの中身を知らないからなー。
そりゃ黙って立っていれば、そんじょそこらの男よりいい男だしねー。
あの、青い瞳だって・・・
あわわわわ。
意味もなく手で海をかく。
顔が熱くなってきた。
お、思い出しちゃたじゃない、昨日のガウリイ。
ねーちゃん達も怖いけど、なんかまともにガウリイの顔が見れなくて、あたしは一人海に飛び込んだのだ。
なんか後ろから恨みがましい視線を感じたような気がするけど、気のせいよね。
あたしだって命は惜しいし。
今日もいい天気。
空をぼうっと眺める。
ガウリイの瞳と同じ色。
たぶん明日もいい天気だろう。
今日も明日も明後日も、ずっと一緒に居れば。
昨日はガウリイに参ったって言わせられなかったけど、
いつか。
見てなさいよ!ガウリイ!



End




おまけ

あたしはしばらくの間、ガウリイに近づけなかった。
だって、ほら、なんてゆーのかな。
かっこ・・・よかったし。
お芝居だってわかっててもさ、ガウリイの近くにいたらドキドキしてさ。
まあ、複雑な乙女心(はぁと)よね。







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〜Side G〜



ふっふっふっふ・・・いよいよだ・・・

ざざざぁーん。

目の前には沈みゆく太陽。
ビーチの人影もまばらに。
そして耳に響く波音が雰囲気を盛り上げるBGM。
さいっっっこうの日は終わり、
さいっっっこうの夜がくる。
ふ、ふふふふ・・・
笑いが抑えられない。
「ガウリイ、帰ろ」
荷物をまとめて。
ため息を付いて、身を翻そうとしたリナの手を捕まえる。
おいおい。
夜はこれからだぜ。
「ガウリイ?」
リナはちょっと不思議そうな顔で、オレの方を見る。
多分逆光でオレの顔は見えないだろう。
そのほうがいい。
リナはまだオレを『保護者』だと思ってるからな。
少し笑いがこみ上げてきた。
まったくこの鈍感娘は、オレの気持ちなんか少しも気づきやしない。
「まあまあ、リナ。
せっかくだから夕日が沈むのを拝もうぜ」
少し考えたリナが頷くのを待って、片手に荷物、片手にリナの手を取る。
「ちょ、ちょっと。
なんでそんなに馬鹿力なの」
何やらリナが抗議しているが、オレは聞く耳を持たない。
そのまま昼間見た場所にリナを連れていく。
適度に周りに遮蔽物があり、あまりホテルから離れて無い場所。
誰にも邪魔されない場所。
リナと二人、並んで夕日を眺める。
いつも口数の多いリナも静かだ。
沈みゆく夕日。
あふれ出る黄昏。
昼と夜の境。
逢魔が時。
風がリナの髪をなぶり、リナの匂いを運んでくる。
甘く、やさしい香り。
夕日が海に落ちるその瞬間。
一瞬強くなった光を、リナの瞳が弾く。
二つの緋い星。
どんな宝石よりも高価で、どんな星よりも輝く。
リナは黙って海を見ていた。
オレが見つめるのも気づかないまま。
「リナ」
初めはリナの注意を引きたくて。
「ガウリ・・・・」
戸惑いを含んだ声でリナがオレの名を呼ぶ。
いつの間にか昇ってきた月が、やわらかな光でリナの姿を浮かび上がらせた。
保護者の戒めはもう効かない。
「リナ」
もう一度。
そっと手を伸ばしリナの腰を抱く。
熱くなる身体。
もう止まらない。
びくっと身体を震わせたリナが、逃げようとする。
だが逃がさない。
「リナ」
三度(みたび)。
やさしく、しかし自分でも分かる、声に籠もる熱。
リナの頬をそっと撫でる。
傷つけないように。
そのままリナの瞳を覗き込むんだ。
そこに拒絶を見つけることは出来ない。
そっと顔を近づけると、リナの甘い吐息。
「あ・・・」
リナの唇が誘うように開かれた。
いける!
オレはリナから確かな手応えを確信し・・・
「ひゅーひゅー。おにーちゃんたち楽しそうだねぇ。
俺達も混ぜてくんない。」

お・ま・え・らぁぁぁぁぁぁああああ!!!

寄りによって一番いいところでぇぇぇぇぇ・・・
オレはリナをちらりと顧みる。
リナは不思議そうな顔で手を動かしていた。
くそっ。
オレは無言で立ち上がった。
依頼の有ったごろつきがどうかなんて関係ない。
てめーらみんな殺してやる。
リナが正気に返っちまったじゃないか(滝涙)
高々10人程の数。
怒り狂ったオレの敵じゃない。
リナも立ち上がって軽く頭を振る。
「オレ達の邪魔をするな。さっさと消えろ」
オレは唸るように言った。
これは本音。
もし、立ち去ってくれれば、今度はリナを押し倒して・・・
だがこれで立ち去るぐらいなら、始めから声など掛けてこないだろう。
「あんたたちに用はないわよ。」
リナが静かな声でごろつきどもにプレッシャーを掛ける。
やっぱり正気に返ってる(泣)
オレの嘆きなど知らず、リナが小声で呪文を唱え始めた。
ちょっと待て。
リナに任せると一発で終わっちまうからな。
こいつらはオレの怒りのはけ口になってもらう。
ジリジリと近づいてきていた男達の中に、オレは突っ込んでいった。
リナならごろつきと一緒にオレを吹き飛ばす可能性もあるが・・・
ま、その時はその時だ。
まずオレに正面から向かってきた男に右ストレートを喰らわせて、次は後ろに回ろうとした奴を回し蹴りの要領で黙らせた。
・・・ちっ、ほんとに手応えのない。
これでは憂さも晴らせやしない。
リナさえいなけりゃ殺しちまいたいぐらいだが、ま、半殺し程度は我慢してもらおう。
よく言うだろ?
「人の恋路を邪魔するやつは・・・」って。
オレが最後の一人を殴り倒すのをリナは嬉しそうな顔で眺めていた。
もう頭の中は報酬の事で一杯だろう。
とほほ・・・




うううう・・・(滝涙)
リナがよそよそしい。
昨日は『いける』と思ったので、自分を出しすぎたらしい。
リナに警戒されちまった。
警戒するのはオレ以外の男にしてくれ。
さっきからじろじろ見られてるだろ。
オレは殺気のこもった視線で、男達を追い払う。
だがリナはオレの気持ちなど知らず、一人で海にいっちまった。
慌てて追いかけようとするが、いつの間にか周りに集まったねーちゃん達が通してくれない。
ええい、さっさとどけ。
オレのリナを一人にしといて、ナンパでもされたらどうするんだよ。
やっと人を追い払った時には、もちろんリナの姿は消えていた。
あああーーー。
オレはパラソルの下に座り込み、リナの帰りをひたすら待った。
リナはまだ帰ってこない。
あいつらさえ―――
また怒りがこみ上げてきた。
なんで、後1時間、いや30分だけでも待ってくれなかったんだ。
もうちょっと、もーちょっとだったのに。
そうしたら今ごろオレとリナはラブラブで・・・
オレは砂浜に拳を打ち付ける。
くそー。
せっかくせっかくっっっ。
リナ相手にあそこまで持っていくのがどれだけ大変か分かるか?!
本当にもうちょっとだったのに!
リィナァーーーー。
早く帰って来〜い。


・・・声が出てると気づいたのは、周りから人がいなくなってかなりしてからだった。
思っていたことが全部出ていたらしい。
遠くから男達が同情のまなざしでオレを見ている。
ほっといてくれ。



End






おまけ



ちなみにリナは1ヶ月以上、オレの手の届く範囲に入ってくれなかった。
うううぅ・・・ちくしょう・・・



今度こそエンド♪


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以下当時のコメント(笑)

本当は前と後の間に中編として、
かき氷を「あ〜〜ん」とか(笑)
一つの浮き輪に掴まってvvとか。
ガウリイの泳ぐシーン!とか。
書きたかったんですけど、力量が足りませんでした。
とほほ・・・
申し訳有りませんが、そんなことが有ったんだと想像して読んで下さい(待て)

それからタイトルはまんま「恋愛ゲーム」ともう一つは、
テニスなんかで言う「0ゲーム」
片方が点数入れられなかった試合の事。
この場合は両方だねー(笑)
頑張れ二人とも。
勝負はこれからだ!

・・・まぁ、勝負が付く前にガウリイが切れそうだけど・・・
(「切れたガウリイが素敵です」と言われるのはこの手の発言が原因!?(笑))