〜人魚姫異聞録〜その5 |
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ヒュン――― ゴトン 女は引きつった顔でこちらを眺めている。 オレは怒っていた。 いや、激怒していると言った方がいい。 オレは断ち切ったテーブルを避け女に迫る。 女子供には優しくしろとのばーちゃんの遺言だがそんなもん「クソ食らえ」だ。 この女の所為で――― この女とあの医者の所為でオレはリナを無くす所だった。 オレに打ち続けられていた薬。 思考を麻痺させ、記憶を薄れさせる薬。 そうでなければオレがリナを忘れるはずがない。 剣を構えて女に近づく。 女がオレの鬼気におされて、声にならない悲鳴を上げた。 これ以上は無いと言うぐらい壁にしがみついている。 医者の方は二度と医者をする気にならないほど、脅し、痛めつけてやった。 本当なら殺してやりたいぐらい。 だがリナの為を思って押さえた。 リナを失う。 そう思っただけで腕に震えが走る。 心臓が氷に変わる気がする。 あの時リナと会えなければオレはリナを失っていただろう。 オレの生きる目的を オレの心 オレの鼓動 オレの希望 オレの光 オレの全て リナがいなければ全て消えてしまう。 リナを忘れたオレ自身も不甲斐ないが、何よりこの女が――― ガッ――― 女のすぐ側に剣を突き立てる 壁と一緒に栗色の髪がハラハラと散った。 リナと同じ栗色の髪。 リナでなければ意味が無い。 「二度とオレ達に近づくな。 二度とオレ達の前に姿を現すな。 次は―――殺す」 十分に殺気を込めてあった。 リナに聞かせたこともないような冷たい声で。 女がガクガクと首を振った。 どうやら声も出ないらしい。 ふと女の後の窓からリナが見えた。 この屋敷から離れた場所で待っている様に言ってきたのだが・・・ こちらに向かって歩いてくる。 やべー オレは女を放り出し慌てて部屋を駆けだした。 この屋敷の中を見せるわけにはいかない。 オレが破壊し尽くしたこの屋敷を。 「遅いなー」 ちょっと忘れ物したとか言ってガウリイが屋敷に戻ってからだいぶたつ。 ―――まさか、フィアナに引き留められてたりして――― あたしは屋敷に向かって歩きだした。 これはその―――ガウリイとフィアナがごにょごにょ・・・とかって言う訳じゃ無いのよ。 もしかしてガウリイが迷子になってたら困るし。 ほらずっと部屋で寝てたから、屋敷の間取りなんて知らないはずだし。 だが、あたしが屋敷に入る前にガウリイがひょっこりと現れた。 それも入り口じゃないところから。 「よっ。待たせたな」 「遅かったじゃない」 「いや、お礼はちゃんとしないとな」 「ふーーーーんーーー」 「焼いた?」 「バッ・・・・」 あたしはガウリイをキッと睨み付ける。 ニヤニヤと笑うガウリイ。 こいつわーーーーー 「さっさと行くわよガウリイ!」 「おお」 ガウリイがいつもの様にあたしの横に並ぶ。 歩調もあたしと合わせて。 いつまでも一緒に歩いていたい。 これから先何があっても――― あたしの思いは消えないから・・・ |
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