Fight!−r 〜前編〜 |
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あるものは涙をのみ、またあるものは喜び。 悲喜交々、甘い香りの漂う決戦の日は過ぎて。 男も女も闘いは終わった。 だが未だに闘いの終わっていない男達もいた。 「だから悪かったって言ってるだろう〜〜〜」 この上なく不機嫌な男の前に黒髪と銀髪の男二人が床に正座する。 あの闘いの日から一月あまり、 彼らとすれば未だ会いたい相手ではなかったが――出来ればWDが過ぎるまで!―― 出会ってしまった以上逃げる訳にもいかなかった。 逃げれば好奇心旺盛な少女が追ってくるだろうし何より。 一歩でも動けば切り掛かってきそうな目でこちらを見ているガウリイに誰も動けなかった。 誰かが最初に犠牲になればその隙に逃げようと身体を緊張させるが、当然誰も自分は犠牲になりたくは無い訳で・・・ そこには久しぶりの再会を喜ぶ知り合いの図☆が出来上がっていた。 ・・・表面上だけは。 そんな中で皆の緊張などこれっぽっちも気づいていないリナだけが朗らかに話をする。 「そーいやあんたたち今日はここで泊り?」 「いや、あの、私達先を急いで・・・・っ・・ そ、そーだリナさん。 せっかくですから一緒に部屋を取ってそちらでゆっくり話しませんか?」 何とかこの場を逃れようとしたアメリアだが声に反応しガウリイの視線が動いたのを見て、ひっと息を飲みリナにすがりついた。 何も知らないリナは涙目でぎゅっと袖を掴んでくるアメリアによほど話したいことでも有るのかと気軽に頷く。 「いいわよ。 ミリーナもそうする?」 「ええ」 リナの両サイドという安全地帯をちゃっかりと手に入れた女二人は、一刻も早くここを離れようとリナを引きずるようにして歩き出す。 「チョットぐらいなら奢りますから食事も部屋でとりませんか?」 「えっ。奢り?!勿論良いわよ♪♪ そうと決まれば善は急げ」 途端にリナの足取りは軽くなり3人は後ろを振り返らず去っていく。 「じゃあ俺たちも・・・」 何も無い様に三人の後を付いて行こうとしたゼルガディスとルークの襟首ががしりと捕まれた。 「・・・オレ達はオレ達で楽しもうか・・・?」 ―――そうして今に至る。 その場で問答無用で斬りかかられなかったのは良かったがその代わりとばかりに、ガウリイの恨み節をこんこんと聞かされ続けていた。 テーブルの上には2人が奢らされ・・・もとい。奢らさせて頂いた酒瓶が乱立している。 「・・・オレがどれだけ・・・」 ビシリとグラスにヒビが入り男二人が微かに身を引いた。 「オレが・・・オレが・・・」 「だからあの場合は仕方なかったんだって」 男の怒りは深くこのままでは爆発しかねない。 段々とエキサイトしそうなガウリイを宥めようとルークが下手に出る。 「俺たちが下手なこと言えばチョコが貰えなくなってたかも知れないんだぜ。 それは困るだろ?」 「だからってなぁ・・・」 しかしすでに立派な酔っ払いと化した男はくどくどと同じ言葉を繰り返し、いい加減疲れた男は開き直ってあぐらをかいた。 「元はと言えばあのガキが勘違いしてるからだろー? 恨むんなら嘘を教えた父親を恨めよ。 大体、お前もチョコの一つや二つで大騒ぎしす・・・」 チャキ・・・ 「が、ガウリイ落ち着けっ」 座りきった目つきでスラリと剣が抜かれ二人は瞬時に腰を浮かした。 何とかに刃物。ガウリイに斬妖剣。 二人の目の前でテーブルが二つに割れて派手な音を立てて酒瓶を床に散蒔く。 「「・・・」」 ゼルガディスとルークが顔を引きつらせて互いをみた。 見えたか? 見えねぇ。 声にすればこんな所。 自分たちに見えない程のスピードってどんなだ。 「ガウリイ、お、落ち着け、な」 「俺が悪かったから・・・」 冷たい汗を背中に感じながら二人は代わる代わるガウリイに話しかけ何とか事態の回復を図ろうとするが、だがそんな均衡も長くは続かない。 テーブルの一直線上。 剣先の届かない位置に有ったベッドがパカリと割れた。 「「・・・・・・」」 「・・・そう言えば用事が・・・」 「お前だけ逃がすか〜〜」 腰を浮かし掛けたゼルガディスにルークが必死でしがみつく。 「離せっ。 人に戻る前に死んでたまるか〜っ」 「俺だってミリーナとまだ・・・」 ユラリと影が動く。 「・・・っっ」 「「ぎゃ〜〜〜〜〜」」 「だ、だから今度は協力してやるって」 ゼルガディスの『リナが怒るぞ』の一言で動きの止まったガウリイに、ルークが敢えて部屋の惨状から意識を逸らし言った。 ほぼ壊滅状態の部屋で二人ともかすり傷程度ですんでいるあたりさすがと言えるだろう。 しかし剣を振り回してはいないものの、未だ収まらないガウリイの怒りのオーラにヘイコラしているその姿は情けないと言えるだろう。 「な、機嫌なおせよ」 「・・・」 「悪かったって」 「・・・」 「おい、お前も何とか言えよ」 「あ、ああ。 その・・・すまなかった。 「・・・」 不機嫌な蒼い瞳がジロリと二人を睨め付けた。 「・・・お前らにオレの気持ちが分かってたまるか。 あのリナがチョコを作ってるって知って・・・ やっとオレの思いが伝わったかと思ったのに。 よしんば義理でも一歩前進だと思ったのに・・・ それなのに・・・それなのに・・・」 剣を握る手がブルブルと震えだしルークは慌てて手を叩いた。 「う・・・・・・お、そーだ。 いい方法がある。 お礼だーって言ってさ、ちっと小綺麗な格好して洒落たレストランでも行って んでもってどっか散歩でもして来いよ。 きっといい雰囲気が・・・」 「んなのいつもと変わらないじゃないか。 それにオレとリナでどーやったら雰囲気がでるんだよ」 それで出るくらいならとっくに出てる。 「うっ・・・確かに・・・」 ジトリと湿ったその視線にルークも反論できない。 「・・・いや・・・結構良い案じゃないか?」 「おい、ゼルお前まで・・・」 「まぁ話は最後まで聞けよ。 確かに食事からはじめたら不味いだろうから、 ちょっとこう・・・洒落た服でもプレゼントしてやれよ。 女って奴は格好が変わるだけでも気分が違って来るぞ」 「おお、そうだな」 「まぁな」 心当たりはあるのか二人が頷く。 同意を得られたことに気をよくしさらにゼルガディスは続ける。 「それから町の名所、まぁ所謂デートスポットでも連れていって・・・ その時、ちゃんと女の子扱いでエスコートしてやれよ。 子供扱いは厳禁。 口うるさいのもダメだ。 怒らせたら元も子もないからな」 「「ふむふむ・・・」」 いつの間にか正座をしゼルの話をメモする男二人。 「その際、小物・・・ちょっとした花とか買ってやるのも効果的だな。 花の嫌いな女はまず居ないからな。 ガウリイ、お前間違っても屋台の買い食いとかに走るなよ。 こういうのは雰囲気が大事なんだ」 「「ふんふん」」 「レディーファースト! 全ておごり! 相手のことは誉める!! しかし誉めすぎは嫌みだから控えめに誉める。 その髪型も良いとか、口紅の色が似合ってるとか、勿論服を誉めるのも良い」 「「なるほど〜」」 「下心を出さない! 爽やかな笑みは基本だ!」 「「おおっ・・・」」 感極まってパチパチと二人が手を叩く。 一体何の話をしているのか分からなくなってきたが本人達はいたって真面目だ。 こうしてゼルガディスの講義は一晩中続いたのだった。 後編へ |
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