Fight−3

「ああ。今年はチョコ無いの」
「「「「えーーっっ!?」」」」

バレンタイン当日、リナに向かってチョコを強請ったガウリイのみならず周りにいたアメリア、ゼルガディス、そしてルークも驚愕の声を上げた。
別にリナからのチョコが欲しかった訳ではない。
寧ろ貰うとややこしい事になりそうだから遠慮したいぐらいだ。
では何故こんなに驚き慌てふためくかと言えば、深くて複雑な事情が・・・ある訳ではないが面倒くさいのでここでは割愛。
ともかくこのままでは拙い事になりそうだとガウリイとリナを除く4人が息を詰め2人のやりとりを見守っていた。
「無し?なんでだっ」
「だって買えなかったんだもん」
「1つもか?」
「1つは買えたけど・・・父ちゃんにあげたわよ」
ビシッ
そう効果音がした気がした。
いや、実際にしたかも知れない。
少なくとも4人の耳には聞こえた。
「リナさんそれ本当ですか?」
慌てて代わりに聞いたのはアメリアだ。
今回は安心だと思っていたのに思わぬ方向へ進んでいく事態に顔が強ばっている。
「嘘言ってどーすんのよ。
昔っからの約束で一つしか手に入れられなかった時は父ちゃんにあげる事になってるのよ。
その代わりお返しも沢山くれるんだ♪」
ウキウキと弾んだ声で言われてもどーしようもない。
リナは声も出ない周りを気にせずお先にーと席を立って部屋に帰っていった。
「・・・・・・・・・・・さすがリナの親父さんだな・・・」
「・・・そうですねぇ・・・・・・」
リナの背を為す術もなく見送った4人はリナに倣って次々と席を立つ。
「俺も部屋に戻る」
「私も」
「じゃ俺たちも戻るか」
「達じゃありませんけどね」
「っっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっっのくそおやじ〜〜〜〜〜〜〜っっっ」
「きゃ〜〜〜〜〜」
「やっぱりこーなるのかよ〜〜〜」
そろそろとガウリイから離れようとしていた4人だがそうは問屋が卸さない。
固まっていたガウリイが殺気全開でゆらりと立ち上がる。
「落ち着けっ。
こんな所で暴れるなっ!剣を振り回すな〜〜〜〜〜っっっ!!」
「俺たちは関係ね〜〜〜っっ」
「ぎゃ〜〜〜〜」
「今度のホワイトデーこそあんな事やこんな事をしようと計画してたんだぞっ。
それが台無しじゃ無いか〜〜〜〜っっ」
「そんな事、親父に直接言え!直接!」
「愚痴ぐらい聞いてくれても良いだろっ」
「お前は愚痴を言うのにいちいち剣を振り回すのか〜〜〜〜〜」
別にこちらを斬り殺そうと考えていない事だけが救いの剣を必死で交わす。
当たれば痛いどころの騒ぎではない。
逃げるに逃げられず、かといってこちらから攻撃を仕掛けるには相手の腕を鑑みてリスクが高すぎる。
闇雲に振り回される剣を避けて逃げ回る、そんな状況にこの中で一番気の短いルークが切れた。
「っだ〜〜〜〜いい加減にしろ!
あんたこのままで良いのか?
良くないだろ?
俺たちだって良くないんだ!
あんたも男ならぐだぐだ言ってないでガンといってみろよ。
あんた達がこのままだと俺らにも度々迷惑が掛かるんだ。
世界の為、特に俺たちの為に早くくっついちまってくれっ」
本音と建て前が交錯しているが、何とかなって欲しい気持ちに嘘はない為その表情はそれなりに真剣だった。
その熱意が伝わったのかガウリイが大きく頷き気合いを入れた。
「・・・そうだな・・・
このまま親父の思惑通りなのは気に入らないな。
当たってくるぜ!」
「おお、当たって砕けてこい!!」
砕けたらイカンだろうとのツッコミは幸いどこからも来なかった。
砕けてしまった時のこと等考えたくも無いと言うのもあったが、まぁ大丈夫だろうと思われた。
リナがガウリイの事を憎からず思っているのは端から見ていても明らかだ。
そんな訳で3人は目線でお互いの意思を確認するとガウリイの後をこっそり付いていく。
いつもならば3人の気配に気づかないガウリイではないが、まるで気にする様子はなかった。
もしかすると気づいてはいてもそちらに意識を向ける余裕がないだけかも知れないが。
ともかくガウリイは3人が見守る中、リナの部屋の前に立ち運命の扉を叩く。
「リナ、ちょっと良いか?」
「何よガウリイ」
少々乱暴に扉を叩くガウリイに中から顔を顰めたリナが現れた。
ガウリイはリナを真剣な表情で見つめた。
「な、何よ・・・」
「リナ、オレは・・・」
ギャラリーが柱の影からぐっと身を乗り出した。
「オレは・・・・・・・リナのチョコが欲しいんだ〜〜〜〜っっっっ」
    「誰がそんな事を言えと言った〜〜〜〜っっっ」
    宿中に響き渡るほどの大音響に間髪入れずツッコミが入ったが、当事者二人は聞いちゃぁいない。
「ガウリイ・・・」
驚きに大きく見開かれていたリナの瞳がやがてゆっくりと伏せられた。
「でも・・・あんなチョコじゃ私の気持ちは表現できないから・・・」
    「えっ。あんなので良いのか?」
    「しっ!黙って下さい。今良いところなんですから」
「リナ・・・」
ガウリイは歓喜に震え、リナを抱きしめようとそっと手を伸ばした。
今までの辛酸辛苦が走馬燈のように脳裏を横切る。
ついに・・・
「って言えってとーちゃんが」
びしっ。
    「天国から地獄へ真っ逆さまか。むごいな」
    「・・・おやじやるな・・・」
    「ガウリイさん、生きていればいつかは良い事とがありますよ。保証は出来ませんけど」
これってどーゆー意味なのかなぁ。そう言って首を傾げる相手がいっそ無邪気なだけに憐れだった。
「くそおやじめ〜〜」
それが彼の最後の言葉になった。




合掌。










そして深夜。
「「「あ・・・(自分の分の)チョコ・・・」」」
「・・・」




戦いとはいつも虚しいモノだ。




おわり。



2002/2


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リナちゃんは
当然白。        少しも黒く無いなんて嘘だ。