お祭り〜G〜 |
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「ちょっとお連れさんを借りるわね」 そう言って宿の女将がリナを連れて行ったのはかなり前のこと。 所が、いつまで経っても帰ってきやしない。 古今東西、女の身支度に時間が掛かるのは仕方がないとしても、それにしても遅すぎないか? 今からリナと出かけると言うのに、酒を飲むわけにもいかないし。 暇を持て余したオレが様子を見に行こうかと思い始めた矢先に、女将がやってきた。 「子供達のお古だから、お兄さんには少し短いと思うけど、勘弁ね」 そう言いながら、女将が取り出したのは1枚の布。 もう大きくなった子供のものだと言うそれは『ゆかた』と言うここらの民族衣装らしいのだが・・・ 布をぐるっと身体に巻いて、ベルトを緩めに止めたら出来上がり。 簡単なのは良いが、あちらこちらが緩く開いていて、胸元などは丸見えだ。 まさかリナもコレを着るのか? 「大丈夫だよ。あの子のはちゃんと・・・まぁ、見てのお楽しみさ」 オレの表情から何かを感じたのか、女将は朗らかに笑いながらオレの肩を叩く。 勿論リナがどんな風になるのか、楽しみと言えば楽しみなのだが・・・ そんな言われ方をしたら気になるぞ。 「はいはい、すぐにわかるから下で待ってておくれよ。 あの子を連れていくからね」 またもやオレの表情をしっかりと読むと、女将はオレの背を押して部屋から追い出しにかかった。 お〜い。 その意味ありげな含み笑いが余計に気になるんだけど? 含み笑いの理由はすぐに分かった。 女将の言う通り階下で待つこと暫し。 「兄さん、待たせたね」 何だか得意げな宿の女将がこっちに歩いてくる。 その後ろに居るのは・・・ 紺色に赤・青・緑と鮮やかな草花が描かれた『ゆかた』を身に纏ったリナ。 いつも降ろしている、リナ自慢の髪もアップにまとめられている。 リナが華奢なのは今に始まったことではないが、『ゆかた』はそれを更に強調していた。 細い肩に、細い腰。 そして襟元から覗く、白い首筋。 本人もいつもと違う格好で、気恥ずかしいのだろう。 少し俯いたその項に後れ毛が掛かって、何てゆーか・・・ ひじょう〜に色っぽい。 その証拠にここに居る男どもの視線はリナに集中している。 「ガウリイ?」 はっ。 オレはリナの声でやっと我に返ると、席から立ち上がりリナに近づいていく。 リナの格好はお前達を喜ばせるためのものじゃ無いからな。 オレという存在に気が付いた大半の男達は渋々視線を逸らしたが、やはり中には往生際の悪いやつもいる。 じっとリナとオレを見つめ、二人の関係を見極めようとする。 「似合うじゃないか、リナ」 オレはさり気なくリナの肩を触ったりして、所有権を主張する。 リナはオレのモノなんだよっ。 これが決定打になってリナへの視線は殆ど無くなったが・・・ 最近はリナに向けられるこの手の視線が本当に多くなった。 理由はリナが綺麗になったからだ。 勿論リナが綺麗になった原因はオレなんだけどな♪ 大変だったんだぞ。 ここまで来るのは。 リナはまったく自分の魅力に自覚は無いし、お子様だし。 もしかして永遠に保護者状態のまま?って思った事も有るけど、今はオレとリナは晴れて恋人・・・ 「ガウリイ!ぼーっとしてると置いてっちゃうわよ」 「あ、リナ。待ってくれよ」 いつの間に移動したのか、リナが戸口でオレを呼ぶ。 オレは慌ててリナに追いついてその横に並んだ。 「さ、行こうぜ」 危ない、危ない。 まさかこんな格好のリナを一人で歩かせるなんて恐ろしいこと出来やしない。 「うっわ〜〜〜」 リナが感嘆の声を上げた。 「さすが宿の女将さんが言うだけのことは有るわね〜〜〜」 それも無理は無い。 どこを見ても、人ひとヒト・・・ 身長の高いオレでも圧迫感を感じるのだから、背の低いリナはもっとだろう。 女将の『ここらで1、2の祭り』と言う言葉は誇張では無かったってわけだ。 まぁ、もっともオレにしたらその方が好都合だけどな。 何たって、この人混みじゃあ・・・ 「うきゃぁ」 って、ほら来た♪ 人混みに加え慣れない格好をしたリナが、横手から人波に押されてバランスを崩す。 勿論そのまま転ばせるような無様な真似はしない。 キッチリとこの胸に抱き留める。 「あ、ありがと」 オレにしがみつく形になったリナが照れながら礼を言う。 う〜ん かわいいぞ。 もう少し抱きついてくれてたら良いと思うが、照れ屋なリナは慌ててオレから離れようとして――― どどどどどっ。 「っっ・・・」 またしても転びそうになったところを寸前で支える。 ナイスタイミングだ♪ 「ほら、リナ」 「へ?」 オレが手を差し出すとリナは一瞬の硬直の後赤くなり、視線が宙を泳いだ。 何を考えているか本当にわかりやすいな。 「この人混みじゃ、危ないからさ。 恥ずかしがってる場合じゃないだろ?」 こんなの只の口実だ。 そうでも言わない限り、リナは手なんて繋がせてくれやしない。 せっかく人が無い知恵を絞って考えていると言うのに、リナはオレの手を睨み付けたまま。 「どうしたんだ、リナ?」 「いいえぇ、別にぃ・・・」 別にって態度じゃないだろ? だがリナは何故かむっとした顔のままオレを無視してどんどんと先に行ってしまう。 「リナ、危ないぞ」 「大丈夫よっ」 オレの声に叫び返した瞬間、またもやリナは人に押されてつんのめった。 完全にバランスを崩している。 「リナ!」 ぱし。 リナが人垣に顔を突っ込む寸前、オレの手がリナに届いた。 「ほら危ないだろ?」 ニッコリ。 会心の笑みを浮かべれば、今度こそリナは反論しなかった。 よしよし、いいぞ。 オレはそのままリナの手を引いて歩き出した。 「あっちの方に屋台があるから、そこで一休みしようぜ」 続く |
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