Everyday
〜Epilogue〜







慣れてしまえばどんな驚くべき事でも、日常へと取って代わる。
程度の差こそ有れ、それは誰にとっても同じ事。




まず、目に飛び込んでくるのは大きな窓と、マホガニーの机。
そしてその机の上に散らばる書類。
慣れたとはいえ、頭痛が軽減されるわけではなかった。
視界の隅に写る金色を敢えて無視するとリナは出来るだけ事務的に事を進める。
「―――本日の会議は時間が変更になりまして1時からとなっています。
時間が繰り上がりましたので11時までに書類の決裁をお願いします。
後は・・・」
リナは手にした手帳に目を落とすことなく、淀みなくスケジュールを読み上げていく。
その手の中で手帳が音もなくひしゃげていった。

「・・・社長?」
「何だ」
応えはすぐにあった。
それもリナの頭上から。

リナは引きつる顔を理性を総動員して宥め賺す。
自分を落ち着かせるためにコホンと一つ咳払い。

「何をなさっているのですか?」

わからないから聞いたのではない。
わかっているからこそ聞いたのだ。

「只のスキンシップだ」

全身を細かく震わせながらのリナの問いに、事も無げにそう言うと彼はそれを再開した。
すなわち―――
リナを後から抱きしめてその髪に顔を寄せ・・・





「やめんか、このエロクラゲ!!!」






窓を震わせるほどの絶叫が社長室の外まで聞こえてきた。
「あいつらまたやってるな」
社長室のドアノブに手を掛けた姿勢のまま、ルークは呆れた顔で呟いた。
中で何が起こっているのか、その後の小気味いい音まで容易に想像できた。
このままここへ立っていると最悪、はね飛ばされる恐れもあった。
「後にするか」
とばっちりは御免だとドアの前から身を引いたルークの関心は、あっさりと一人の女性に移っていた。
銀色の髪をした女性が、こちらへ歩いてくる。
「ミリーナ♪もしかして俺を捜してるのか?」
「違います」
にべもなく言い放ったミリーナはアメリアにフロッピーを手渡すとサッと踵を返した。
「ちょ、ちょっと待ってくれミリーナ!」
慌てたルークがその後を追っていった。



「ゼ・・グレイワーズ専務。
お茶でもいかがですか?」
「ああ、もらおうか」
「はいっ!」
嬉しそうに頷いたアメリアはすかさずお茶を差し出した。
「うまいな・・・」
「ありがとうございます」
その言葉にお盆を抱えたアメリアの頬がほんのりと赤くなる。
「平和だな」
もう一口お茶をすすってゼルガディス。
「そうですね」とアメリア。
絶叫と泣き声が微かに聞こえる中、彼らは顔を見合わせてニッコリと笑った。



とどのつまり彼らにとっての日常が今日も始まるのであった―――


2000/12-2001/1
(言い訳言い訳)
エピローグの時点でリナちゃんとガウさんに「まだ」くっついてません(笑)

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