Everyday 〜Prologue〜 |
|
一瞬で日常が崩れさる。 「やだ、だめよこんな所で・・・」 駄目よと口では言いながらその声には甘い艶が含まれていた。 人気の無い公園の横に止められた車に寄りかかるようにして、一組の男女が別れを惜しむ恋人達のようにキスを繰り返す。 「ガウリイったら」 女の口からため息のような声が漏れ、潤んだ瞳で男を見上げる。 スポーツ選手の様に鍛え上げられた身体。 モデルのような端正なマスク。 スーツを着こなし、ネクタイを少しゆるめたその姿は女の心を捕らえるのに十分だった。 女の赤く塗られた唇が誘うように開き、同じく赤く彩られた指を男の頬に滑らす。 対して男はただ冷たく瞳を光らせたまま女にゆっくりと手を伸ばした。 その時――― 何か赤い物が男の視界を掠める。 ダン!! 車のボンネットを突き破らんばかりにして落ちてきたモノ。 リュックを背負った小柄な人影は大したダメージを感じられない様子で走り出す。 いや、走り出そうとした。 しかしそれは叶わなかった。 なぜなら、男の手がしっかりとリュックのヒモを掴んでいたから。 「離しなさいよ!!」 初めて男の表情に変化が訪れた。 少年と見紛うばかりの姿だがその声は少女のモノ。 面白そうに少女を見ると傍らで驚きの表情のままの女に声を掛けた。 「悪いがここでお別れだ」 「ちょ、ちょっとガウリイ」 すがるように伸ばされた手を避けるとその冷たい瞳のままに女を見た。 「オレの言うことが分からないのか?」 「!!」 女は紅潮していた頬を一気に青ざめさせ、少女を睨み付ける。 少女が全ての原因だと。 対して少女も始めは驚いた表情だったが、女の殺気に反応してか強い眼差しを返した。 にらみ合いはほんの数秒。 女は身を翻しヒールの音も高くその場を立ち去っていった。 後に残るは、男と男に捕まえられた格好の少女のみ。 「離してよ」 少女がぶっきらぼうに声を出す。 「嫌だね」 男はどこかおもしろがった声で返す。 「このボンネットどうしてくれるんだ?」 少女が視線を巡らせば、そこにはへこんだ車のボンネットが。 しかも、こんな高そうな車・・・ 内心冷や汗をたらしながら少女は言った。 「何よ、こんな所に車を止めてるのが悪いんでしょう」 「お前、衝撃を殺すのに車使っといて、何言ってるんだ」 ば、ばれてる・・・ 誤魔化せそうにないと判断すると、少女は作戦を切り替えた。 「絶対弁償するから。今は離してくれない?」 「嫌だね」 「嫌って・・・ほんとに今はまずいんだって。 お願いだから見逃して」 少女はうるうると瞳を潤ませ男を見上げた。 「どっちにしても逃げられないと思うぞ。 両方から人の気配がする」 「え・・・」 男の言葉通り道の両方からかなりの人数の足音と声が聞こえてきた。 少女の顔がサッと青ざめる。 「仕方ないな。大人しくしとけよ」 男は少女のリュックを車に放り込むと、少女をぐっと車に押しつけた。 「!!」 始めは何が起こっているか分からなかった少女だが、事の次第が分かり暴れ出そうとする。 「大人しくしとけって」 その長身とコートを利用して少女を隠すように包み込みキスをする。 「んん・・・」 暴れようとする少女を抱きしめて、男は容赦なくその唇を貪った。 どれほどたったか分からぬまま、少女が気が付くと周りから人の気配は消えていた。 「んな、何するのよ!!」 「匿ってやったんだから感謝して欲しいな」 「誰が感謝するかぁ!!」 顔を真っ赤に紅潮させ自分に食ってかかる少女に男は意地の悪い笑みを向けた。 「さ、後は弁償してもらうだけだな」 「う・・・」 「さっきは絶対払うと言っていただろう?」 「今・・今すぐは無理・・1・・・ 2ヶ月待ってもらえれば・・・」 少女がいきなり弱気になった。 「そんな言い訳通じると思ってるのか?」 「・・・」 「仕方ないな。身体で払ってもらおうか」 「か、身体ぁ?」 自分の身体を抱きしめて飛びすさる少女。 予想以上の反応に男はニヤリと笑みをこぼした。 |
|
2000/12-2001/1 ← 戻る 進む → |