Boundless future 5 |
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「……このバカっ!なに格好付けてるのよ! こいつは魔族なのよ!それも上級の。 そこらへんのちんぴらと訳が違うの。早く逃げて!」 あたしはリューリーの首を締め上げた。 リューリーも腕には自信があるようだが、魔族の本当の恐ろしさを分かってるとは思えない。 「いや、そー言われても」 リューリーは締め上げられながらも、頬を指で掻きながら困ったように顔を顰める。 「オレだってこんな奴を『お父さん ![]() 「はぁ?」 「さすがですねぇ……今のはちょっとした精神攻撃でしたよ」 「ふっふっふ……そうだろう?」 頭を押さえてよろけるフリをするゼロスを、リューリーが口の端だけで笑って返す。 こいつらさっきから何が何だか訳が分からないわよ。 ええぃ、魔法さえ使えれば二人まとめてぶっ飛ばしてやるのに。 「まぁ、冗談は置いといて」 白々しく笑い合っていた二人はスッと、笑いを納めて向き合った。 「どーしてもやるのか?」 「その方が面白そうですから」 「ゼロス、止めて!」 「リナ、下がって」 リューリーの前に出ようとしたあたしの肩を、リューリーがトン、と押した。 それだけであたしは数メートル後ろへ移動していた。 突き飛ばされたわけじゃない。勿論、肩も痛くない。 ……今の魔法!? 驚くあたしにお構いなしに戦いは始まっていた。 「おおおっ!」 裂帛の気合に銀の光華が踊る。 それを杖で受けていたゼロスが人に有らざる身軽さで、フワリと数十メートルを飛び距離を開ける。 あ。 まずい。距離を取ったら…… 「覇王雷撃陣!」 五紡星から伸びた雷がゼロスに襲いかかった。 えええっ!? そしてすぅっとアストラルサイドに消え、そして離れた場所に現れたゼロスに更に追い打ちが掛かる。 「烈閃牙条 数条の光の矢がリューリーから放たれ、ゼロスに向かって突き進む。 ゼロスも今度は避けずに、杖を平行に構えると受け止めるようにしてはじき飛ばした。 すごい……あのゼロスとやりあってるなんて…… 勿論、ゼロスが、人間 魔族が人間相手に本気を出すなんて自殺行為だもんね。 それにゼロスの避け方をみるとあの剣も魔法剣みたいだけど。 それでも…… 近距離には剣で、遠距離には魔法で。 剣と魔法を自在に操り、果敢に攻撃を仕掛けていくリューリー。 それらの全てを避け、弾き、受け止めるゼロス。 刃と杖を合わせ、顔をつきあわせ睨み合う。 「全く、やりにくい人ですねぇ……」 「そう思うんだったら、いい加減に諦めろ!」 吠えて杖を押し切ったリューリーが唱えた呪文は…… 獣王牙操弾 でもこれは…… 本来一つしか出ないはずの光の帯が、3つ、ゼロスを囲むようにその身体に迫る。 いける! そう思った瞬間、ゼロスが弾いた光条 あたしを庇うように戦っていたリューリーもいつの間にか遠く離れ、あたしとゼロスの間を遮る物は何も無い。 「母さん!」 誰かの叫び声が聞こえる。 あたしは……無意識にお腹を庇うようにして身体を縮めていた。 やっぱり、大事なんだこの子が。 今更分かっても遅いのかな。 ゴメンね。良い母親じゃ無くて。 「リナっ!」 ぐい。 腕を引かれ広い胸に倒れ込んだ。 「大丈夫か?」 「ガウリイ?どーして……」 「ミルガズィアさんに連れてきてもらった」 見ればガウリイの後ろにミルガズィアさんの姿があった。 「今のお前は普通の身体じゃないんだから、無茶しないでくれ」 「……聞いちゃったの……」 「ああ、無理矢理聞き出した。 最近お前の様子がおかしかったのはその所為なんだろ? 一人で悩むなよ。オレ達の子供だろ?」 「ガウリイ……」 「結婚しようリナ。 お前も子供もオレが守るから」 「ガウ……」 「いちゃついてる場合じゃ無いだろ」 どん。 あたしを抱いているガウリイの腕を押しのけて、リューリーがあたしを背後に庇い、ゼロスを睨み付ける。 「良くもやったな」 「いえ、今のは……」 「問答無用だ! ――闇よりもなお暗きもの――」 リューリーの声が朗々と辺りに響く。 これってもしかして重破斬 「ちょ、ちょっと……」 ゼロスの顔色がさっと変わった。 芸の細かい奴。 「混沌の海にたゆたいし金色なりし闇の王」 一言一句違わず、呪文の詠唱は続く。 まさかそんな…… 重破斬 あたし以外の人に使えるはずが…… 「待って下さ……」 狼狽したように手を振るゼロスをひたと睨み付け、リューリーは残りの呪文を唱えきった。 「我と汝が力もて等しく滅びを与えんことを! 重破斬 そして生まれた闇の球は、ゼロスの元へと転移し、闇の火柱が立ち上った。 !? 今の波動は…… がっ。 閃光、轟音、爆風。 それらを悠然と受けて佇む、リューリー。 ほんの小さなモノだったけど、あたしには分かる。 だってあたしの中に有る物と同じ…… 「あ、あんた……」 「あれ?ばれちゃった? さすがだね」 リューリーは悪びれた様子もなく、爆発した辺りを眺めて『逃げやがったか』なんて呟いている。 一方あたしはと言えば、手に入れた情報を整理するのに懸命でゼロスの行方を見届ける余裕もない。 リューリーが…… 「さてと。リナの知り合いと出会ったことだし、オレは失礼しようかな」 トン、と肩に剣を乗せリューリーはくるりと踵を返した。 あたしはその背に声を掛ける。 「……あたしがどうするつもりか聞かないの?」 「決めるのはリナだから。 言っただろ?オレはただの護衛役だって。 ――例えリナがどんな決断をしても恨むつもりなんて無いから」 背を向けたそのままで、リューリーはどんどんと歩いていく。 「そんな事言ってると、ゼロスのことを『お父さん ![]() 立ち止まって、やっとこちらを向いたリューリーはクスリと笑った。 「それだけは勘弁。あんなのでも一応居るしね」 「一応って……」 「ま、でもちょっとは見直しても良いかな。 ほんのちょっとだけね」 「また……会えるわよね」 「ああ、また。必ず」 ふうっと景色が霞んでリューリーの姿が遠くなる。 「絶対だからね!」 声を限りに叫ぶあたしにリューリーは軽く手を上げ別れを告げる。 ――暫しの別れを…… 「人間の娘よ。今のは……」 少し離れたところで佇んでいたミルガズィアさんがゆっくりと近づいてきた。 「――ええ。でも多分本当の事はもっとシンプルで良いんです。 あたしはこの子を信じてます。 そして、魔族にも――竜族にも邪魔はさせません」 「……そうか。なら仕方がないな」 「いや、そうかって……それだけですか?」 あたしが拍子抜けするほどあっさりとミルガズィアさんは頷いた。 「他に何がある?」 「……無理矢理閉じこめたりとかしないんですか?」 「我々は魔族とは違うと言っただろう。 第一、そんな事をして子供が歪みでもしたらそれこそ本末転倒だろう。と他のものにも伝えておく」 あ…… 相変わらず真顔だがその目が笑っていた。 おちゃめなじじいめ。 「ではな。何か有れば力になろう」 あたしの見ている前でミルガズィアさんは黄金竜の姿に戻ると空へと舞い上がる。 「えっと……何がどうなってるのか教えて欲しいんだが」 そして後には状況から取り残された男が一人。 あたしはクスクスと笑うとその顔を見上げた。 「がんばろーね、お父さん、ってこと♪」 また会えたね。リューリー。 そう言える日はすぐそこに。 |
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