Boundless future 〜ガウリイサイド〜 4 |
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オレを乗せたミルガズィアさんは街道から逸れ一直線に飛んでいく。 やがてキラキラと光る水面が見え、唐突に森が途切れた。 その森と湖の間に見えたのは誰かの背中に庇われているリナ。 そして・・・ゼロス!! 「結界を解いてくれ!」 大きく旋回して高度を落とすミルガズィアさんに聞こえるように大声で怒鳴る。 このままじゃ風の結界が邪魔で飛び降りれない。 男は・・・確かに良い腕をしていた。 男と言うにはまだ年若い青年と言って良いほどの年で。 手にした魔法剣―――どう見てもあれは魔法剣だろう―――を差し引いても目を見張るものがある。 手放しで誉めてやってもいい だが・・・あれではだめだ。 あの位置関係では・・・ 「くっ」 耳元で唸る風を聞きながら身を投げ出した。 間に合うかっ?! 「リナっ!」 掴んだ腕を引き寄せるのとほぼ同時に身体の脇を魔法の余波が走り抜けた。 よかった・・・もしこれが当たっていたら・・・ オレは腕の中のリナをしっかりと抱きしめた。 「大丈夫か?」 「ガウリイ?どーして・・・」 「ミルガズィアさんに連れてきてもらった。 今のお前は普通の身体じゃないんだから、無茶しないでくれ」 「・・・聞いちゃったの・・・」 「ああ、無理矢理聞き出した。 最近お前の様子がおかしかったのはその所為なんだろ? 一人で悩むなよ。オレ達の子供だろ?」 「ガウリイ・・・」 「結婚しようリナ。 お前も子供もオレが守るから」 オレは精一杯の誠意を込めてリナを見つめた。 お前は決して一人ではない。 オレとお前はパートナーだろ? 「ガウ・・・」 「いちゃついてる場合じゃ無いだろ」 どん。 ぐおっ。 オレは脇腹を押さえてのけぞった。 脇腹にはオレを押し退けた男の肘がめり込んでいる。 こいつ・・・ぜったいわざとだ なんでそんなこと言い切れるかって? それはこいつがリナに分からない様に笑ったからだよっ。 脇腹を押さえ文句を言い掛けたオレだったが呪文を唱える姿に戸惑った。 わき上がる風に髪を揺らし、良く通る声が辺りに響く。 途中少し瞳を伏せるのは何度も見たリナの癖。 精神集中をはかる為のもの。 そんな癖なんてオレが知らないだけで他の奴もするのかも知れないけど。 オレの戸惑いを余所に男の呪文は続く。 信じられない程の力が男の元に膨れ上がっていく。 「待って下さ・・・」 狼狽してあたふたとゼロスが手を振りまわすが勿論、誰も待つはずもない。 「重破斬!!」 巻き起こる、閃光と轟音と爆風。 それらを受け男は満足げに口の端を微かにあげる。 ・・・何かオレ似た様な光景を何度も見たような気がするんだが・・・ 気配でも無いし姿でも無いし。 何が似てるって訳でもないのに、男の姿がリナにダブって仕方が無い。 それに・・・そんな事は無いと思うんだが、オレに姿が似て無いか? しかもこの呪文はリナのオリジナルの筈だ。 すっかり混乱するオレに更に追い討ちが掛かる。 ゼロスが逃げた方向を眺めていた男がリナの方を向いた。 「さてと。リナの知り合いと出会ったことだし、オレは失礼しようかな」 肩に剣を担いだ青年がくるりと踵を返し、リナの声がその後を追う。 「・・・あたしがどうするつもりか聞かないの?」 「決めるのはリナだから。 言っただろ?オレはただの護衛役だって。 ―――例えリナがどんな決断をしても恨むつもりなんて無いから」 「そんな事言ってると、ゼロスのことを『お父さん ![]() 振り返らずに歩いていた足が止まり、男がリナを振り返る。 「それだけは勘弁。あんなのでも一応居るしね」 「一応って・・・」 「ま、でもちょっとは見直しても良いかな。 ほんのちょっとだけね」 「また・・・会えるわよね」 「ああ、また。必ず」 「絶対だからね!」 叫ぶリナには見えたかどうか知らないが、オレの目には男が消えるのがバッチリと見えた。 ちょっと待てよ、あいつからは人の気配しかしなかったぞ!? 「リナ、今の・・・」 男の消えた辺りを見つめるリナに声を掛けようとした所を、いつの間にか近くに立っていたミルガズィアさんに止められた。 「静かに」そのゼスチャーでオレは何をしにここへ来たか思い出した。 ミルガズィアさんとの話もまだ終わっていない。 話次第ではドラゴン達が敵になる可能性もある。 オレは暗い空を見上げると遠くにチラリと影が見えた。 もしかしてアレは・・・ 「人間の娘よ。今のは・・・」 重く深いミルガズィアさんの声。 リナの前にミルガズィアさんが立つ。 「―――ええ。でも多分本当の事はもっとシンプルで良いんです。 あたしはこの子を信じてます。 そして、魔族にも―――竜族にも邪魔はさせません」 それでこそリナだ。 オレはいつでも剣を抜けるように全身を緊張させる。 リナも子供も護ってみせる。 例えそれが魔族だけではなくドラゴン族も敵に廻すことだとしても。 「・・・そうか。なら仕方がないな」 「いや、そうかって・・・それだけですか?」 「他に何がある?」 「・・・無理矢理閉じこめたりとかしないんですか?」 「我々は魔族とは違うと言っただろう。 第一、そんな事をして子供が歪みでもしたらそれこそ本末転倒だろう。と他のものにも伝えておく」 あれ? ミルガズィアさんはドラゴンの姿に戻ると空へ舞い上がっていく。 「何か有れば力になろう」 そんな言葉を残して。 えーと・・・この場合オレの決心はどこへ?? 「えっと・・・何がどうなってるのか教えて欲しいんだが」 多分その時のオレはかなり途方に暮れた顔をしていたと思う。 いや、ドラゴン達が敵にならなくて良かったんだけれど。 何だか納得がいかないと言うか何と言うか・・・ かなり含みのある会話にある仮説は成り立ったが、出来れば否定して欲しい気持ちとそれ以外の気持ちが混じってぐちゃぐちゃだ。 オレの視線にリナは答えずクスクスと笑った。 「がんばろーね、お父さん、ってこと♪」 ・・・そうだな。 どうせ将来には分かる事だしな。 オレはリナをそっと抱き寄せてこれからしなければいけない事を考えた。 リナが動ける内に住む所も決めないといけないし、職も探さないとな。 まさか無職ってわけにいかないからな。 それから・・・リナの両親に挨拶にもいかないといけないしな。 ま、次に会ったときは「又会ったな」と手を振ってやるさ。 その日は意外に近そうだ。 |
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