美女と野獣5 |
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お互いが床を蹴り、魔法使い目がけて飛びかかりました。 ただ少しだけ・・・ ほんの少しだけ、姿が違う分、リナの方が早かったのです。 「リナ!」 精一杯伸ばされたガウリイの指がリナの身体を掠り、虚しく宙を掴みました。 喉元に食らいついている男を道連れにして、リナの身体が塔から落ちていきます。 ガウリイは躊躇うことなく床を蹴り、その身体を宙へと踊らせました。 ガウリイは今度こそリナの手を掴まえました。 しかし、見る見るうちに地面は迫ってきます。 せめてリナだけでも。 そう願い、ガウリイは気絶しているリナを腕の中に抱きしめ、衝撃に備えました。 と、その時、突然リナの身体が光り出しました。 「リナ!?」 腕の中で起こった光の洪水に、ガウリイは何が起こったのか分からないまま、リナを離すまいと腕に力を込めました。 やがて光が薄れ目を開いたガウリイは驚愕の声を上げていました。 いつの間にか叩きつけられるはずの地面にしっかりと立っていました。 そればかりではありません。 嵐だった空は何事も無かった様に晴れ渡り、辺りには穏やかな小鳥の声。 あれほど暗く陰鬱だった城は、輝かんばかりの美しい城へと変わっていました。 しかし、ガウリイはそれどころではありませんでした。 絶対に離さなかったと誓えるはずの腕からリナの姿は消え、変わりにいたのは栗色の髪の少女。 「リナ!?」 ガウリイはリナの姿を追い求めました。 しかし、幾ら探してもリナの姿は見あたりません。 「まさか・・・」 「ん・・・」 ガウリイの声に答えるかのように、腕の中の少女が睫毛を震わせました。 息を飲むガウリイの目の前でその瞳がゆっくりと開かれます。 心配そうに覗き込むガウリイの目にあの、赤が・・・ それは、彼が見間違えるはずのない色でした。 「本当に、リナなのか?」 ガウリイは何度も言葉を紡ごうとした挙げ句、これだけの事を震える声で聞きました。 「ガウリイ?」 ガウリイは未だ状況が飲み込めずに戸惑うリナを強くかき抱きました。 「お前を失ったかと思ったっ・・・」 「どーしたの?」 自分の肩口に顔を埋めるガウリイを慰めるように手を伸ばしたリナは、やっと自分の身体の異変に気がつきました。 「あ、たしの身体?・・・」 毛も生えていなければ、鋭い爪もない白い手。 そしてその手を使って自分の顔を触っても、ヒゲも牙もありません。 「・・・呪いがとけたんだわ! ねぇ、ガウリイ。呪いが解けたのよ!」 喜びに瞳を輝かせたリナはそこで固まってしまいました。 至近距離ではガウリイが優しい瞳でリナを見つめています。 呪いを解く方法は愛し、『愛される』こと。 ぼふん。 魔法にでも掛かったのじゃないかと思うほど、瞬時にリナの顔が茹りました。 「どうした?リナ?」 「ななな・・なんでもないわよっ!」 「そうか・・・ それにしても何で呪いが解けたんだろうなぁ・・・」 「・・・あ、あいつが死んだからじゃない?」 「あいつ??ああ、あの魔法使いか? 死んでないって。どうも逃げたみたいだぞ。 ―――どうしたリナ?顔が赤いみたいだけど」 「なんでもないってば」 今ですら近いのに、それ以上に顔を近づけてくるガウリイからリナは顔を逸らします。 「ふ〜ん。じゃあ、ゼルかアメリアにでも聞いてみよう」 「ダメダメダメ〜〜〜」 「なんでだ?」 「えーあーうー」 「ほらリナ、言ってみろ」 リナの真っ赤に染まった顔をガウリイが指でつつきました。 「・・・いぢわる・・・」 進退窮まったリナにガウリイが更に追い打ちを掛けます。 「今日はすごく傷ついたからなぁ。 もしかしたらその所為で、意地悪になってるかもなぁ・・・」 「う〜〜〜」 「リーナ」 「・・・スキだよ・・・」 小さく耳元で囁かれた声にガウリイが破顔しました。 「オレも愛してるよ」 やがて一つになった影は、離れる事はありませんでした。 いつまでも、いつまでも・・・ 「ほらほら〜、ゼルガディスさん、見て下さい。 ラブラブですよ♪」 「・・・わかった。分かったからそれ以上身体を乗り出すな。 見つかっても俺は知らないからな」 可愛らしいメイド服を着た黒髪の少女を、黒いスーツを着た銀髪の青年が必死で押さえていました。 こちらも無事に呪いが解けた、ゼルガディスとアメリアです。 但し今は頭に木の枝をくくりつけた、奇妙な格好をしていました。 「む〜、そうですねぇ。 愛し合うお二人の邪魔をするのは正義じゃありませんし・・・ そうだ、ゼルガディスさん。 私達はパーティーの準備でもしましょう♪」 「そうだな・・・」 その格好のどこに正義があるんだと、突っ込みたいゼルガディスでしたが、これ以上ここに留まって騒ぎを大きくするのはゴメンでした。 「行くぞ、アメリア」 「はい、ゼルガディスさん」 こうして、呪いの解けたリナとガウリイは末永く幸せに・・・ 「っきゃー!」 リナの悲鳴が辺りに響きました。 魔法が解けた時の衝撃の所為か、はたまた魔法使いと戦った時に付けられたのか。 リナの服の至る所が綻び、白い素肌が覗いていました。 リナは慌てて胸元を押さえ、自分を抱きしめる男に訴えました。 「ガウリイ、お願いだから離して〜」 「今オレから離れると逆に全部見えるぞ。 それにオレは格好なんか気にしないし。 たとえ姿が変わっても、リナはリナぢゃあないか♪」 「何かが微妙に違うぅぅぅ・・・」 リナはガウリイの腕から逃れようと暴れ出しましたが、その腕はビクともしません。 「アメリア〜、ゼル〜。 もうこの際ゼロスでもいいから、誰か助けに来なさいよ〜〜〜」 「誰も来ないって」 「離せ〜、この馬鹿力! クラゲ、変態、スケベ、けだものぉ〜」 「はっはっはっ。バカだなぁリナは。 今ごろ何を言ってるんだ? ちゃんとタイトルにあるだろ? 美女と『野獣』って」 「バカはお前だ〜〜〜〜〜!!!」 ・・・こうして、何だか呪いの解けていない様な気のするリナとガウリイは、概ね幸せに暮らしたそうです。 めでたしめでたし。 The End |
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