逆上がり上達論

1.南郷上達論〜寺崎賢一氏のご著書から〜
上がりも鉄棒運動の中の技の一つですから、技一般の学び方と共通するものがあるはずです。
技一般の学び方で参考になるのが、寺崎賢一氏の著書『「分析の技術」を教える授業』(明治図書)です。
寺崎氏は、武道家・南郷継正氏のお弟子さんです。
技の上達を考えるとき、さけて通れないのが南郷上達論だと思います。
では、寺崎氏の著書から、上達に関するところを引用させていただきます。

 南郷氏の発見した、<武道の三段階論>とはいかなるものか、解説を試してみたいと思う。
 T技の形を覚える
 U技化する
 V技化した技を使いこなす
 右の三つの段階は、相対的独立において存在している。つまり、三つの段階はしっかりとつながって連続しているにもかかわらず、ある限界の中では他の段階と関係なしに、区別し独立させて扱うことができるのである。
 この、本来つながって一つのものに見えるものを、あえて区別し、独立させたところに<上達論>の価値の一つがある。
 南郷氏の空手道場では、<技の形を覚える>までは<技化する>練習はさせてもらえなかった。ましてや<使いこなす>練習は遠い先のことであった。
 ここで言葉の解説をしておきたい。

(T)<技の形を覚える>とは何か
 空手は、<突き><蹴り><受け>などの基本技がある。その基本の形をからだに覚えさせる段階である。<軌跡を覚える>と言ったほうがわかりやすいかもしれない。からだが柔軟であればあるほど有利である。バレリーナは小学生などは、からだがやわらかいので、大人の男性よりもはるかに早くできる段階である。あくまで正しい軌跡を覚えることが目標であるから、力とスピードは入れてはいけない。(中略)
 なお、<技の形を覚える>の“覚える”とは、
 (ア)技の形(軌跡)を頭の中で正しくイメージでき、覚えていられる。
 (イ)技の形(軌跡)通りに肉体を動作させることができ、いつでもそれができる。(スピードと力は不要)
以上の二点のことを意味する。

(U)<技化する>とは何か
 <技化>の段階では、先に述べた(1)の段階の練習にスピードと力を加える。軌跡をはずれないように徐々に力とスピードをつけていく。力とスピードを一点に集中させるための肉体訓練である。<突き>なら千本突き、<蹴り>なら千本蹴りの練習がその代表である。この段階では、土台を固定した状態で練習する。(中略)
 では、<技化>した<技>とはどんな実態をもつものであろうか。
 例えば、<突き>を出そうと思ったら、一瞬思うだけで、他の一切の配慮の必要なく、スピードと力が一点に集中されてその技がでる、そういう段階の<技>のことを言う。<他の一切の配慮>とは、意識の下に拳を強く握るとか、意識の下に引き手を強く引くとか----といった意識の必要なしに、<突き>に必要なあらゆる要素が無意識の下に、しかも一瞬のうちに表現できる段階の<技>のことである。
 南郷氏は言った。
「<技化>されるまではどこまでも意識的に<技化>をめざさなければならない。<技化>していない段階では、意識を抜いたとたんにたちまち<人間的動作>に転落してしまう」---と。
 やがては無意識的に表現できるために、今はひたすら意識的に表現する。これは「二歩前進のための一歩後退」であり、「急がば回れ」である。三浦弁証法ではこれを「否定の否定の法則」という(『弁証法はどういう科学か』三浦つとむ著参照)。
 弁証法でいう「量質転化の法則」を習ったのもこの時である。意識的な練習が積み重ねられていくと、やがて質的変化がおこる。つまり、無意識にできるようになるのである。この「量質転化」が起こった時点---それが<技化>した時である。

(V)<技化した技を使いこなす>とは何か
 この段階では、<技化>した<技>を自在に使いこなせるように練習する。<約束組手>や<自由組手>がその代表的練習である。柔道でいう<乱取り>もこの段階である。(中略)
 ところで、この段階にも“使いこなすレベル”における<基本技>というものが存在した。前進しながら(動きながら)の<突き><蹴り><受け>、後退しながらのそれが、この段階での<基本技>であった。“下段払い逆突き”とか“逆突き前蹴り”といったコンビネーション練習もこの段階での<基本技>的存在であった。
 つまり、<技化した技を使いこなす>段階の中に、“使いこなすレベル”における<基本技>の
 T技の形を覚える
 U技化する
 V技化した技を使いこなす
の<上達論>が内包されているのである。
        (寺崎賢一著『「分析の技術」を教える授業』明治図書出版株式会社)

 長い引用になりましたが、上達について大変重要な示唆が書かれてあります。
 国語教育に興味のある方にはぜひお読みいただきたい一冊です。


2.南郷上達論を逆上がりに適用する
 時間さえかければ、がむしゃらにやっても逆上がりはできるようになるだろうから、南郷上達論を適用するまでもないのですが、ここはカッコをつけてやってみます。

T逆上がりの形を覚える段階
 くるりんベルトを使用する。 
 この段階で逆上がりの形を覚えるとともに、逆さ感覚や回転感覚、腕支持感覚を養う。 
 くるりんベルトを最長にして、3回逆上がりができたら、この段階は合格と判断し、次の段階に進む。

U逆上がりを技化する段階
 補助具には跳び箱と踏み板を使用する。
 逆上がりのテクニカルポイントである、「ふる」「蹴る」「引く」「巻く」を徹底的に意識しながら練習させる。
 跳び箱や踏み板の補助具を使わずに、自力で逆上がりができたときを合格とする。
 ちなみに、4つのポイントをまったく意識することなしに、ひょいと逆上がりができるようになったときが、技化したときである。

V技化した逆上がりを使いこなす段階
 これまでは同一の高さの鉄棒でやっていたのが、この段階からは高さの違う鉄棒に挑戦していく。

 この三段階論をベースにして上達のためのステップを考えました。

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