初めてムウと交わった日のことは、覚えていない。
当たり前だ、なにを考えてる?
俺も、あのひとも、"男"なのに、そんな、馬鹿なことあるわけない。
だけど、どうだろう。
鼻腔をくすぐる甘い花の香りが教えてくれる、そして俺は悟る、"この行為は初めてじゃない"。
雨が、風が、雷が。嵐となり間断なく夜を斬るように。
唇が、指が、舌が、あの人自身が。俺の心ごと、身体ごと翻弄していく。
霞み、飛ぶ意識の中でとらえた、瞳が。
壮絶なまでに美しくて。
俺を一瞬、正気にする。
なにも知らない子供のころ、夢見がちに指さしたオリオンのように。
不思議な光をたたえた眼差しに、、、溺れる。。。
-under the ORION-/zero
『きっと夢だ。あれは夢。
死線を彷徨う意識が、ありもしない幻覚を見せたんだ---』
もう何度目だろう、あれは夢だったのかと問いかけては、そうだ夢だと誤魔化し、本当に夢なのかと問うては振り出しに戻る。
こんな馬鹿げた考えから延々と抜け出せないのは。
脳裏に煌めく、瞳のせい。
思い返せば。
富士の樹海で7日間の昏睡から覚醒したとき、あのひとの態度に変わったところはなかったし。
俺は新しい生命の息吹く聖衣に急き立てられるように、戦いに戻ることで頭がいっぱいだった。
戦うことは恐くないし、その先にあるべき結末も仕方がないと思ってたから。むしろ、結末を望んでたから。
千、いや、万にひとつの勝機を得るため、自らの指で瞳を突いた。
そして、濃く深い闇が訪れた。
視覚が閉ざされたことで、研ぎ澄まされる感覚。
皆が俺を心配げに気づかう波長が、嫌というほど伝わってくる。俺は俺で、皆を気づかう。
治療を済ませ、現代医学では治る見込みのないことが分かると、一段と調子を落とした輪の中にいるのが居たたまれなくて。
五老峰での療養を勧められたことは、そんな雰囲気から抜け出すには救いだったから、すぐに承諾した。
そんなときだ、閉ざした瞳の中に、その瞳が浮かんだのは。
最初は驚いた。
1度目は聖衣の修復を乞うた、2度目は戦場へと見送ってくれた、ひと。
それだけなのに。
見つめると。なぜだろう、胸が苦しい。
何度も何度も、現れては消える瞳。
なにかを語りかけるように、揺れては透きとおる。
大事なことを忘れている気がしてならない。
確かに手にした何か、大事な、何かを。
俺は、どうした?
不意に心を去来した、突拍子のない可能性。
なにを考えてる?
あのひとに"抱かれたかもしれない"、なんて。
そんなこと、あるわけない。夢だ。
ならばどうして。
こんなにも胸裂かれ狂おしい瞳を、知っている?
見つめた気がする、息が触れる距離で、その星の輝きを。
そんなこと、あるわけない。夢だ、夢だ、夢だ。
自分に思いこませようとするたびに、胸を、えぐる、思い。
頭と心と身体が、べつべつの方向へ引っ張られるよう。
こんな気持ちは、生まれてはじめて。自分を持て余す。
あのひとなら答えられるのだろうか?
瞳に秘めた真実を。
あのひと、ならば。
俺の知らない俺を、答えられるのか?
熱病のような思いに突き動かされて。
五老峰へと連れ添う彼女の手を振り切って、ジャミールを目指した。
暗い闇の中で、ただひとつ光る星を追うように、迷わず、躊躇わず。
俺の、心と体を、ひとつにするため---、いまはただ、あなたの元へ。
-under the ORION-zero-20060126
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