礼儀正しく選んだ、体面ばかりの嘘つきな言葉よりも。

掻きむしるような胸の疼きと、侵食されて擦り減った心が、ただ素直に求め合って。

ふたりを、ベッドに沈める。再会は、そのようにして始まった。


熱病を、ふたりで、分かつ。夢はいらない、このままでいたい。


嘘つきな唇が、いらないことを問うより早く、互いを遮るものを脱ぎ散らす。

欲張りな耳が、いらないことを聞くより早く、互いが我を忘れて響く音だけに、夢中になろう。















-under the ORION-/half-
             甘い香り。衣擦れの音。肌の質感。鼓動と吐息。あなたと俺。















どうしてこんなに大胆になれるのか、この有り得ない状況を正さないのか。

浮かんだ疑問は、月夜に冷えた床に落ちた衣服と同じに、いまは無意味だ。

「.........っ...!」

戸惑いがちに触れ合った唇が、すぐさま続きを欲したから。

角度を変え、舌を絡め、歯列の裏を舐められて。
口づけだけで、もう精一杯。意識が霞んでいく。

空気を吸うことを忘れ、唾液を飲み込むことも出来なくて、咳き込むと。

それに構わず、あのひとの顔が降りていくのが分かって、止めようとしたのか進めてほしかったのか分からない。
けれど、目が見えていたなら見惚れるに違いない、優しい薄紫色の髪に指をかけ、両手で頭を押さえてしまった。

恍惚さを掻き立てられる、薄い笑い声が聞こえて。
心臓が、どくりと音を立てた。


あなたの熱さと重みと息づかいに、ひどく興奮して、ひどく安心する。なすがままの稚拙な反応を、喜んでくれてる気がするから。


仰向けの身体に散らばる髪が、くすぐったくて、身じろぐ間にも。
生暖かく濡れたあとが、冷えていく。舌が滑っているのだろうか。

鎖骨を過ぎ、胸の色の薄い周囲を舐められるだけで、別の一点に血液が集まっていくのが分かった。
胸の先をつままれると、まるで感電したかのように、連動した中心が瞬時に反応してしまう。
ひとしきり唇と舌とで、もてあそばれた胸の先は、感じるままに固く立ち上がって。
妖しい指に、引っかかれ、挟まれ、押し潰され、転がされ。


そのつど、波打つ身体は。

すべてが、あなたの思うまま。


名を呼ぶことがためらわれ、濡れた喘ぎ声しか出せない口を熱くふさがれ、深く、濃密に蹂躙される間に。
右手の親指が、へその窪みにかかる。
すると突然、なにかを思い出したかのように唇が離され。首筋から胸まで、蛇のような曲線を描いた舌が。
ぬめりと、へそに、埋められた。


陸に上がった魚のように、身体が跳ねる。


イヤだ、恥ずかしい、いつ洗ったのかしれない場所に、あのひとの舌が入り込んでいると思うだけで、一段と固くなる俺自身。
ぴちゃぴちゃといやらしい音が聞こえて、頭を押さえる両手に必要以上に力が入って、まるで、「もっと」と言ってるみたい。

快感が、快感を呼ぶ。
へそが心臓に代わって、血液を送り出してるような気すらしてくる。


捕らえられ、何事か分からずに、跳ね続ける魚が、ここに。


生きた舌とは別の思惑で太股を撫で上げ、俺の近くをさする右手の、その動き。
俺の手はそんなふうには動かないだろうけど、いつか、あなたに触れてみたい。

触れてみたい?
そんなことを思うなんて、どうしたっていうんだ。

ああ、それよりも。

掠めるだけなんて非道い、いっそ触れて、総毛立つよ。
全身が歓喜に震え出すのが止められない。もう、痛い。


自分の身体の一部が、男のカタチを成していくなど知らなかった。


自分自身が知らないソレを、限界まで育てられてしまう。
そんなこと。たまらなく恥ずかしい。
ああ、おかしくなる、そんなところ。
見えないのに、見たこともないのに、あなたの動きが分かる、ソレをどうして欲しいか、はっきりと。


お願い、溶け出すより、とろける前に。
指を添えて、食べる準備が出来たなら。


すぼめた唇で先端に誓いの口づけをして、きついくらいに両唇で挟んで、伸ばした舌で根本から味わって、歯を、あなたの犬歯をくびれた部分にとがらせて。


どんな味で、どんな感触なのか、少しの間、なにも考えずに楽しんで。

でも、困る。あなたに、俺の熱を受け止めてもらうなんて、出来ないから。


俺を熱く包んで行き来する、あなたの口唇の厚みと口腔の深さ。
抑え広げた太股に食い込む、美しく
整ったあなたの爪のかたち。
激しすぎる快感をやり過ごそうとシーツを蹴る、自身の足の指。

見えない目で想像してしまい、どうしようもなく自分を持て余す。

もう、待てない。もう、はち切れそう。

分かってるくせに、これ以上は誇張しないだろう俺を、放してはくれないの?
なんて意地悪、おかしくなる、もどかしい。
やりきれなくて、たまらなくて腰を振ると、さらに、ぬめりに捕らえられた。


濡れた悲鳴が部屋に響いて、自分の声で我に返る。少しだけ理性がよみがえる。

そう、俺は。たぶん、ううん、ぜったい、あなたが、好き。

好き、好き、好き。好きです。あなたが。好き。


あなたも俺を好きだと言ってくれるなら。
お願い、これ以上、確かめないで。

そう、一気にイッて。


「......ん...ぁあっ...!!」


自身を初めて撃ち放った快感の、その凄まじさに、目がくらむ。

見えない目の裏に、なぜだか五老の大滝から飛び散る飛沫を思い出した。
浮かんでは流れる汗のつぶに、虹が現れそうなくらい。そこかしこから、あなたへの愛しさが湧き出でる。


ごめんなさい、あなたの指を濡らしてしまったこと。

言葉にはならなかったけど。


胸を激しく上下させて、乱れた息と熱をやり過ごす間に、あなたが優しく、ゆっくりと、髪を撫でてくれたから。
優しさに胸が押しつぶされそうで、瞳の端から、言葉のかわりに愛を語る涙が流れていく。





この気持ちは、後戻り出来ない。

俺は、あなたが。

あなたを。

愛してる。










under the ORION-half-20060427
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