トーキョーデート・2・





種類のある服の中から、素材の良いシンプルな服を選んだら、同じような装いになって。
靴や小物だけが、ちょっと違うくらい。
黒を基調とした洋服と、はじめてみるジーンズをさらりと着こなすムウに、とても照れた。

ふだんのゆったりとした装いとは違う、その格好は。
抱き合ったときだけ分かるはずの胸や首筋、腰、太ももから膝にかけての、引き締まった線があらわで、困る。

照れ隠しに、前髪の真ん中だけを触る癖があるといわれたことがあって。
「だから、そこだけ伸びるのが早いのか?」
何度も揶揄された言葉だから覚えているけど、やっぱり触ってしまう。
どこを見ていいか分からなくて、泳ぐ視線を隠してほしいと思う。


その前髪に、ふわりと落とされた唇。

「紫龍、可愛い。よく似合ってますよ。また、一目惚れしてしまいました」

優しい声、繰り返し自分だけに届けられる、甘い告白。
視線を上げられなくて、ムウの腰骨あたりを巻き付けているベルトばかりを見ていた。

あなたこそ、よく似合ってる。さりげないのに、すごく格好いい。

「わたしは何度もあなたに一目惚れしているね」

一度だから一目惚れって言うんじゃないのか。
なんて強がりを言い返せないほど、許されるなら、着たばかりの服を脱ぎ捨てて、いますぐあなたと触れ合いたい。

でも、ここはジャミールじゃない。
それに、早く戻らなくちゃいけなくて。

頭では分かってるけど、ここに来てからの展開に、上手く消化できない気持ちを逃がし、落ち着きたくて。
ムウの履くジーンズのベルト通しに人差し指をひっかけて、そのまま肩口にもたれた。

---あ。良かった。変わらない、あなたの香りがする。

確かめるように何度も深く息を吸い込む俺の頭をポンポンっとなだめる仕種に、
俺がトーキョーに滞在するのを好ましく思ってないことなど、お見通しだと分かってしまった。


「ね、紫龍」

前髪を上げられ、

「なんだか妙な流れになってしまったけど。こんな機会、ほかにはないし...」

おでこに唇の、温かな感触。

「デートしましょうか」


.........デート!!!


耳慣れない単語に驚いて顔を上げ、ようやく絡む視線。
俺だって、それくらい知ってる。
デート!!!

「それって、その、こ、ここ、こここっ、恋人同士がする、あ、ぁい、あぃ、逢い引きのことか?」

喉から出てくる声が変だ。心臓の調子までおかしい。
だって、ムウと出会って暮らして数年が経つのに、あらためて言葉にされることのなかった、はじめての誘いだったんだ。
「わたしたちの場合、逢い引きじゃないと思いますけど」と苦笑混じりに訂正されたけど、顔が熱いし、気持ちが精一杯。


高揚する、その響き。
デート。こっ、恋人の!!
うん、いい。すごく。
そうだ、そうしよう。


「うん!うん、したい!」

このトーキョーで、あなたと、

「デートしよう」





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