・・・Happy together!
・・・part2〜羊師弟の恋愛困難あるいは、こんなん〜
・・・vol.4
しばらくそうして、互いの温度を感じて、たゆたって。
この1年、どうやら進展がない(らしい)シオンの童虎への恋愛事情に巻き込まれたのだろうと察したが。
いったい、どういう流れでムウがこれほどまで酒に呑まれる展開になったのか、紫龍には検討もつかなかった。
ムウは恋愛沙汰に好んで関わろうとする人間ではないし、まして今回の話を持ち込んだのがシオン。
通常なら、うまく切り抜けるであろうに。
「どうしてこんなになるまで呑むかなぁ......ムウらしくない」
一言くらい、ぼやいたって良いと思う。
「...か、ら...」
「え?」
胸の上で、にわかに覚醒した瞳に、紫水晶の輝き。
眠気を振り払うように大きく、頭を振って。
紫龍の香りを吸い込んで発した声は、甘美な響き。
「...ぃなら、教皇権限で......あなたの居住許可地を聖域にすると言われたから」
「......正気でなくなる......」
「軽々しく、あなたをわたしから連れて行こうとする者の心臓を、その場で裂いてしまいたくなる」
いつも、どれだけムウを好きか。どれほどムウしかないか。その感情の大きさに恐くなる。
日々増すばかりの穏やかな、しかし、狂気にも似た、異常な愛情を飼っているのだ、俺は。
この愛を奪われたら、失くしたら。その瞬間、正気を手放す覚悟は、とうの昔に出来ている。
「ムウ...」
あなたも同じ気持ちでいてくれたんだ。
どうしよう、......嬉しい。
だから。
過激な発言も、もう、愛の囁きにしか聞こえない。
「こんなわたしは、嫌い?」
自信なげに、ひどく苦しそうに寄せられた眉間に、胸を突かれた。
どうしてこんなに、あなたが愛しい?この愛はどこから生まれる?
あなたの眉間に、たとえ一瞬でも刻まれる辛苦の線を消すのは、自分だけがいい。自分じゃなきゃ嫌だ。
自分じゃなくなるのなら、誰が咎めたとしても知りはしない。息の根を止めてしまおうと、いま決めた。
だって、俺はあなたが、
「......好き」
形の綺麗な頭を胸に抱き締め、不思議な色をした髪を首筋から肩まで、何度も繰り返し、あやすように撫でた。
「一番、好きだよ」
望んだとおりの告白に、安心しきって睫毛を伏せたムウの呼吸が、ゆるやかに、深く、長くなって。
「世界で一番、好き」
継いで、くすぐるような小さな声で、耳元に届けよう。
「俺はあなただけだって、知ってるだろ?」
紫龍の細い腰を抱き締めていた腕から力が抜け落ちて、ずり下がる。微笑んだ口元は、ひどく美しかった。
「おやすみ、ムウ」
くちづけと、優しい声を降らして。
ふたり、まっすぐ。
やわらかで、あたたかな眠りへと落ちていった。
誰かの常識なんて、知らない、いらない。
ふたりでなければ、そう、そこで。
おしまい。